第80話 1人帰宅
「じゃ、松尾君ありがとねー」
「えっと、忘れもの無いように」
俺はそう言いながら持っていたというか。少し前から持たされていた長宮さんの荷物を本人へと渡した。
「大丈夫大丈夫。どうせ休みだから、なんかあってもまた来るから」
笑いながら、そして軽い感じで長宮さんがそんなことを言っていた。
現在俺は長宮さんとともに田園駅にやって来ている。家へとやっと帰る長宮さんの見送りというやつだな。
ちなみに先ほどまで一緒に居たはずの結崎がこの場に居ないのは、ばあちゃんと料理中というか。結崎は結崎でばあちゃんに捕まっていると言った方がいいな。
長宮さんが帰ろうとしたときに、ばあちゃんがちょっと人手が欲しいと。いや、長宮さんに渡す用で急遽詰めたりしていて、晩ご飯用がバタバタになったのだろう。
すると、長宮さんが「ゆえ。手伝ってあげないと」みたいなことを言いましてね。
結崎は、ばあちゃんのお手伝い。その間に俺は、電車の時間が迫っていた長宮さんのお見送り。という形で駅まで長宮さんの荷物持ちをしてきたのだ。
ちなみに外は夕方だが、まだ暑かった。全然涼しくなんてなってもなかった。日が当たっているところは、サウナというか。ホント暑かった。冬早くこないかな。
駅に着くと大きな木があるため。影があったが、でも空気全体が暑いのでね。何もしなくても汗が出てくる。
「はあ……ちょっと歩いただけで汗出てくるね。早く電車来ないかなー」
長宮さんもそんなことを言いながらホームからトンネルの方を覗いていた。時間的には後数分で電車が駅にやってくるはずだ。
「……今年の夏も暑そうだからね」
俺が空を見ながらつぶやくと。
「あっ、それもしかして、季節の夏とわたしかけてる?」
「……はい?」
「どちらの「なつ」も元気です。的な?」
突然長宮さんが「わかった!」みたいな感じで決めポーズをしていたが。えっと、俺特に何も考えてないというか。空を見ながら呟いただけなんだが。
「—―えっと……はい?」
「あははっ。でも私夏は普通に元気だよ?ゆえみたいにぶっ倒れないからねー」
「まあ結崎のあれは……」
暑さに弱いというか。いろいろあるとだめというか……と俺が思っていると。
「そうだ。松尾君」
「はい?」
「松尾君にはいろいろお世話になっているからー。特別に私の事を「奈都」と呼ばせてせてあげよう!」
また長宮さんが決めポーズ。なんか俺を指差しながらそんなことをいきなり言い出したのだが。
「……」
固まるわな。俺固まった。
「……あれ?なんで喜ばないの?」
すると、俺が反応しなかった。というか。いきなりだとね。何言ってるの?って感じでね。反応できなかったんだよ。
「いや、うん。なんで?って?」
「仲良しの証だよ。そしてパシリ決定の」
「……長宮さん」
そんな認定。決定いらない。と俺が思っていると、どうやら表情でバレたのか。
「むー。言わないかー。そして全く嬉しそうにしないし」
「パシリと言われたんでね」
名前呼びになったらパシリとか嫌ですよ。じゃなくてもなのに。すでに振り回されてますからね。
「まあまあ、松尾君と私の仲じゃん。夏休み明けにクラスざわつかせようよ」
ツンツン腕を突っついてくる長宮さん。
「お断りします」
全力でお断りしますだよ。そんなことで目立つとか嫌だし。平和がなくなる。
「えー、面白そうなのにー、後ゆえの反応も」
「長宮さんホント結崎をいじるというか。そう言うの好きだよね?」
「いい反応するからねー。楽しいじゃん」
今日何回聞いたかな。という「にひひー」という笑いがまた横から聞こえてきたのだった。結崎大変だなー。マジお疲れ様。
「ってか。松尾君と居ると確かにいいね」
なんかニヤニヤ?笑っていた長宮さんが俺の方を見ながらそんなことを言ってきた。
「……はい?」
「いやだって、何も考えなくていいし」
「……どういうこと?」
「うん?なんか松尾君の前なら普通に過ごしていていいからね。演技しなくていいってか、めっちゃ楽だよ」
「……」
あれ?なんか似たようなことをどこかで聞いたことあるような?言われたことあるような?と俺が思っていると。
電車の走行音が聞こえてきた。
「あっ、来た来た。早くこーい。暑くて煮えるー」
長宮さんはそんなことを言いながらトンネルの方を再度見だした。
それから少しして、いつも通り。空っぽの電車が田園駅に到着。
長宮さんは涼しさを求めるかのように、ドアが開くとすぐに車内へと乗り込み。こちらに手を振りつつ「またねー」と言い座席に座った。発車までは少しあるが。長宮さんの優しさだろう。もう帰って大丈夫だよ。的な雰囲気を俺は受け取ったのだった。
なので俺は駅を後にしようとしたのだが。
――楚原さんにその後ちょっと捕まった俺だった。
長宮さんと話したりしていたから運転手さんの事を俺全く気にしていなかったよ。
楚原さんはというと、ホームに人が居るとね。この駅は居ないのが当たり前だから目立つし。おまけに2人も居るとね。ということでしっかり俺たちの事を見ていたらしく。発車前までちょっと捕まった俺だった。
◆
楚原さんと別れた後「あー、これは夏休み明け。楚原先生に何か言われるのが確定した気がする」とか思いつつちょっと重い足取りで俺は家へとまた歩き出したのだった。
ちなみに俺が長宮さんを見送り。家へと帰って来ると、結崎は普通に、ばあちゃんと話しながら晩ご飯のお手伝いをしていましたとさ。こちらはすごく平和な空間が台所にあった。あれか。長宮さんが居なくなって警戒する人。人物が居なくなったからか。結崎は普通に過ごしていたのだった。
なんやかんやで、ちょっとした見た目の違和感というのはあったが。結崎はやっぱり元は大人しいというか。しっかり?したタイプの人というか。台所に居るの似合うんだよな。と後ろ姿を見て思ったりしている俺だった。
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