第421話 松尾家の秘密 ~見守り~

 ホテルのロビーでばあちゃんと別れたあと、俺たち3人はそのままホテル内で話すということはできなかったのでホテルを後にした。

 何故ならあの後すぐに数人のお客さんが入ってきたためだ。なので、宿泊ではない俺たちは邪魔にならないように外へと出たという感じだ。


 そして、とりあえず大学前駅に戻るにしても一度病院の方へと戻る必要があったので、ホテルから再度病院へと向かいつつ3人で並んで歩いていた。

 ちなみに現状俺が真ん中で2人。結崎。長宮さんに挟まれながら歩いている状況だ。ナニコレ?である。

 あと、無駄に――1人にぎやかである。


「ってことで、後で荷物持って松尾君ところ行っていい?」

「――意味が分からん」


 ほんとそれ、意味が分からん。

 ちなみに声の発生源は長宮さんである。そして今は独り言?なのだろうか『これなら1週間くらい自由じゃん。理由もちゃんとあるし。よしよし』などと何か言っているが――もう不安しかない。

 不安しかないので、こういう時は長宮さんの友人に頼ろうとしたが――。


「――奈都が暴走しているから私がちゃんと見てないと。うんうん」

「……こっちはすでに自分の世界か」


 もう1人。結崎はにぎやかな長宮さんとは対照的に、隣を歩いてはいるが。何やらこちらも良からぬことをぶつぶつとつぶやきながら歩いていた。もしかすると、今長宮さんが俺に話しかけたことも、自分の世界に入っていて聞こえていなかったかもしれない。


「松尾君?聞いてる?」

「ノー」

「ちゃんと聞いてよ」

「ノー」

「松尾君が壊れた?」

「そりゃ壊れるよ。意味わからないままいろいろ進んでるし」

「えっ?ざっくり言えば、松尾君ところのおじいちゃんが骨折しました。おばあちゃんはお世話のために近くのホテルにしばらく住みます。そして家は松尾君しかいないから――様子を見てくれると助かるって、おばあちゃんに頼まれちゃったから。この後の予定を話してるんだけど?」

「――すらすらといろいろなことの説明をどうも。って、ばあちゃん何を勝手にいろいろと話したのか――」

「ちなみにゆえも任されて元気にうなずいてた」

「――はぁ」


 その光景はなぜか脳内に浮かんだ俺だった。

 そもそも結崎とばあちゃんは早い段階で打ち解けていたというか。ばあちゃんが今まで結崎のことをかなり気にしていた。結崎もお礼――というのか。何か頼まれたらそりゃ即返事するだろうな――と。

 にしても、これはこの後どうなるのだろうか?頭痛がしてくるよ。

 そうそう今話題に出てきた結崎は『あっ、制服とかも持っていった方がいいよね――うん。結構な荷物になるかな』さらに1人で話を進めていた。いや、勝手に決めている?何?結崎住む気?ってか、長宮さんもなんか――住む気?


「えっと、長宮さん。結崎が返事してくれそうにないから一応聞くけど――」

「うん」

「何しようとしてる?」

「えっ?そりゃ、松尾君が1人で餓死しないように見守り――っていう理由で、しばらく自由に過ごせそうな場所があるから。この後すぐにでも乗り込む予定」

 

 とんでもないことをサラッと言ってくれる長宮さんだった。


「やめて」

「いやー、でもおばあちゃんに頼まれたからね。うんうん」


 ニコニコの長宮さん。これは――あれだろう。門限?とかは長宮さんのところあるのかは知らないが――ないような気もするが。今までの雰囲気的にでも、今回はあれだ。松尾家からのお願いというか――もしかすると証拠だせ。みたいなことをもし長宮家から言われたとしても。ばあちゃんがいるというか。とにかく、長宮さん自由を手に入れたという状況か。なんでこんなことに――長宮さんの両親許可しないで――って、俺全然接点内から何も言えない……。


「――えっと……キャンセルとかは?」

「お断りー。だって、自由ってことでしょ?めっちゃ楽しそうじゃん」

「――もうだめだ」


 一応確認したがダメらしい。長宮さん羽目を外して?楽しみたいらしい。いやいや何故うちで――まあじいちゃんが怪我したのが始まりか。あれ?でもその怪我をする理由を作っちゃったのは――いや、でも今更過去のことを思い出してもか。

 もう仕方ない。こういう時は――何とかして帰ってもらおう。


 ……かなり。ほんととてつもなく難しい気がするが。


 そんなこんなで、そのうち2人とも段差などにつまずくのではないだろうか。とも思えるが――どちらかがズッコケるようなことは今のところ起こらず俺たち3人は病院近くまで歩いてきた。

 余談だが。結崎は一度もこちらの会話に入ってくることはなかった。

 もう何なの、この2人である。


「あれ?もう病院?」


 すると、病院前のバス停近くにやってきたときやっと結崎が現実世界に戻って来たらしい。


「――ですね」

「えっ。えっと――松尾君なんか呆れてる?」

「めっちゃ」

「えっ!?」

「まあゆえがずっと無視していたからねー」

「えっ……えー!?嘘。ごめん松尾君何か話しかけて――いた?」

「ほんと結崎聞こえてなかったのか。って、バスはまだ来ないみたいだから――結崎もちゃんと話そうか。まあ長宮さんとちゃんと話した気はしてないけど――」

「ちょちょ、松尾君ちゃんと話したじゃん。今夜からよろしくって」

「えっ?ちょ松尾君?どういうこと?」


 本当に俺と長宮さんの話を聞いていなかったらしい結崎が少し慌てるが――俺は知らん。

 そして、呆れつつ結崎ではなく。ちょっと勝手に話を進めていた長宮さんに返事をした。


「長宮さん。今夜からよろしくはちょっと待とうか」

「えー、いいじゃん。今更じゃん。大丈夫ゆえとの邪魔しないから」

「いや、そういうのではなくてですね」

「ちょちょ、なんでなんか奈都が泊まる感じで話が進んでるの!?」

「ゆえもぶつぶつ準備とかつぶやいていたくせに」

「――えっ。声に出てた?」

「「めっちゃ出てた」」

「――」


 さて、この後松尾家はどうなるのだろうか。何か起こりそうな気しかしないのだが――。

 それから結崎と長宮さんがなんやかんやと話していると。俺たちの前にバスがやってきたのだった。

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