第30話 松尾守の休日6

 風呂に入り汗を流して。その後洗濯もちゃんとまわしてきて……後回しにすると忘れるからな。そして現在の俺は自分の部屋へと戻って来た。のだが。


「……平和なことで」

「……スゥ……スゥ…」

「—―っかどういう状況?」


 俺が部屋に戻って来ると、俺のベッドにて――室長様お休み中。なんか手にはスマホがあるので、多分。スマホを見つつ俺を待っていて、ちょっと横になったら。そのまま夢の中らしい。多分だがな。無防備すぎる室長様が部屋にいらっしゃいましたとさ。


「……向こうで乾かすか」


 俺は綺麗に片付けられていたドライヤーを手に取り。再度風呂場へと向かった。そして髪の毛を乾かし。よし。とりあえずOK。そして再度部屋に戻ったが。


「……スゥ……スゥ……」


 結崎が起きているわけはなく。


「—―スゥ……スゥ……」


 完全に結崎は夢の中である。そこそこというか結構な重労働させたからな。そりゃ疲れるよな。普段遊び歩いているのかは――ちゃんとは知らないが。こんなことはしてないだろうし。していたらびっくりだがな。慣れないことは体力使うからな。俺ですらこういう掃除はたまにしかしないから今も横になったらすぐ寝れそうだし。多分—―。

 本当は結崎を起こした方がいいのだろうが……起こさないとその後になんやかんやとか言うことがあるかもだし。

 でもあまりにも気持ちよさそうにというのか。ちょっと結崎の寝顔が見えているのだが。幸せそうというか。なんか惹きつける何かが――という感じで、起こすに起こせないという。


 結局、もうしばらくこのままにしておいてあげよう。ということで俺はちょっとブランケットを探して結崎にかけておいた。

 いや、結崎はロングスカートとはいえ。ちょっと寝がえりとかで動くと危険だからな。スカートを直してやるとかそんなことは絶対できないので。予防のためとりあえずブランケットをかけておいた。


 そして俺は部屋の外に移動する。という選択肢もあったが。さすがに俺もくつろぎたかったのでそのまま壁にもたれた。もちろん結崎とは適度な距離をとっている。


 休憩だ。休憩。座ったら一気に疲れが来た。


「……スゥ……スゥ……」


 って、あまりリラックスは出来ないか。なんか、気持ちよさそうに寝ている方が居るのでね。俺が静かだと寝息が小さいが聞こえてくるという。


「……落ち着かん」


 そんなことをつぶやきつつ。っか、よくよく考えたら結崎ってオリエンテーションの時にもこんなことがあったような――とりあえず、なるべく気にしないようにして数十分。


 ♪♪~


 俺も壁にもたれながらちょっとぼーっとしているとスマホが鳴った。


「—―ふぇ?」


 そして、その音で寝ていた結崎が起きたみたいだった。


「あれ……ここは。あっ、私寝ちゃった!?」

「……あっ、おはよう」

「へっ?あっ、松尾君—―居たんだ……なら起こしてよ」


 恥ずかしそうにしている結崎。いや、悪い。俺も部屋から出て行く元気というか。もうすぐに座りたかったからな。


「重労働させたから仕方ないよ」

「見た……?寝顔とか。よだれとか――大丈夫だった?」

「部屋に戻って来た時はどうしようかと思ったけど、よくよく考えたら。オリエンテーションの時も結崎は寝てたか。って思い出したら普通に部屋に居れた」


 半分嘘だがな。俺、落ち着けてはなかったし。


「なっ、なんか複雑ー。って、ホント起こしてよ。もう。って、今スマホ鳴っているよね?」

「—―あっ、電話かって……俺のスマホだ」

「松尾君もかなりお疲れだね」


 ♪♪~


 結崎と普通に話していたからか普通に今もなっているスマホの事を俺は少し忘れていた。ってそもそも自分のスマホが鳴っているということにすら気が付いていなかった。なんか鳴っているな――とかしか思ってなかったよ。

 俺は慌ててスマホを確認すると、相手はばあちゃんだった。基本ばあちゃんじゃなければじいちゃん。2人とも出なければ――誰からがある?結崎?とかしかないからな


「……ばあちゃんのお呼びだな」

「私も行った方がいい?」

「寝ててもいいぞ?」

「—―そう言われると、なんか恥ずかしいから付いてく」

「まあご自由に」


 そして、結崎とともにじいちゃんばあちゃんの家の方に行くと。


「……」

「うわぁ……。またまたすごい」

「……どこから刺身の盛り合わせが出てきたんだよ。この家はどうなってるんだよ……」


 俺と結崎が居間へと行ってみると、机の上には刺身の盛り合わせが。ここ山なんだがな。魚はどこから出てきた?冷蔵庫に居た?いや、昨日出てきてなかったが。もしかしてばあちゃん――俺たちがぼーっとしている間に買い物へ行った?とか俺が考えていると。


