第112話 帰れると思った?

 結崎と石見先輩と別れた後の俺は、長宮さんとともに高校前駅の改札を現在抜けたところである。

 なおこの後俺と長宮さんは行き先。乗る方向が違うので、別れることになるのだが――と俺が思いつつ歩いていると。長宮さんが話しかけてきたのだった。


「いやー、面白くなってきたねー。ってか、澪は遊んでるのかメッセージ全然見てないみたいで、まだ反応なしだし。せっかく面白くなってきているのに」

「こっちはなんかいろいろ疲れましたよ――って。長宮さんなんか勝手にいろいろと拡散しない」

「もう完了済み!イエイ」


 こちらを見つつ良い笑顔。さらにブイサインをする長宮さんだった。手にお持ちのスマホ。それ破壊して言い?あっ。時すでに遅しだから意味ないか。


「イエイじゃなくて――まあでも、広げてそうなのはわかってたけど。って、手遅れだからそれはいいとして。何というか。まだまだ大変なことがありそうな気がする――平和な夏休みどこ行った……」

「平和じゃ面白くないじゃん!よかったじゃん。楽しそうな未来で。ってことで、明日も私来て良いよね?」

「……はい?」


 何を言いだすの?と俺が思いつつ返事をしながら再度長宮さんの方を見ると。


「まだまだ面白そうだからね。それにゆえも来るでしょ?先輩と一緒に帰ったんだから。だから明日もお邪魔しようかとね」

「お邪魔しようってどこに――ってそうか。図書室か」

「うんうん」


 いろいろあってちょっと図書館の事を忘れてたわ。


「まあ、石見先輩は来るだろうけど――結崎はどうだろうか?一緒に帰ったからといって一緒に来るとは――」

「でも、ゆえが来なくても私は行くよ?だって、そもそも私は六石ろっこくに服の弁償してもらわないとだし。あと松尾君に体操服返さないとだからね」

「あっ、確かに体操服は返してもらわないとだわ」


 俺はそう言いながら長宮さんの服を見た。そうだよ。今俺の体操服は長宮さん着てたんだよな。だから行きより荷物が減った俺。いろいろありすぎるからちょっとホントいろいろなことを忘れていたよ。

 それに、そういや長宮さんは長宮さんで、午後だけ。ホント短時間しか学校に居なかったはずなのに、いろいろあったんだよなぁ。とりあえずお疲れ様です。あと風邪ひかないようにだな。


「まあ。これで六石いなかったら――どうしようか。あっ、松尾君とりあえず覚悟してて。にひひ」

「……なんでそうなる?ってか何その怖い笑い」


 あからさまに悪いことを考えているという表情の長宮さんはそのままの表情で。


「もちろん服の弁償の肩代わり?」

「いやいや、マジで?連帯責任制というか。そんな決まりあった?」

「今考えた。だからマジマジ。それに高いよーうん。お財布と相談しておいてねー」

「いや……マジかよ。嫌だよ。うん。そんな潤ってないのに」

「払えないならー。どうしようかなー」


 長宮さんは悪い顔のまま笑いながら。って、マジで俺の払わせるつもりなのか。そのまま楽しそうに何かを考え出したのだった。


「タイムタイム。なんか俺が払う雰囲気になってるから」

「六石が居るかマジでかわかんないからね。連絡先聞くの忘れたし」

「——俺も知らないかも……」


 六石という生徒は知っていた。でもそこまで話す仲でもなかったので、俺も連絡先は知らない。


「そりゃヤバいね。松尾君ヤバいよー」

「いやいや……」


 そんな感じで少し長宮さんと話していると、大学前にと向かう電車がやってくる時間になった。遠くから電車の音がちょうど聞こえてきたのだった。


「あっ、松尾君。この後暇だよね?ボディーガードで付いて来て」

「——はい?ボディーガード?って勝手に暇と決めつけられた俺――まあ帰るだけで、暇だけど」


 なんかいろいろ適当なことを言ってくる長宮さんとやっと別れれる。静かになるか。などと俺が思おうとしていた時だった。

 いきなり長宮さんがそんなことを言いだして、俺の腕を引っ張り大学前方面のホームへと歩き出した。何故に俺確保された?と思っていると。長宮さんは移動しつつ小声で――。


「だってさ。結局私……履いてないから不安じゃん。空いてる時間だし。まあ何もないとは思うけどさ。ホントは澪が居るから大丈夫。とか思ってたのに急に澪居なくなるし。だからちょっと私の計画が――ってことで、今居てボディーガードを任せれるのが松尾君だけだからさ。ちょっとだけ付き合って」


 ちょっと恥ずかしがりつつそんなことを言ってきたのだった。

 いやまあ、ちょっとこのことも忘れていたのだが。そう言えば長宮さんそんなことを学校で言っていたというか。周りに言われてましたね。って、変な想像をすると揉めそうなので、俺はほぼ無心。無心。


「……はぁ。なかなか家に帰れないこっちゃだ」


 俺はそんなことを言いつつ。大学前方面のホームに自分で歩き出すと。長宮さんは俺の腕を引っ張るのをやめた。


「ほらほら電車来たから。松尾君小走り小走り」

「——了解です」

「さあ買い物買い物!」


 その後俺は、まるで今から遊びに行くのか?という感じの楽しそうな長宮さんに付いていく事になったのだった。まだ俺の1日は終わらないらしい。家からどんどん遠ざかっているのだった。

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