第15話 住人が増えたよ!やったねヒry
魔王ヘイルの件から数日後。今日も俺は、塔の中で本を読んでいた。
「あ、これ、たーしーかー……」
読んでいる本の記述に、確か別の本に詳しく書いていたものがあったはずだと思い出し、一旦本を近くのテーブルに置き、1階の本棚の方まで、軽く翼を広げて降りる。
「よっと」
「……もう少し風圧抑えめにできませんか?ページが飛びます」
レイが本を抑えながら、文句を言う。
あの日に「来てみる?」と誘ったのは覚えているが、まさかほぼ毎日のように来るとは思わなかった。
一応、ハートフィルの王都からここまで、最短でも2日はかかる計算なのだが……。
「あ、ごめんごめん。ところで、ほんと毎日来るけど……村にでも泊ってんの?」
「いえ。
「なんかあった気がする」
一度読んだ本でも、もう一回読んでみるか……と思っていると、入り口の扉が開いた。
「あ、えっと、ただいま……です、先生」
「ん、おかえり」
片目が隠れる程の長さの銀髪に、気弱な金色の目の少年。いわゆる「村人の服」の上に、黒系の上着と薄い紫のマフラーを身につけている。
アクセサリーなどはほとんどなく、あるとすれば、マフラー留めについているひし形の紫の宝石くらいだ。
ヘイル・イェソド。ヘレテイールに憑かれていた少年。元・魔王ヘイルである。
「どうだった?」
「あ、えと……アップチュリンを貰ったです。お礼だって……」
「おっ、あとで剥くか」
紆余曲折あって、どういうわけか俺が面倒を見ることとなった。
いや、どうしてこうなったのかは理解できる。
まず、ハートフィル自体で暮らさせるのは難しいだろう。
なにしろ、ヘイルには記憶がない。一応、ヘレテイールに憑かれていた間のことは覚えているらしいものの、それは別だ。
その上、イブン王やテイファから聞く限り、失踪したヘレテイール王子と外見は瓜二つとのこと。あまり公にならない方が、レイ曰くハートフィルにも得だとのこと。
そうなると、基本的に辺境である森の中の村と塔くらいが根城とされている、しかも魔王である俺に預けたほうがいい、らしい。
それに、俺が預かる意味はもう一つある。
「手、洗ってくるで……ッ、ケホッ!」
「大丈夫か!?」
突如せき込んでうずくまるヘイルに、解毒を施す。
どうも、ヘイルは自身のスキルである【詩恩の毒】を若干制御しきれていないらしく、時折、自身の毒にやられてしまう。
その毒を俺は容易に除去できるのだから、俺の傍にいたほうがいいだろう。
毒を除去してやると、ヘイルは深呼吸をした。
「はー……あ、ありがとうです、先生……迷惑をかけて……うぅ」
「大丈夫ならいいって。とりあえず、手を洗ってきたらいいと思うぞ?」
「そう、しますです……」
ヘイルは表の手洗い場へと向かう。
ちなみに、当初ヘイルはかなり罪悪感を感じていたためか、ひたすらに怯えていた。
しかし、根気よく話し、別に殺す気とかそういうのはないと伝え、毒を治したところ、『先生』と呼ばれることとなった。主治医的な感じだろうか?
そうそう。時々、テイファもスキルを駆使して突然やってくる。
まあ。ともかく。なんだかんだと塔がにぎやかになった。別に悪いことじゃないし、特に気にしていない。
▼▼▼
数分後、アップチュリンをつまみながら、おやつの時間を過ごしていた。また突然やってきたテイファもいるため、紅茶のカップは4つ。アップチュリンはヘイルが貰って来たのと、もう一個俺のおやつ用を出してある。一人半個ずつだ。
「んー、おーいしーっ!」
「……ところでテイファ、ちょいちょい来るけど、仕事とか大丈夫なのか?レイもだけど」
「あたし?あー、あたしに来る依頼は、基本的に普通の冒険者じゃ太刀打ちできない
「私も、一応は宮廷魔術師という立場ではありますが、ほとんど形式だけです。仕方なく籍は置いていますが、正直研究とか自由にしてもいいという条件ですので」
「なるほど?」
もきゅもきゅとアップチュリンをたべるヘイルを横目に話を聞く。2人共、別に忙しいとかいうわけではないのなら、いいや。
「……あ、そうそう。ヒルフェさん。最近、この近くの地域で、
「あ、あの、その……
ヘイルは小さな声で尋ねてきた。『
「ああ、簡単に言うと凶暴化だな。仕組みとかは置いとくけど、条件さえ満たせば魔力を持つ奴ならだれでも起こり得る現象だ。まあ、魔物以外の条件はかなり厳しいからそう起こることはないみたいだけど」
「魔物でも結構稀なんだけどねー。まあでも、よく知ってたね、ヒルフェくん」
「結構歴史書とかに記録が残ってるんだよ。歪化とかは大概記録されてるぜ」
「へー……ん?」
ベルの音が鳴り響く。呼び鈴の音だ。
誰だろうか?村の子では多分ないだろうし、来るとすればイドラ村長だろうか。たまに魔導書を借りに来るし。
扉の方へ向かうと、ヘイルも一緒に来た。少し俺に隠れる形で扉の方を見ている。
誰だろうかと思いながら扉を開ける。
そこには、神秘的な雰囲気を纏った、束ねられた水色系をした髪の気怠げな中性な見た目の人物が立っていた。身長は俺よりも高い。俺、だいたい170cmほどはあるんだけどな……。
「えーっと、誰?」
「……貴様が、禁書か」
勢いよく扉を閉める。バターン!という音が塔に響く。
「先生、今の人は……?」
「知らん。けど、こう……イヤーな予感がしたから」
「嫌な予感、です……?」
「とりあえず、なんか菓子でも作るか!」
「お菓子?あたしも手伝うよー!」
「私は待っていますね。もう少し本を読んでいます」
「おい……我を!無視!するな!」
扉を開けて、水色の髪の奴が勝手に入ってきた。
はい、ふざけたよ。うん。
仕方がないし、話くらいは聞くことにしよう。どう考えても、お引き取り頂きたいけど……。
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