第34話

 警察に見つからないように路地裏から抜け出した陸とエントは、路地裏の側にあった小さな公園の中に入り。

「――――というのが、陸さんが鵺に絡まれていた時の私の行動です」

 陸は自分が鵺に襲われていた際に、エントが何をしたかという話を聞いていた。

「……そうか」 

 鵺を解体していたときの異様な雰囲気が、ただの錯覚であったとしか思えないエントのいつも通りの様子を見て、陸も普段の調子を取り戻し、呆れたようにため息を吐いた。

「それで、結局あの超能力的な力はなんなんだ? ……町の外から何か危ない兵器みたいなのを取り寄せたりはしてないよな?」

「はい、そんなことはしてません。あれは、このエントに元々備わっている力なんです」

「……まあ、いい」

 いや、全然よくないんだけどな? と、陸は自分自身の発言に心の中でツッコミを入れながらも、エントの力の詳細を知ることよりも、重要な話があったので、そちらを優先して聞くことにした。

「……エント、さっき君は、俺を助ける際に姉さんが許可したから力を使ったって言ったよな? 路地裏で陸って叫んだのは……」

「はい、私ではなく縁果さんです」

「……そっか」

 あれは見間違いではなかったか、と、陸は、自分の名を叫び、自分を心配してくれている縁果の顔を思い出し、心が温かくなるのを感じながらも。

「けど、姉さんは、またエントに全部任せて、心の奥に潜ってしまったんだよな?」

「あー……はい、また寝ちゃいました。縁果さん」

 そのまま戻ってきてくれないことに、陸は肩を落とした。

「だ、大丈夫です!」

 そんな陸の激しい落ち込み具合を見て、気まずくなったエントは陸を励ますために大声を出した。

「縁果さんはきっと、楽しいことをしたい、好きなことをやりたい、そして、今回のように大事な人を守りたいというような、プラスの思いが強くなれば、この地球で活動したいと再び思えるようになり、目を覚ますと、私は推測しています。というか、直感的に、なんか、わかります! 私と縁果さんは一心同体ですから!」

 いや、どう考えても二心同体だろ。と、陸は心の中で呟きながら、エントが自分を励まそうとしてくれていることを理解し、元気を出さなきゃなとは思った。

「――――」

 だが、心の奥底で眠っている縁果のことを考えると、どうしても縁果の部屋で見つけた、縁果が絶望に堕ちた証明ともいえるモノの存在を思い出してしまい、陸の心は沈んでしまう。本当に姉さんが帰ってきてくれるのか、それを陸は疑ってしまいそうになる。

「……一度、絶望の海に沈んだとしても、か?」

 だから、陸が、姉を、そして、自分を信じさせて欲しいと、そう思って上げた声に、エントは。

「――――ええ! それでもです!」

 根拠も確証もない、力強い肯定を示した。

 それが陸の救いになると信じて。

 そして、その思いは。

「――――」

 確かに陸に伝わった。

 エントの言葉を聞き、陸は姉を信じ、自分を信じ、己にできることをやると誓った。

 そう、今までは、家族助けなければいけない。という義務的な考えで陸は動いていた。

 だが、これからは違う。俺助けたいから助ける。という、強い意思のもとで、陸は行動するのだ。

「……エント、その右手、あんまり痛くないって言ったよな?」

「え、あ、はい。縁果さんが協力してくれたおかげか、負荷が思ったより少なかったんです。今は動かせませんが、朝には元に戻っていると思います」

「……その右手、少し握らせて貰って良いか?」

 そして、陸は縁果の右手を優しく握りながら、決意を心の中で声にした。

 

 何があろうと絶対に、俺のこの手で、姉さんを絶望から救い出す、と。

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