第418話 松尾家の秘密 ~旅行気分?~

 何とも言えぬ怪しい――いや、怪しくはないか。でもなんかおかしなことになっているような気がする俺の周り。


「ばあちゃんから旅行の雰囲気がプンプンするな」

「まあ――奈都がノリノリでホテル見つけて予約取っちゃったから」


 ふと、俺がつぶやくと声が聞こえたらしく。結崎が呆れ顔をしつつ返事をしてくれた。


「――長宮さん。何を企んでいるのか……」


 多分親切心。困っているときの助け――とかとかで長宮さんが頑張ってくれた。現在頑張ってくれていると思いたい。思いたいが――なんかありそう――いや、ある雰囲気しかしていない現状をどう見るべきか。

 

「えっ?なになに?なんか言った?松尾君?」


 結崎の話を聞いて、俺がじいちゃんの病室へと来てすぐから、窓の外を見ている長宮さんへと小声でつぶやくと。長宮さんが反応した。

 素晴らしい耳だ。

 まあ話しているのが俺だけ。病院内もそりゃ静かではなく。いろいろな音とか機械の音が聞こえてきてはいるが。さすがに病室内。聞こえたらしい。


 ちなみにそれと同時。長宮さんが俺の声に反応したのと同時くらいに、ばあちゃんは自分の荷物をじいちゃんの病室の隅に置き。机の上にあった書類を見だしたのだった。どうやら書類関係はばあちゃんが書く様子。筆記用具と印鑑を出している。

 ってか、ばあちゃんテキパキ動いているような――そりゃいつも料理の時はテキパキ。いや、それ以外でもか。でもいつも以上に生き生きしているというか。行動がスムーズな気がする。


「何々?呼んだ?」


 とにかく。俺がばあちゃんに『その書類書いて――』というのは、伝えなくてもばあちゃんわかったみたいなので、俺は俺の声により近寄ってきた長宮さんと少し話すことにした。


「長宮さん現状説明を」

「えっとねー」


 目の前へと移動してきた長宮さんに確認すると。長宮さんは人差し指を顎に当てながら――って、そんなに考えるそぶりしなくても覚えているでしょ。ってか、なんか演技してない?


「奈都。ちゃんと話す」


 すると、結崎も何かを感じたらしく。すぐに長宮さんに声をかけていた。

 というか、長宮さんに確認より。2人と一緒にいた結崎に確認した方が正しい情報を得ることができるのではないだろうか?そうだよな。結崎が嘘を言う必要ないもんな。長宮さんだと――いろいろ脱線する可能性もなくはないと思うし。今テンション高そうなのでね。


「やっぱり結崎説明を」

「えっ?あっ、えっと――」

「ちょちょ、松尾君なんで私そっちのけなの!?」

「いや、なんかテンション高そうで、ちゃんと話が聞けるか心配になったから」

「いやいや、松尾君。おばあちゃんが留守になるって確定して喜んだのゆえだから」

「……はい?」


 おっと、何が起こっているのかな?俺は『嘘でしょうね――』と、思いつつ結崎の方をちらっと見る。

 結崎は唐突なことだったからか。反応が遅れていた。


「えっ。えー。ちょ奈都そんなことないから。勝手なこと言わないでよ」


 ほら、やっぱり話をそらそうとする長宮さんの作戦でしたよ。


「いやいや、私とおばあちゃんが話した後。ゆえの顔見たら何か妄想してるみたいでにやけてた。あれは――おばあちゃんがいないとき私が頑張らないと――的な顔だったね」

「――し、してないし」

「……結崎。今の間は?」

「いや――その――そ、そう。お、驚いたから?」

「いや、聞かれても、って、まさかの長宮さんが言っていることが正しい説?」


 急に怪しい状況になってきた。

 いや、ここで結崎も長宮さん側というか。良からぬこと?とにかく何か企んでいるだと――ややこしいことになりそうだ。

 ってか、結崎がマジで焦っている?というか何かを隠しているような表情になっている気がするが――これは……。


「ちょ、松尾君そんなことな――」

「うんうん。ゆえはニヤニヤしてた。あれは――」

「奈都。ちょっと黙る」

「ゆえ。顔赤いよ?で、松尾君これガチ。多分ゆえ本人は妄想していて気が付いてない。松尾君の家出てくるとき。なんかめっちゃにやにや気持ち悪いくらいしてたもん。あっ駅でもだったから――あの人。えっと――楚原先生の旦那さん?も気が付いてるかも」

「ち、違うからー。奈都ほんと勝手なこと言わないで」

「いや、これ事実」

「事実じゃないから」

「松尾君。知っていると思うけど、この娘ポンコツだから」

「知ってる」


 結崎のポンコツは今に始まったことじゃないので、特に会話に入っていなかった俺だったが。自然と反応していた。なので結崎が驚いて――。


「松尾君即答!?」


 叫んだのだった。いや結崎よ。ここ病室。


「ゆえ。病室では静かに」


 と、俺が言う前に長宮さんが笑顔で結崎を注意していた。


「な、奈都が悪いんでしょうが。って、ちょっとこっち来て」

「わっわっ松尾君ヘルプ」


 すると結崎が長宮さんの腕を掴んで――じいちゃんの病室を退室していったのだった。

 仲いいな。あの2人。


「……」


 って、何が起こっているのかだな。


 とにかくだ。クラスメイト――2人が何やら盛り上がっている?言い合っているが。これはいつものこと。いつものこと――で片付けては今日はいけない気がするが。どちらの言っていることが正しいのかわからないため。今はわかっていることを再確認しておこう。


 ばあちゃん本日から留守。俺完全に家で1人暮らしだな。

 あと、じいちゃんニコニコとこちらの様子を見ていた。いや、じいちゃん。下手すると放置される可能性あるのわかっているかな?ばあちゃん今もルンルン?かな?テキパキと書類作成しているからね?早く終わらそうという。雰囲気をちょっと見せつつ――。

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