第84話 another story ~過去の友達~

 カッキーン。

 カス。

 カキーン。


 バットにボールが当たる音がとっても気持ちいいと知ったのはもう数年前の事あれは――小学校の高学年……いや中学校に入ってすぐだったかな?


 私の家は昔から両親が仕事の都合でよく留守にしている。そのため私は両親と仲が良かったお隣の家によくお邪魔していた。というか。預けられていた。と言った方がいいかな?あまりはっきりは覚えてないんだけど、小学校に入ったくらいから――確か学校帰りは1つ年上の先輩。いろはさんの家に私は帰ることが多かった。

 いろはさんとは、学校も同じで、登下校も一緒にしてくれる優しくて、あと太陽みたいな人だった。

 何をするにも面白いことを絶対入れてくるというか。ホント、余計な事。って言うと、いろはさんがかわいそうだけど。

 いろいろやらかして周りの人を楽しませる。笑わせるのが上手な先輩だった。


 学校では学年が違うのに、いろいろといろはさんのやらかしたことが伝わってきていたほどだ。

 何でそんなことしちゃうの?ってことを学校でもよくしていた。さらに、多分本人は真面目にしようとしている時でも、勝手に笑いを起こしちゃうというか。いろはさんが動くと何か起こるとでも言うのか。とにかく何かいろいろしている人だった。


 はじめこそ私は生きている場所が違う人というか。私は目立つような子じゃなかったから。いろはさんみたいな人と一緒に居ていいのだろうか?と、考えてしまうこともあったが。

 多分いろはさんは親に私を見るように言われていたのだと思うけど――毎日私と居てくれた。

 破天荒というか――トラブルメーカーというか。いろいろ起こしちゃういろはさんだったが。

 私には勉強も教えてくれたし。家事も教えてくれた。

 あと、運動や美術系もいろいろ一緒にしてくれたが――美術というのか。あの分野だけは……かな。あっ、でも書道が好きになったのはいろはさんが居たからかな。真っ黒な顔のいろはさん。面白かったなー。

 そうそう、それでいろはさんのおかげで私が見つけれたものの中で一番今も役に立っているのは。


 カキーン。

 カーン。

 カキーン。

 カス。


 この、バッティングセンターかな。

 確かその時は休みの日で、私はいつものようにいろはさんの家に居た。

 そしたらいろはさんのお父さんお母さんが外に連れて行ってくれて、その時だね。いろはさんが『バッティングセンター行こう!』みたいな事言いだして――。


 あっ、もちろんその時の私は『何それ?』だったんだけどね。でも私が何か言えることはなくて、連れて行かれて、強制的にやって来ました。って感じかな。


 はじめ見たときは怖かったかな。


 急に前からボールが飛んでくる。というのと、バットが怖いものにはじめは見えた。地面とぶつかるとガリガリいっているのと。ドラマ?だったかな?なんか金属バット。っていじめとか言うのか。その、なんか暴力的なイメージが勝手に私の中にあって。


 そんなことを思っている私を横に、いろはさんはすぐに打ち出したんだったなー。

って後から聞いたけど。この時のいろはさん。実はまだ2回目。だったとか。

 少し前にお父さんがやりに来たのに付いて来て、少し振っただけだったのに、この時私にいいところを見せたかったのか。

 やる気満々で入って行って、振っていたんだけど。多分勢いよく振りすぎたのか。うん。振りすぎたんだと思う。バットが手から滑って、思いっきりすっ飛ばして――いろいろ騒ぎを起こしてました。数回ほど……。数回です。


 いろはさんのお父さんが何度もスタッフの人に謝っていたっけ?

 まあそんなことを見ていたからか。私は次第に楽しい気持ちになって、その後かな?いろはさんのお父さんに教えてもらいながら中に入って右打席に立って。はじめは全部空振り。恥ずかしかったなー。振っても振っても当たらない。ってバットが重い。

 でもそのあとだったかな?ぎこちなくも……1回だけバットにボールが当たると――とっても気持ちよかった。うん。嬉しかった。


 なんか溜まっていた物というか。ボールが当たるとそれは解放されるみたいな感じだったかな。


 それから回数は多くなかったけど。バッティングセンターには何度か行く事になった。いろはさんも好きでお父さんが居れば。という感じで通った。

 そういえば途中からはどうしたらバットにボールが当たってあの気持ちい感じがたくさん味わえるか。みたいな事を私は考えだして、いろいろ工夫したなー。バットを短く持ったり。左打席でやってみたり。いろはさんのお父さんは私が本気で何か目指している。みたいに思ったこともあったみたいだけど――。

 私は初めて楽しいと思える遊びを見つけて楽しんでいたただけ。なんだけどね。すごく気持ちい。ストレス発散見つけた!みたいな。


 家での楽しくないことを忘れることが出来たから。いろはさんとこうやって遊ぶのはとっても楽しかった。


 でも……終わりは突然やって来た。


 私が中学1年の――夏休みに入るって時だったかな?

 学校があると部活動もあったりしてなかなかいろはさんと遊べなくて、でも夏休みに入ればいろはさんとまたたくさん遊べる。と思っていた時だった。


 いつも元気だったいろはさんが――体調を崩した。


 ――その時の私はただ風邪をひいただけ。みたいに思っていたのだが。


 数日後。いろはさんの家族は引っ越したのだった。

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