第409話 松尾家の秘密 ~工事~

「本当のことを言うとマジでここ最近は連絡してないんだけどね」

「えっ?一度も?」

「はい」

「――なんか松尾君ところ自由?」

「まあ、父親は自由というか。ぶっ飛んでいるというか。なんか俺をじいちゃんばあちゃんに預けに行くときも。自分のことを優先したというか。自分中心――ではないんだけど、集中すると周りが見えなくなるというか。それに付きっきりになるというか」

「そうなんだ。って、松尾君のお父さん何してるひと?」

「――一応会社員?」

「いやいやいやいやいや、今の話からして違うでしょ」

「いやでも俺の記憶ではそう聞いたような――」

「絶対研究者とかなんかでしょ」

「――昔過ぎて覚えてないというか」

「――それはそれでいいの?って、おじいちゃんおばあちゃんもそれでいいんだ」

「多分連絡しているとかそういうのはないと思うよ?ばあちゃんも任されたから。とか言ってたし」

「松尾君ところって変わってる?」

「――だと思います」


 自分の家庭のことを改めて誰かに話すことで異常さに気が付いている俺。って、なんで俺はじいちゃんばあちゃんのいる病院に向かう途中のバスの中で、長宮さんに自分の家庭のことを話すことになっているのか。そりゃ別に話したくないとかではないが。ね。こんな話していていいのだろうか?


「実は国家機密とか扱っている人?」

「それはない」


 急に長宮さんがそんなことを言い出したが。親がそんなことをしていることは絶対ないだろう。一応だが両親と生活しているときは――確かに父親は留守が多かったが。特に家庭環境が悪いわけではなかったし。居るときは家族全員居たし。どこかに多くはないが行くこともあった。だから――ちょっと父親が留守多めなだけで普通の家庭のはずだ。


「何かありそうなんだけど――でも松尾君も隠している感じはないと」

「長宮さんはなんでそんなこと知りたいのか――」

「まあ――ゆえに勝つ?」

「いや、意味わからんのだが――」

「だから、ゆえの知らないことわたし知ってるーいいでしょ。的な?」

「――なんというか」


 長宮さんと結崎は今後何かもめる?言い合う?まあいつも通りのことが起こりそうだが――でも確かに結崎に話した方が――いや、待て、この謎なことって話す必要あるのか?ないよな。多分今も海外のどこかをぶっ飛んでる両親に結崎を合わせる――とかいう状況では今ないし。まだ何も話さなくていいような――そうだよな。今の生活は生活で俺好きだし。じいちゃんばあちゃんともう少し今まで通りでいいかな?連絡して海外に呼ばれる――それの方が……だからな。


「もしもーし松尾君?」


 すると、俺がちょっとぼーっと考えていたからだろう。長宮さんの話を聞いていなかったようで、長宮さんに肩を叩かれ、俺の意識が戻ってきた。


「あっごめん。ちょっと別のこと考えていた」

「あー、はいはい、ゆえと別行動で悲しいと」

「全く違うと」

「えーいいの?ゆえに言うよ?絶対ゆえは寂しがってるって」

「いや、それはないかと――」

「あるね。絶対ゆえあの時荷物なかったら付いてきていたね。もしかすると、すごいスピードで私たち追いかけられたりしていたり――」

「さすがにそれはないかと。電車の本数が――だし。さっきの駅前の状況からして、タクシーもそう簡単には来ないだろうし」

「まあね。ってか、今どこ――」


 改めて状況確認。

 今俺と長宮さんはバスでじいちゃんばあちゃんに向かって病院へ――って、あれ?思ったよりまだ進んでいないような……。

 長宮さんと話しているときは、あまり気にしていなくて。信号待ちかな――とか思っていたが。よくよく見ると。


「もしかして――渋滞?」

「かも」


 ちょうど一番後ろに座っている俺たちは、前を見ればフロントガラスが見えるので、バスの前の道路状況がわかる。

 そして今俺が見る限り――のろのろである。

 あれだ信号待ちと思ったが。違った。単に渋滞しているのだ。


「このあたりって渋滞多いのかな?」

「さあ?」


 普段あまりバスを使わない俺たち?で良いのかな?とりあえず俺に関しては道路状況などわからないが。どうやら大学前駅のバス停を出てまだ数駅しかバスは進んでいない様子だ。それは料金案内?のところを見るとわかった。


「ってか。松尾君もしかして、バスってすごく病院まで遠回り――とか言うパターンある?」

「――ありそう」


 それから俺と長宮さんはのんびり走るバスの車内でスマホを操作。そして数分後――。


「松尾君。これ普通に乗って30分みたいだから……」

「やばいな。まだ半分も来てないということか」

「だね。これは――長旅だね」


 長旅と言いつつなぜか楽しそうな長宮さんだった――って、簡単に状況説明をすると。俺と長宮さんが乗ったバスは、ちゃんとじいちゃんばあちゃんの居るであろう病院を通る。

 しかし。駅から大通りを走ってまっすぐ病院ではなく。いろいろ経由と言えばいいのか。ショッピングセンターなどに寄ってからの病院というルートだった。

 そしてさらに今はなぜか道路が渋滞――って、わかった。今になって分かった。たまたま前を見ると100メートル先工事中。片側交互通行という文字が見えた。


「あっ。工事してたんだ」

「みたいですね。こりゃほんと長宮さんの言う通り長旅だ」

「まあ焦ってもだし。じゃ松尾君の幼少期の話でも」

「その話はする必要ないかと」

「いいじゃんいいじゃん。することないんだし」

「――えっと……」


 バスよ。早く進んでくれ。これ以上無駄な会話したくないよ。なんか恥ずかしいし。と、思う俺だった。

 あっ。バスは工事区間を抜けた。

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