第25話 収穫祭の始まり


頭に大きなコブを作りながら、朝食を食べ終えて、皆でまったりとしていた


「ハッハッハ! 坊主! 女性には優しく接しないとダメだぞ!」


「ええ、怒らせてもろくな事はありませんからね」


「「ちょっとアナタ、それはどういう事?」」


「テオドール? アナタ私以外に優しくする女性がいるの?」


「気になるわよね〜、ね?エドワード?」


「おいおい、それは言葉のあやと言うか、俺が愛するのはアイラだけだ!」


「シンディー、私は君に優しくするだけではいけど、それは君を信頼してるからだよ? 」


「「ふふふっ! そんな必死にならなくても、冗談よ!」」


うん、女性怖ぇ〜、絶対に冗談じゃなかったろ!



この人たち、こんなのが日常なのか? 絶対に疲れるだろこんなの



朝食後のお茶の時間にまったりと?過ごし、部屋に戻って、一昨日のピクニックの時に拾っておいた石を磨く


「まあ、せっかくの兄さんの婚約式だからね」


この石は、薄い緑と赤が混在する、何とも変な石なのだ


これをしっかり磨けば、翡翠ひすいみたいに綺麗になると思うんだよね


コンコンッ

「レイ? もうそろそろ準備しなさいね? 行くわよ!」


な、もうそんな時間か、石磨きに夢中になってしまった!


いや〜、何とな〜く石を磨き続けるのは中々に楽しいものだったのでついね


俺がチャチャッと着替えて下に降りると、フレッドがうずうずしながら、リビングを歩き回っている


「フレッド、そんなに楽しみなの?」


こいつそんなに楽しみなのか、ま、今年は俺も打ち合わせしたから、楽しみにしてもらうのは嬉しいが


「おう! 毎年この時期は、やる事ねえからな!」


なるほど



「よし、ニールとクララ嬢の準備も出来たみたいだし、そろそろ行こうか!」


父さんがリビングに入ってきてそう伝えると、一同が一斉に玄関へいく


アイデルフ家の馬車に、兄さんとクララ嬢が2人きりで乗り、俺たちは、メルヴィス家の馬車と、オルレイン家の馬車に分乗して、ポレオ町まで行く


「いよいよ収穫祭だな〜」



ポレオ町はすぐそこなので、馬車で行くと、数分で着いた



まずはメルヴィス家の挨拶から始まるので、父さんと母さんが先に馬車から降り、町長の案内で、町の広場にあるステージへ案内されていく


その後に続いて、俺と姉さん、公爵、辺境伯家の人達もステージの右手のスペースへ移動する


「おい! あのお方達が、貴族様か?」


「えらいべっぴんだな! ウチのとはあれぇ違いだなー」


「しかもあの方たちは、メルヴィス家より遥かに地位の上の貴族様なんだろ?」


「ああ、最近はよく来てたレイモンド様とは、纏うオーラがちげーな! アイテッ」


俺たち一行がステージの右手正面に行くと、町の人達も大騒ぎで野次馬している


そんな中、余計なことを言う人がいたので、サイコキネシスで、小石をぶつけておいた


ちなみに、兄さんとクララ嬢は、馬車に乗ったまま、ステージの裏に通されている


大騒ぎの中、父さんが手を2回パンパンッ!と、鳴らすと、場が静まる


「皆、今年もこの町は豊作だったし、自警団のおかげもあって、獣や魔物に襲われる事も無かった、皆良くやってくれた! そんな皆への労いのして、今年も収穫祭を執り行う!」


そう言うと、町全体が揺れるくらいの大きな完成が響く!


例年通りならこれで始まるのだが、今年は少し違う


父さんが右手を胸の位置まで上げ手を出すと、喧騒がピタッととまり、静寂に包まれる


「それと、まぁ皆も聞いているだろうが、この度、ウチの次男であり、将来の領主であるニールが、縁あって婚約する運びとなった!

