第28話 商人たちはテントの宿



時刻は3時頃。


リーオとかいうアホを大人に預けた後、再びフレッドと共に町を見て回る


「なあレイ、この町って宿がないって言ってただろ? この商人たちはどうするんだ?」


フレッドも貴族、そうゆう所はやはり気になる事らしい


「あー、それなら町の西側の外れにテント群を設営してあるんだ、仮の住居として過ごせるようにね」


「へぇー、そんな事してんのか」


「年に1回の祭りのためだけに宿屋は建てれないからね、管理が大変だしさ!」



本当はあった方が良いんだと思うが、そのためには、定期的に商人が来たいと思うような場所にしないとちょっと無理だからな……



「テントと言っても、大きなやつだからそんなに不便はないと思うし、なんなら行ってみる? 商人の話も面白そうだし」


「お!それは確かに面白そうだ! 俺たちの知らない事も、いろいろ知ってそうだしな!」


ーーーーーーーーーーーー


「おや? レイモンド様じゃないかい!」


俺たちがテント群を見に、西の外れへ向かっている途中、エルサーラに呼び止められた


「どーも」


エルサーラがフレッドの事を奇怪な目で見るので、紹介しておく。



「こいつはフレッド・オルレイン 、一応貴族の息子だけど、俺と話す時みたいにラフでいいよ!」


「おい!それは俺が言うセリフだろ!」


こうゆう冗談が言い合えるのも、仲がいい証だろう、シンディー夫人が言っていたが、フレッドはぼっちらしいからな……あれ? 俺もぼっちだったのか?


1人でいても全然平気、むしろ一人の時間がたくさん欲しい!と思うおれは、ぼっちウェルカムだったから、気づかなかった。


「雑貨屋をやっとるエルサーラじゃ、この町ではグランマと呼ばれとる」


「フレッド・オルレインです、どうぞよろしく」


でもエルサーラが雑貨屋以外の場所にいるの、初めて見たかも


「ばあさんはどこか行く予定だったの?」


「ああ、収穫祭には、毎年私の古い友達が、商人としてくるんでね、そ奴に会いに行くんじゃよ」


お? エルサーラの古・い・友達ということは、もしかしてエルフなのか?


「なら西の町外れに行くところ?」


「ああ、あそこで待ち合わせとる」


エルフの商人が売るものなんて、気になるにきまってる!


俺にとっては、エルフなんてゲームや漫画の世界の住人だったからな、色々聞いてみたい!


「なら一緒に行こうよ、俺たちもテント群に行こうとしてたんだ! それに、古い友人って、故郷が同じなんだろ?」


「ふふ、あんた達からしたら珍しいかい?」


「それはね!」


「おい、珍しいってなんだ?」


「ああ、それは行けばわかるよ」


エルサーラも合流して、3人で西の町外れへ向かうことになった


フレッドには、エルサーラの正体をまだ言わない!


エルサーラがエルフと知った時のフレッド反応が、ふふっ、今から楽しみだな!


ーーーー


「あ、そう言えばアンタに言われてた、パスタの乾燥、上手くいったよ」


まじか! 1ヶ月くらいしかたってないだろ、もっとゆるくやってると思ってたけど


「もう出来たの? 早くない?」


「まぁね、やってみたら意外と楽しくてね! 」


エルフには、「工芸や芸術を極めるものが多い」って、まえにエルサーラが言っていたのを思い出す、


なるほど、長寿のエルフ族は、楽しいことに飢えてるのかもな


明日にでも、ジュードと一緒にボードゲーム売り込んでみようか


「レイ、それはなんの事だ?」


「パスタの麺を乾燥させて、旅先とかでも茹でればすぐに食べられる様な物を試作してもらってたんだよ!」


「なんだそれ、そんなもの旅の食事と軍の兵站へいたんが、ガラッと変わるぞ!」


旅の方は分かるが、そうか、軍のこともあるのか。


日本では、一般生活をおくるのに、兵隊、軍隊の事を考えることなど無かった。


せいぜい救難活動のニュースくらいしか見たことないから、全然考えてなかった


「フレッドはどんな風に変わると思う?」


オルレイン家は辺境伯家、国境を守り、他国からの進行を防ぐ役目を負っている家の1つ、5歳でも、その手のことは教えられるはずだ


「ちなみに、保存もかなり効く、乾燥した場所に保存しとけば、1年は持つと思うよ」


地球の乾燥パスタは確か、ちゃんとした保存方法で、36ヶ月、つまり3年が賞味期限だったはずだ。


保存技術がままならないこの世界でも3分の1は持つだろう


「それはとんでもないな、地上軍はもちろんだが、海軍は相当楽になる、何しろ食料の補給が少なくて済むからな」


確かにそれもそうか、今までは、小麦粉を持ち込んで、その場で練って焼いて食べてたみたいだからな


「そっか、まぁこれを売る気は無いから、あんまり変わらないとは思うけどね」


戦争形態を変えるとか、怖すぎなんですけど。


俺は田舎生活を満喫したいだけなんだ!


レイモンドは、乾燥パスタだけは、売らない!と固く心に誓うのであった



「レイがその気なら仕方ねーよ」



ふふ、出会って数日だが、フレッドのこの言葉は信用できる


5歳でも、意外と男だからなコイツ!



「何ニヤニヤしてやがる!」


「別になんでもぉ〜!」


頭は悪そうだけどな!


ーーーーーーーーー


「これがテント群かよ! こんだけ並んでりゃ壮観だな!」


着くなりフレッドがそんなことを言うが、その気持ちは分かる


テントと言っても、キャンプに使うようなものではなく、モンゴルの放牧民が使うゲルのような、かなりしっかりとしたものだ


それが50張りほど並んでいるんだから、フレッドが壮観というのは間違いない


「このテント全部に商人たちが泊まってるんだ、領一の祭りは伊達じゃないな」


エルサーラに案内され、俺たちは1つのテントの前まで来ていた



「おーい、エルタニア!! 今年も来てやったよ!」


エルサーラがテントに向かってそう言うと、テントのドアがゆっくりと開き、絶世の美女が姿を表した


「久しぶりねエルサーラ…」


エルサーラがエルタニアと呼んだ女性は、エルサーラの隣にいる俺とフレッドを見て、目を点にしてあんぐりしている


俺の横にいるフレッドの方を見ると、こちらもエルタニアと同じような表情をしていた


「く、ふふ、ふぁっはっは!」


必死に笑いを堪えようとしたが、ダメだったか。


フレッドのこのアホ面ときたら、笑わずにいられん!



「ふふっ! なんだいエルタニア、その顔は!」


どうやらエルサーラも、友達のアホ面を見て、爆笑しているらしい




はぁー、お腹痛い!

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