第157話 夜の雑談

 結崎との電話終了後。平和な夜が――やって来ることはもちろんなく。俺の目の前には石見先輩が急接近してきた。


「で、後輩くん。ゆえちゃんとの関係は何?なんなの!?めっちゃ気になる。お姉さんに白状しなさい」

「友人ですね」

「えー、それ以上だ。それ以上夫婦。年配夫婦——年配はおかしい?」

「おかしいですね。あと――ぶっ飛んだな」


 結崎がこの場に居たら一発食らい石見先輩叩かれているだろうな。などと俺は考えつつ。とりあえずスマホは机の上に置いた。


「さあさあ白状しなさい。しないなら……私が体張る!」

「いや、何言ってるの?」

「ゆえちゃんに白状しないなら後輩くんもらうから!って、今から再度電話かけて脅すって作戦」


 何を笑顔でこの先輩は言ってるんだよ。もう少し自分を大切に――というのか。この先輩暑さとかで壊れたのかな?と思ってしまうよ。とりあえず俺がすることといえば。


「やめなさい。迷惑でしょうが」

「なら後輩くんが白状!ほらほらー」

「ホント楽しそうだな。この先輩」


 人の首を先ほどから攻撃している先輩。うん。くすぐったいからやめなさいである。俺は石見先輩の手を叩き俺がそんなことを言うと。


「超楽しい。今なら後輩くんに抱きついちゃう」

「すでに肩に乗ってますが……?これは?」


 そうそう石見先輩電話終わってからすぐに俺に乗りかかってきたんだよね。そしてそのままという、普通ならこの光景はヤバい気がするが。何だろうな。石見先輩なら問題ないというか。俺の話で信じてもらえそうというか。でも誰も居ないのでとりあえず引き剥がすことはしていない。手を叩いているだけだ。効果はないらしいが。


「おんぶ体勢!」

「——抱きつくと何が違うのか」

「わぁお、後輩くん大胆。抱きつき希望だったんだね」

「だから、今既に乗ってますが――」


 認識の違い。いや――石見先輩がおかしいのだろう。多分普通の人が見れば今の状況は石見先輩に抱きつかれてる俺である。


「ってか、後輩くん」

「——はい?」

「私も夏休み中に後輩くんとどこか遊びに行く」

「……はい?」

 

 なんかまた石見先輩が言い出したのだった。


「デート行こう。何ならお家パワー使ってリッチなことするよ?」

「何故そうなる?ってお家パワーって何……」

「まあまあ」

「そこは言わないのか」

「いやー、だって後輩くんいじり楽しいし。これならペットとして私の部屋許可するよ」

「ペット――」


 速報。ついに俺人間を離れたらしい。石見先輩の頭の中では――。


「……石見先輩。今から外出ます?乗っかっているので、今から先輩を外へと追い出すのはかなり簡単なんですが?」

「ごめんごめん。ちゃんと後輩くんはかっこいい男の子だよー。うんうん」

「適当に言ってますね」

「それにー、暑いから外は嫌だー。もうお風呂入ったし」


 そう言いながら石見先輩は俺から離れてベッドに寝転んだ。大人しかったらかわいい生き物なのだろうが。この先輩はうるさすぎる。あと行動力が半端なくあるため。


「……追い出したい」


 それに尽きた俺だった。


「ひどーい、って、後輩くんも寝なよ。一緒にこのベッドでコロコロしようよ。私が許可する」

「ここ俺の部屋ですが。ベッドも俺の――」

「ほらほら並んで寝よ。あっ、オールするんだっけ?」

「……寝ますから」


 ということで。何故か石見先輩と並んで横になることに。ちなみに小柄な石見先輩と2人ならギリギリ寝れるというね。


「いやー、後輩くんの側はなんか安心するんだよ」


 俺が隣に寝転ぶとそんな声が聞こえてきた。


「そうですか?」


 なんか結崎も前に似たようなこと言ってたな。と、思いつつ天井を見ながら返事をする俺。

 そりゃ、安心できるとか言うのは、良い意味なので。暴走しているのは俺を認めているというのか。まあ信頼してもらえている?


「うんうん。迷惑かけても全く怒らないからね。いろんなことどんどんできちゃうから」


 訂正。ちょっと結崎と石見先輩では考えが違うようだ。


「やっぱり追い出しますか」

「いやだー。追い出すとか酷いこと言わないでよー」


 そう言いながらポカポカ俺の脇腹あたりを叩いてくる石見先輩。なんか先輩は先輩で年齢が下がっている気がするんだが――なんだこれである。


「石見先輩。暑いからくっつかないように。まあそのうち俺が下に避難すると思いますが――」

「あっ、くっつくなら脱げと。きゃっ後輩くん言うね。さすがに頼まれてもいきなりは脱がないよ?」

「解釈がおかしい。っか、俺何も言ってない。こういう時は……安全の床で寝るか」

「ダメだよ。明日さ。昨日後輩くんは床で寝てー。とかゆえちゃんに言ったら私本当にボコボコにされて――ゆえちゃんにいろいろ奪われるかもー。あっ、でもその前に後輩くんが夜奪いにくる?きゃっ。私大変」

「——石見先輩の頭の中が心配すぎて寝れない」

「大丈夫だよ。正常正常」

「どこがです……?」


 バシバシ。


 石見先輩。無駄に強く叩かないように。俺は叩いていいものではありません。


「どう見ても正常じゃん。ってか後輩くん後輩くん」

「はい?」

「後輩くん横になっていたら……ねむねむ」

「はい?」


 いきなり何を言い出した?可愛すぎるだろ。と、思いつつ隣を見ると。まるまるように石見先輩がお休みになっていた。

 おい、仮眠したは嘘か?ってか、いきなり。普通に寝たよである。超安心した表情で先輩寝ています。これ見ていいのか?


「……何故に男子の部屋で普通に寝てるのか。あっ、結崎も寝てたか――って、うん?長宮さんもか……?あれ?俺男として見られてなくないか?」


 その後、ちょっとの間、石見先輩の寝顔を見つついろいろ考えることになった俺だった。

 俺――男として見られていない疑惑が強まったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る