第2章 変わる関係

第95話 パニック

 現在俺は結崎とともにいつものガラガラの電車内に居る。

 あっ、現在電車は走行中である。


 そしていつものように、ガッタンガッタン大きく揺れている車内の中で……ちょっと一瞬時間が止まったような経験をしたところである。


「私……松尾君の事……好き……だと思う」

「…………はい?」


 正面に座っていた結崎がめっちゃ照れた顔だ。うん。うん。うん。うん……俺もかも。


 ――っか何が起こったか俺はすぐにわからなくて、結崎の声を聞いたあと電車の走行音が消えたというか。

 いやもちろん今は普通にガタゴト響いているが……なにが起こったんだ?と頭の中で言葉がぐるぐる――とか俺が思っていると。

 乗車区間はたった1区間なので、俺と結崎を乗せた電車は、公民館前駅へと到着するためブレーキがかかり出した。普通ならそろそろ降りる準備なのだが。


 駅に着く直前まで俺はぽかーん。

 結崎は、下を向いていたっけ?あれ?どうしていたか。ダメだいろいろわからない。あれ?俺の記憶が衝撃で飛んでいるのは……数分?いや、数十秒くらいかもしれないが――とかとかいろいろ俺の頭の中で言葉というより。単語だけがぐるぐる回ったというか――うん。ちょっと状況整理が――とか思いつつ。

 頭の中がパニックの中、俺達を乗せた電車は公民館前駅に到着する。だったので、とりあえず降りないと。と、いう指令が脳からきた。


「ゆ、結崎、駅—―着いたから。とりあえず……降りるか?」


 何とか目の前で同じく混乱?中の結崎に声をかけることは出来た。


「あ……あ、う、うん。だ、だね。お、降りないと」


 結崎は駅に着いたことすら気がついていなかったらしく。俺が声をかけるとあわてて立ち上がった。

 のだが。向かい合うように座っていた俺たち。結崎が立ち上がると……俺立てないっす。だった。言い方がおかしいのはまだパニック状態だからである。


 って、いつも言っているがこの電車狭い通路なんでね。さすがにその事には結崎もすぐに気がついて。


「ご、ごめん。ま、松尾君立てないじゃんね。な、何やってんだろ。ど、どくね」


 そういいながら結崎がバタバタと移動「—―きゃっ!?」と、ちょっと動き出してすぐに、電車の揺れもあったからか結崎は躓いていたが。ここは狭い電車。結崎はすぐにつり革を掴みなんとか姿勢を維持していた「大丈夫か?」と俺が声をかけようとした瞬間。


「……」


 結崎がさらに恥ずかしそうにちらりとこちらを見て、何も言わないで。みたいなオーラを発していたので。俺は何も言わなかった――すると電車が駅に到着してドアが開いた。

 結崎はドアが開くとすぐに外へと降りていった。

 俺はそれに続くようにホームへと降りる。


 俺たちが駅に降りると駅で待っていた数人人が電車へと乗り込み。電車は公民館前駅を発車していった。

 次第に電車の走行音が小さくなっていく。その後鳴っていた踏切の音も止まった。


 公民館前駅は――静寂となった。


「……」

「……」


 俺と結崎はどちらも話すことなく――まだフリーズ中というか。いや。声をかけようとはしているんだがね……なんと言えば――ってその時俺の頭の中には――暑い。という単語が出て来た。


 暑い。めっちゃ日差しが。いやいや俺何を言っているのか。今は夜だ。もう暗くなっている。

 でも暑い――ってそうか。気温はまだ高いから暑いか。身体がなんか暑い……ではないな。多分。


 ってなんか1人でいろいろ思っていると――少し落ち着いてきたというか。

 今は暗くなってきたから結崎を家まで送るとしていた。ということを俺は思い出して。


「と、とりあえず。夜だけど――まだ、その、暑いから――このままだとだし――行くか?」


 隣をちょっと見つつ声をかけると――電車を降りてからフリーズ状態だった結崎が動いた。


「う、うん」


 やっと活動開始というか。動き出したのだった。


 俺が声をかけると結崎は駅の外へと向かって――なんかぎこちない?歩き方というか。まあいい。触れないでおこう。ロボットみたいな感じがした、俺もおかしいかもしれないし。何も言わなかった。


