第93話 another story ~きっかけはどこにでも~

 ここは大学前駅近くにあるマンションの一室。僕の部屋だ。今日は2日ぶりの帰宅となる。

 いや、仕事柄変形労働でね。って、まあここは妻が使っていたマンションに俺が来た。と言った方がいいか。まあそのことに関しては――触れなくていいかな。


 ――ガチャ。


 僕はドアを開けつつ室内へと入って行くと――。


「おかえりなさい」

「ああ。ただいま」


 僕が室内へと入ると。いい香りとともに――って、何か机で考えている妻が居た。僕は荷物を置きつつ。ちらりと妻の方を覗いてみると――。


 ……何だろう?何か――作戦?ではないが。いや作戦だな。

 ルーズリーフに『作戦』と書かれているんでね。作戦で正しかったらしい。


 ちなみに周りには丸められたルーズリーフが。妻は何をしているんだろうか?さらに覗いてみると――図書室……模様替え。呼び出し方……などという文字が見えたので、

 あー、学校の事か。と。僕は思いつつ片付け、着替えのために一度寝室へと向かう。


 ――バタン。


「……って呼び出し方?」


 寝室へと入った僕は先ほどの妻の書いていたルーズリーフの文字を思い出しつつ。引っかかる言葉があったことに気が付いた。


 呼び出し方って何だろう?と思いつつ部屋着へと着替える。そして再度妻のところへと向かってみると。


「ねえねえ。何か面白い話ない?」


 いきなり妻は僕を見つつそんなことを聞いてきたのだった。


「—―面白い話?」

「そう。松尾君限定で」

「なかなかだね。って、松尾君お気に入りだね」


 最近妻との会話によく登場する松尾君。ホント僕たちの会話で何度登場していることか。彼……くしゃみしまくりじゃないといいけど。と、この前も思ったっけ?


「そりゃ、今までの委員会の子であそこまでしっかり手伝ってくるれる子いなかったし――面白い子いなかったからね」

「—―面白い?松尾君って――真面目。って感じだけど」

「そうだけど。最近ハーレムしてるからいろいろ楽しんのよ」


 妻がそんなことを言いながら――なにか妄想をしている顔をしていた。


 そうそう僕の妻は――こういう話好きでね。恋バナだっけ?もう話しだしたら止まらないというか。そんなに学生の子たちの話に混ざりたいなら制服着て混ざってきたら。なんだけどね。多分普通に混ざれるよ。なんだけど――。

 この前も――そうだそうだ。松尾君と結崎さんの事を話したら――ずっと話していたっけ。と、過去の事を思い出していると。


 そういえば――とついさっき。ホント最新情報が頭に浮かんできた。


「—―そういえば」

「うん!?何かある?」


 ……妻が食いついたのだった。めっちゃ反応が早かった。


「いや、今日は松尾君。えっと――あれは誰だっけ。前にも名前を聞いたかもしれないけど――結崎さんじゃない子を見送りに田園駅に居たなーって、まあ田園駅に最近はいろいろな人が来るから僕的にはうれ――」

「誰!?」

「……」


 妻の目が輝いた。そして身体をこちらに乗り出してきた。

 僕――ちょっと余計な事言ったかなー。と思っていると――


「誰!?」


 再度妻が寄ってきた。近い近い。まあ良いんだけど――なんでそんなに目を輝かせているのかな?そっとしておいてあげたらいいのに。と僕は思いつつ。


「あ――あのさ。もう一人。結崎さんよりちょっと小柄で。いつも笑ってそうな。元気な子?」

「……うん?うーん。あー、なるほどなるほど。長宮さんか。松尾君。結崎さんに隠れて――うんうん。脅しに使える」


 妻の口元がニヤリと。していた。


「……何か良からぬことを考えている気がする――」


 先に俺は松尾君に余計なことを伝えたと謝った方がいいだろうか。と思いつつも。僕はとりあえず――。


「—―脅しとは?」

「えっ?あー、実はね。図書室の模様替え。整理整頓にどうしたら松尾君を呼べるかなー。って。夏休み前に声をかけなかったからね。何か理由というか。絶対来てくれる方法ないかなーって」

「……」


 何を考えてるんだか。と僕は思いつつ。


「あのさ」

「うん?何?」

「普通に――お願いしてみたら?松尾君ならちゃんと話したら来てくれる気がするけど――」


 妻はキョトンとした表情でこちらを見ている。そして――。


「……確かに」


 うん。うん。と数回頷いていた。いやいや何で普通に頼むという選択肢が一番初めになかったのだろうか?ってか。


「とりあえず――お腹空いたかな?」


 僕は帰ってきてからこれをずっと言いたかった。部屋はいい香りがしていたのでね。お腹ペコペコだよ。


「あっそうね。準備出来てるから座ってて」


 その後はいつものようにのんびりと妻と過ごしたのだが――うん、松尾君。ホントくしゃみ連発していたら……ごめんだ。と。ちょっと思っている僕だった。

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