お相手はアイデルフ公爵令嬢、クララ・アイデルフ嬢だ!

2人の婚約に伴い、今日は収穫祭と並行し、2人の婚約式を同時に執り行う! 皆!今年も大いに盛り上がり、

来年も働くために大いに食って、飲んでくれ!」


父さんが、まるで戦場で士気を上げるかのように演説すると、さっきよりも大きな喧騒が、この町を包む



「すっげー! これが収穫祭かよ! 」


俺も、周りにつられてテンションが上がり、そんなふうに言ってしまった


ーーーーーーーーーーーー


「ここに、2人の婚約を正式に認め、公表する。」


先ずは、兄さんとクララ嬢の婚約式がとり行われた


まぁ、婚約式と言っても、こんな田舎町じゃ豪華なものには出来ないため、着飾った2人がステージ中央に立ち、公爵が婚約の宣言をして、兄さんが跪きクララ嬢の手をとり、甲にキスをする


6歳にして、あまりにも立派にクララ嬢をエスコートする兄さんの姿は、滅茶苦茶かっこよかった



それ見ていた町の人たちも、皆


「おめでとうございます!」


「おめでとうー!!」


と、兄さんたちを祝う


中には泣きながら祝いの言葉を述べる者までいた



そんな慎つつましやかな婚約式を終え


俺はフレッドと共に、収穫祭へ繰り出す


「すごいなレイ、規模は小さいが盛り上がりが凄い!」


「ああ、ほんとだな」


目の前の光景は、何だか夢のようで、町中が笑顔に溢れ子連れの親子が屋台のピザを美味しそうに頬張り、行商人が、色んなものを売り買いしている


「本当に良い町だ、ここは!」


そんな言葉が、大きな声で俺の口から溢れてしまった


「レイもそんなこと言うんだな!」


フレッドも同じ感想をいだいたらしく、満面の笑みで俺の背中を叩いてくる



俺たちは、宛もなく、祭りの雰囲気を楽しみながら歩く


この時期は、領外から多くの商人が訪れる、理由は簡単で、収穫祭をこの時期にやるのはうちくらいだからだ


普通は、麦の収穫時期である、6月を終えた、7月の初めにやるのだが


うちでは何故か、この時期にやる


周りは冬支度を始め、商人も稼ぎが多くなるので、この収穫祭は、外貨を獲得する数少ない機会なのだ


歩いていると、メルヴィス家御用達の行商人、ジュードがいた


「ジュード!」


「あ、レイモンド様じゃないですか、ニール様の婚約、おめでとうございます!」


そんなことを俺に言われてもね、ま悪い気はしないから、接待としてはいい手なのか?


「ジュードも来てるんだね」


「はい、毎年来てますよ! でも今年は公爵と辺境伯も来るから、張り切ってるらしいですね!」


「うん、まぁリバーシとピザのイベントをやるだけだけどね!」


「リバーシといえば、ボードゲーム!あれ凄いですよ! 利益がちょっとえげつないくらい出てまして、先日は国王に特別製のやつを献上しましたよ」


国王? そんなことになってるの?


「利益が出るのはお互いにとっていいことだけど、俺の名前はあんま出さないでね?」


ただでさえ跡取りが公爵令嬢と婚約したんだ、あまりに目立ちたくはない


「はい。ぞんじておりますよ! あ、それと、以前言われていた砂糖の件、上手く行きましたよ!」


「本当にっ!? さすが勢いのあるジュード商会!」


この世界、砂糖はかなり高級なんだよな


日本にいたら、普通にありふれたものだったから、甘いものが恋しいよ


「ボードゲームの売上のおかげですけどね、継続的に届けさせていただきます!」


「ほーい!」



これでできる料理が一気に広がったな!


「レイ、顔やばいぞ!」


おっと、フレッドがいるんだったな



収穫祭はまだまだ始まったばかりだ。

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