 その後俺も結崎の少し後ろを追いかけるように駅の外へと歩き出した。


 そして、タイミングが良いのか悪いのか駅から少し歩き出したところで。


「「あ、あのさ」」


 次に口を開いたのは同時だった。


「あ、いや――結崎からどうぞ」


 ミスった。と俺は思いつつもとっさに結崎に譲った。何で同じタイミングで――だったんだが。


「えっ、あー……その、うん」

「う、うん」


 すると結崎は――なんか口元に手を当てつつ……小さな声で。


「—―さ、さっきのこと……だけどさ。き、聞こえた?」


 そう言いながらこちらをチラリと見てきた。

 何というか――ちょっと今街灯がなくて暗いのではっきりはわからないが。街頭無くても雰囲気でわかるか。結崎も顔は赤いと思う。

 俺もいきなり――その好きとか言われて――赤いだろうし。ってまあ暑いのもあるかもしれないが。そうだ。気温も暑いからな。どっちもだな。落ち着け俺。


「……ま、まあ、ちゃんと――その。うん」

「あ、そ、その……なんていうか。うん。そのね――」


 何か結崎がかわいい生き物――ってここはちゃんと返事が必要なのか?必要だよな?と俺は思いつつ。


「う、うん。なんていうか――そのありがとう。というか……いや、悪い。初めてでなんて言ったらいいかが全く――出てこないってか――」


 俺が言葉をいろいろ選んでいると。

 結崎は――さらに慌てたというか。こちらも冷静さがないのか。わたわた?という感じで。


「だ、大丈夫。いきなり……ごめん。その、奈都に……そのね。ほんと言わされた――みたいな。感じなんだけど――って、私自身ももやもや。ってか――そのわかんないんだけど……思うの。うん。だからホント――その勘違いしないで欲しいけど――真面目にラブじゃなくてライクで――好きです!」


 すると結崎が足を止めて――こちらをちゃんと見て恥ずかしそうにそんなことを言ったのだが――—―。


 ――――あれ?


「……うん?」


 今—―結崎なんて言った?うん。あれ?なんか俺勘違いしてる?聞き間違え?あれ?またわかんなくなってきた。と頭がパニックになっていると――。


「—―うん!?」


 結崎の表情にも疑問というか。びっくりマークと、はてなマークというのだろうか。ちょっと今整理中。みたいな表情をして、何故か急に表情が――壊れた。絶望?ではないが――いや絶望に近い表情かもしれないが――結崎がさらにわたわたしだして。


「ちょえっ!?うんんん!?あれ……今――私おかしなこと――」


 何だろう。結崎がさらにパニックになりすぎて――おかしくなったのだろうか。めっちゃ慌てているというか。

 ってか結崎のおかげというか。俺は逆に今の結崎の言葉でちょっと冷静になりつつあったので――先ほどの結崎の言葉を思い出してみる。


 うん。


 うん。


 何かおかしかったな。と俺が再度自分で確認していると。


「……ま、松尾君……私――あれ?今……なんて言った……かな?」

「最後だけ――というか。うん。なんか違和感があったところだけで言うと――ラブじゃなくてライクで――好きです……が――うん。いや、大丈夫。結崎。慌てててというか。うん。結崎がパニックというか――大丈夫こっちで修正可能だから――」

「……」


 わかってる。大丈夫だ。結崎は俺に――好き。と言ってくれた。ということは俺もわかっている。理解している。どっちでとらえたらいいんだ?いや、でも結崎の表情とさっきの表情から見ると。


 ライク。じゃなくて――ラブです。と、間違わないように。勘違いが起こらないように。再度結崎がしっかり言ってくれたのだと思うが。多分結崎の――今の状況というか――かなりパニックになりつつって感じだから。

 ちょっと意味が違うのかもしれないが。あれだよ。細かいことを気にしないでおくと。結崎が俺の事を好きと言ってくれた。そう言うことだよな。そう言うことでまとめてあげた方がいいよな。

