第7話
「……」
外に出る準備といっても、自分の部屋から財布と家の鍵を持ってくる以外、特に準備をすることがなかった陸は今、姉の縁果の準備が終わるのを玄関で待っていた。
約二年半ぶりの縁果の外出。それは陸の望んだことではあったが、今の陸の表情は冴えなかった。
その理由は、外に出掛けると決めた途端に、縁果が部屋着にしていた高校時代の体操着を着たまま、外に行こうとしたからだ。
男子高校生の自分が部屋着の半袖半ズボンで外出するのとは訳が違う。と、その行為に陸が待ったを掛けると縁果が。
『体操着というものは、需要があると記憶しているのですが?』
という頭の痛くなる発言をしたため、陸は自然な流れで頭痛に悩まされることになった。
「そうめんはわからなくて、二十歳の体操着姿に需要があるのはわかるって……」
どんな設定だよ……。と、縁果の別世界のロボット設定が更に訳がわからなくなったが、何にしてもその需要を満たすわけにはいかないと陸が縁果に部屋に戻って違う服に着替えてきて欲しいとお願いすると、縁果があっさりと所諾したため、若干拍子抜けしつつも、陸は玄関でおとなしく待っていた。
「……」
けれども、想像していたよりもだいぶ準備に時間が掛かっていることに不安を覚えた陸が、様子を見にもう何年も中を見ていない縁果の部屋に行くべきか悩んでいると。
「お待たせしました」
縁果の声と共に階段を下りる音が聞こえ、ようやく来たかと陸がため息を吐きながら、視線を声のする方へ向けると。
「――――」
そこには半袖の白のブラウスにジーパンという実に夏らしい格好をした縁果がいた。
「……? これもおかしかったりするんですか?」
そして、その姿を見て陸が硬直していると、縁果が疑問の声を上げた。
「――――あ、いや、何も問題はないよ。ただ……」
「ただ?」
「……何でもない」
そして、縁果の疑問を受け取った陸だったが、陸はその疑問に答えることなく、会話を終わらした。別世界のロボットを演じている縁果に、今、自分が思ったことを口にしたら悪影響を与えるのではないかと考えたからだ。
「……」
陸は、懐かしいな。と、思ったのだ。
今の縁果が着ている服は、縁果が高校三年生の夏休みによく着ていた服だった。
物凄く頭の良かった縁果は、大学は当然受かるものと家族も本人も思っており、その年の夏、縁果は特別講習や塾などには行かず、本屋や図書館によく遊びに行っていた。
そして、夕方に買ってきた本や借りてきた本と一緒に駄菓子屋で買ったと思われるお菓子の入った袋を持って帰ってきて。
『――――ん』
と、お菓子の入った袋を無言で陸に渡してから、自分の部屋に籠もる。それがその夏の縁果の日課になっていた。
……って。
と、そこまで昔のことを思い出していた陸はダメだダメだと頭を振り、思考を切り替えた。
過去に浸るのはまた今度。今はすべきことがあると陸は迷いのない瞳で縁果を見つめ、笑顔を作った。
「まあ、話は外に出てからしようよ」
「はい」
そして、陸は嬉しそうに微笑む縁果を連れ、外へと足を踏み出した。
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