第24話
陸がエントを背負って歩き始めてから約二十分後。二人は特にこれといったトラブルに巻き込まれることなく、家へと着いた。
そして、茶の間でエントの足にこれでもかというほど湿布を貼った後、陸は再びエントを背負い。
「……」
父親を起こさないように、体重の掛け方を間違えると激しく軋む階段を細心の注意を払って上り、何とか音を出さずに二階に辿り着くことに成功した。
「……」
そして、陸は黙ったまま姉、縁果の部屋の前に立ち。
「……俺も入るぞ」
と、呟き、背負っている人物から拒絶の言葉が出てこなかったため、陸は縁果の部屋の扉を開けた。
そして、部屋に入って電気を付け、陸は何年ぶりかに縁果の部屋の中を見て。
「……なんだこれ」
そんな感想を零した。
縁果の部屋は二年半も引き籠もりの拠点であったというのに、とても綺麗に片付けられていた。
ある一点を除いて。
「何で本棚が倒れてるんだ……?」
どういうわけか部屋に置かれていた本棚が倒れており、その付近には倒れた棚に入っていたと思われる本などが散乱していたのだ。
「……姉、いや、エント、これはいつからこうなっているんだ?」
「え? ああ、それはわかりません、私が来たときにはもうこうなってましたから」
「来たとき……?」
ああ、自分をエントという存在と思い込んだ時のことを言ってるのか、と、陸は考え、それ以上、質問することはなかった。
……まあ、コンセントとか電気系統を巻き込んではいないから火事とかにはならないだろうし。
この件は後回しでいいな、と考えた陸は散乱している大量の本を無視して、そのまま縁果のベッドの前にまで行き、ベッドの上にエントを下ろした。
「……」
そして、陸はエントを見下ろし、予定していた通り……。
「……足、やっぱり、まだ痛むか?」
様々な質問をすることはなかった。
陸は力ない笑みを浮かべるエントをただただ心配そうに見つめ続けた。
「……はい、かなり痛いです」
「そうか……。……けど、朝には治りそうな感じはしてるんだよな?」
「ええ、おそらくは」
「それなら、今日はここまでにしよう。朝によくなっていたら、色々と教えてくれ。痛くて眠れないかも知れないけど、横になって眠る努力はした方がいいはずだ」
「……お気遣い、ありがとうございます」
「……それじゃあ、朝に」
そして、陸は色々と聞きたいことは全部、エントが元気になってから聞くと言い残し、部屋から出るためにエントに背を向けた。
「……」
そのまま陸は部屋の中を歩き、部屋を出ようとしたが、倒れている本棚付近に足を進めた時。
「……ん?」
陸は何かを踏みつけてしまった。
それは一冊の分厚い本だった。その分厚くて重い本は棚が倒れたときに散乱したと思われる他の本とは違い、棚から少し離れた場所にまるで投げ捨てられたかのように落ちており、その事が少し気になった陸はその本を手に取り。
「なんでしわしわなんだ……?」
その本の一部が濡れた後に自然乾燥してゴワゴワになっていることに気づき、首を捻った。
……本を読んでいる最中に飲み水を零した……って感じの濡れ方じゃないな。……唾液かこれ? ……読んでいる最中に寝落ちして、この重い本が顔を覆って、窒息しそうになって慌ててこの本を放り投げた……?
「……なんて」
そんな馬鹿なこと、姉さんがするわけないよな。と、陸は自身の妄想に苦笑しながら、一冊だけ仲間外れのようになっていたその本を他の本のある場所に置こうと考え、陸は倒れている本棚に近づいた。
「……ああ、これが原因か」
そして、倒れている本棚に近づき、陸はそこに壊れたカゴがあることに初めて気がついた。
……逆さにしたカゴを足場にして、本棚の上の方にある本でも取ろうとしたら、カゴが壊れてバランスを崩し、その際に本棚に掴まって、そのまま本棚が倒れたって感じか。
大きな本棚なんだからちゃんと固定しとけよ、姉さん。危ないって。と、陸は心の中で縁果に注意をした後、近いうちに固定用の金具を買ってきて、本棚を壁に固定しようと考え、本棚に金具を取り付ける穴があるかどうかを確かめるために陸はまじまじと倒れた本棚を見つめ――――
「…………は?」
陸の目が、倒れた本棚の隣に落ちていた、ソレを捉えてしまった。
「……なんで、これがここに……」
決して、ここにあるはずがない。――――否、決して、ここにあってはいけないモノを。
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