 ってか、結崎はたまにやらかすというか――そういうところあるし。

 俺が他の人と電話しているとわざわざというか。自分から声出しちゃったりとか。勝手にいろいろ勘違いして――泣いてみたり。あー、結崎って普段完璧な感じだけど。ポンコツ度半端ないわ。


 めっちゃ可愛いってことか。


 よし。理解できた。大丈夫だ。多分間違ってない。あとは、俺が返事か。 俺がいろいろ頭の中を整理していると――。


「—―あはは……あはは……」

「ゆ、結崎?」


 突然結崎が笑い出して――。


「—―わーん。ミスったー。あー何してんの私!?なんで?なんでちゃんと落ち着いて言ってはずなのに!?わーーー!?!?!?」

「……壊れた?」


 道の真ん中で結崎が壊れました。 

 しゃがみこんで頭抱えています。お願いだから今は車とか来ないで。

 結崎を移動させることが出来ない気がするので――。


 その後は、俺が返事という雰囲気にはならず。


「やり直したいよ。やり直したい。恥ずかしい。なんで逆に言っちゃったの!?私、松尾君もしっかり覚えちゃったしー。もういやー」

「……」


 ――何とか。ホント何とか先ほど壊れた結崎を運ぶように結崎の家まではやって来たのだが――。

 結崎の精神年齢が下がった気がする。

 いや、俺はもちろん返事を――だったのだが。どうも結崎は自分が言い間違えた。勘違いされないようにはっきり言おう。ライクじゃなくてラブ。うん。ラブってしっかり伝えないと。ライクじゃなくてラブ。みたいなことを考えて話したらしいが。考えすぎたが故に――口に出した際にまさかの逆になった。らしい。


 いや、俺は聞いてないのだがね――勝手に壊れた結崎が先ほどぶつぶつ言っていた。

 俺は聞いてないんだが……でもまあ、今めっちゃ可愛いというか。壊れたお派手な方も――なかなかです。


 すると――。


「ま、松尾……君?」

「う、うん?」


 ってか、結崎よ。いつの間に布団に丸まったの?なのだが。それは触れないでおこう。って、俺帰った方がいいかな?ちょっと気持ちが不安定?みたいだったからそのままなんか結崎の部屋に入っちゃったが――と思いつつ返事をすると――。


「一生のお願いが――あります」

「う、うん」

「この――1時間の記憶消してください!!」


 そんなことを言いながら結崎は俺の前に土下座したのだった。

 布団はかぶっている。

 って、いやいやなんでこんなことに!?ということで。俺は慌てて結崎の前にしゃがみ――。


「ちょ、結崎。ちょっと、頭上げよう。そして何してるの?」

「だ、だって――こんなはずじゃ――うぅー」


 ダメだ完全に室長様壊れた。これどうしようか?あっ、落ち着かせればいいのか。そうだ、俺がちゃんと答えてあげればいいのか。って――それはそれでなんか緊張するな――と思いながら。


「いや、結崎。その――返事をさ。伝え――」


 俺は結崎に返事を言おうとしたら――。


「やめて!」

「—―はい?」


 止められた。


「そ、その――今はダメ。これ以上は耐えれない――もうパンク。パンクしたから!その――今日はごめん。お願い――これ以上は……無理」

「……」


 室長様――俺の返事を聞いてくれません。

 耳を塞いで再度丸くなっちゃいました――何故!?


 何で――俺の返事拒否られた?誰か説明を――。


 結局その後結崎は布団に丸まり耳をふさぐという――大変かわいい姿のまま過ごしていた。

 俺が動かそうにも「今は無理。これ以上聞いたら――」みたいな感じででしてね。もう何も受け付けない。状態になってしまったので、まずは結崎に落ち着いてもらおう。ということで、俺がここに居ると結崎が全く落ち着ける雰囲気ではなかったので俺は一時帰宅。ということになった。


 幸いにも夏休みだ。明日様子を見に来ることは可能なので、とりあえず――もう遅くなってきたし。俺は帰ることにした。


 帰る時は帰る時で結崎がずっと謝るから大変だっただが。何がどうしてこうなったのか。

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