第32話
鳴き声は聞こえども幾ら探しても鵺の姿を見つけられなかったエントは、鵺探しを手伝ってくれている陸が鵺を発見、もしくは何か鵺の手掛かりになるようなものを見つけてないかを確認するために、路地裏で陸を探し。
「――――!」
その光景を目にした。
夜の闇よりも深い闇が、倒れている陸の身体に覆い被さっていたのだ。
状況から考えて、あの闇が鵺であることは間違いないとエントは確信しながら、獣の姿を想定して鵺を探していた己が無能を呪った。
もし、自分が最初から鵺があの姿であると想定していたら、陸さんは襲われなかったかもしれないと思うと、エントは自分の気持ちが激しく沈むのがわかったが。
エントの瞳には絶望の色はなく。
「――――」
まだ、挽回できるとエントは強い思いを込めた瞳を、陸と、陸を襲う闇へと向けた。
エントが縁果の身体に転送されてからまだ二日も経っていないが、エントはある程度なら、
故にエントは、今の自分であっても、あの程度の闇を振り払うことなんて造作もないと、己の、傑作機としての力を発動させようとした時。
『……もう身体を壊すような無茶はしないでくれ、頼む』
その陸の言葉がエントの脳裏をよぎった。
「――――」
『敵』を屠れるだけの威力を持った攻撃となると、昼にトラックの残骸をスキャンした時のような弱い力では済まないし、下手をしたら、陸を抱いてトラックを避けた時以上の反動を受ける可能性もあった。つまり、ここで力を使うということは、縁果の身体に負担を掛けないという約束を反故にするということになる。
「……」
陸の命を救うためとはいえ、陸が大切にしている人の身体にダメージを与えることは、やっていいことなのだろうかと、エントは悩んでしまった。止まってしまった。
一刻を争う状況で、その判断の遅れは致命的と言っても良かった。
エントが悩み続け、このまま時が進めば、間違いなく最悪の結果になってしまっていただろう。
だが、そうはならなかった。
何故なら。
「――――陸!」
此処には弟の窮地に悩みを抱くような姉は存在していなかったからだ。
あれ? と、エントは疑問を抱いた。今、陸の名前を叫んだのは一体誰だろうと。この路地裏にいるのは陸と自分、そして『敵』だけなので、陸の名前を呼ぶとすれば自分以外有り得ないのに、自分は一言も喋った覚えがない。
これは一体どういうことだろうと、一瞬だけエントは悩んだが。
「私であって私でない……まさか、縁果さん……!?」
すぐにその結論に辿り着いた。眠っているはずの縁果が陸の名を叫んだのだと。
「え? 腕が……」
そして、エントがその事に気づいた直後に、右腕がエントの意思とは関係なく、動き出した。
「……」
縁果が右腕を動かしていることをすぐにエントは把握したが、学校に肝試しに行ったときには、一時的にであるが、覚醒した縁果が身体を全て動かしていたのに、今は何故か中途半端な動かし方をしており、その理由がわからなかったため、エントは縁果のこの行動の意味を考えた。
「……もしかして、陸さんを助けるために私の力を使いたいけど、使い方がわからないということですか……?」
そして、エントが自分の推測を言葉にすると、顎が小さく下に動いたので、エントは縁果が陸を助けたいと思っていると認識し。
「――――」
それと同時に。
『――――力の発動は、今後、許可がない限り……』
エントは、自分が陸とした約束を思い出した。
「これは……、――――許可が下りたと判断します……!」
そして、縁果の後押しもあって、迷いが消えたエントは右腕を『敵』に向け。
「――――!」
その腕に創者が造りし傑作機エントの力を込めた。
そして、エントは特殊な装備が必要なく、エネルギー消費が一番少ない攻撃を選び。
「ライトニング・アロー……!!」
闇を撃ち抜く、音速の一撃を放った。
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