「守や。炊き込みご飯もで来たから。台所から炊飯器運んでおくれ」

「……ホント豪華なことで」


 まだあるらしい。


「って、晩御飯も――いいのかな?昨日もらったから……今日お手伝いに来たんだけど……」

「まあ、結崎がここに来ればこうなるか」

「これじゃ繰り返しだね」


 それから俺は炊き込みご飯?が入っているらしい炊飯器を台所から運んだ。その間にばあちゃんは吸い物などを部屋に運んでいた。

 マジで結崎が居るとこの家の料理。ご飯は豪華になるということがよく分かった。


 その後は、ばあちゃんが結崎にお礼を言い続けるとか言う時間もあったが。ホント他人様に家の掃除をしてもらったようなもんだからな。俺からもあとで再度ちゃんとお礼を言っとかないとだな。

 にしても、この刺身上手いな。絶対ばあちゃん買い物行っただろ。これめっちゃ新鮮な気がするし。


 ちなみに俺と結崎は掃除の後2時間くらいぼーっとしていたり。寝ていたみたいだからな。

 だからいつの間にか晩御飯の時間になっていたという事。疲れたんだから仕方ない。結構動いたんだからな。ああいうのんびりの時間も必要だ。とか思いつつご飯を食べていると。


「——うん?」

「どうした?結崎」


 急に結崎がキョロキョロしだした。


「あっ、いや――なんか雨の音?してないかな?って」

「えっ?」


 結崎がそんなことを言うので、俺は立ち上がって居間にある窓の方へと向かった。そして外を見てみると。


「あっ、降って来たな」


 ちょうど雨が降り出したのか。石のところに雨粒が次々と跡を付けていく。

 夕方。というかもう18時過ぎだから――夜までは何とか天気はもったという事か。最近の天気予報の精度の高さよ。すごいわ。


「降って来た?」

「ああ、降って来たな」


 俺は席に戻りながら結崎に言った。


「あっ」

「うん?どうしたの松尾君?」

「洗濯機まわしてそのままだったー」


 洗濯機をまわしていたことを思い出した俺だった。するとばあちゃん。


「裏に干しといたよ」

「ばあちゃんナイス」


 俺の洗濯は屋根のあるところに無事に干されていたらしい。それに連休だし。そのうち乾いてくれたらいいからな。ってばあちゃんよく気が付いたな洗濯機がまわっていたことに、さすがだわ。


「あっ。私傘持ってたかな――」

「それなら貸すから問題ないかと」

「ごめん。ありがと」


 そんな会話をしつつ俺たちは。満腹である。ほとんど皿が綺麗になっていた。

 先ほど結崎が「またたくさん食べちゃったー」とか言っていたな。そして結崎は先ほどからばあちゃんと片付けをしている。

 俺は休憩中。いやマジで疲れたし。満腹になったら睡魔が――である。が何とか耐えているそんな感じだった。


 ちなみにじいちゃんは先ほどまでお酒を飲んでいたが。今は椅子に座りうたた寝—―だった。この部屋は平和だ。


「雨。結構降って来たね。音がさっきよりもしてきた」


 すると結崎が部屋にやって来た。


「あっ。片付け終わった?」

「うん」

「いろいろ手伝ってもらって悪い」

「いいのいいの。私今日はお昼も夜もご飯もらっちゃったから」

「まあばあちゃんが勝手にしてるからそんなに気にしなくても。って、結崎帰るか?早く休みたいだろ?雨強くなるとだしな」

「かな。今座ったらもう動きたくなくなるかも」

「すでに俺がそうだ。でも結崎を送らないとだからな」

「大丈夫だよ?傘だけ貸してもらえたら1人で帰るよ?」

「いやいや、暗いし雨だからな」


 俺はそう言いながら立ち上がる。そして一度結崎とともに俺の部屋へと向かい。置いてあった荷物を取りに向かった。


 じいちゃんばあちゃんの家から、俺の部屋までは一部屋根がないためここですでに傘が必要なんだがな。俺が傘をさして結崎を傘に入れた。


「これ――相合傘だね」


 ふと、結崎がそんなことを言った。


「……なんか悪い」

「いいよいいよ。って松尾君雨の日は大変じゃない?毎回ここ歩くとき傘いるから」

「まあ慣れたといえば慣れたな。この傘は完全にここ用だし。ボロボロなのはそういう事」

 

 俺は傘を見る。

 普通のシンプルな黒の傘だが。すでにいろいろボロが来ている。なのでこのじいちゃんばあちゃんの家から俺の部屋の短い距離だが傘が必要なこの区間用に利用している。ちなみにじいちゃんばあちゃんも勝手に使うので、たまに行方不明になることも。 

 あと俺は雨の日の風呂とかトイレにも使うな。雨の日はちょっと面倒なんだよ。でも慣れればいつもの事って感じだな。じいちゃんばあちゃんの家の方で生活していればトイレ、風呂も屋根続きなんだがな。まあそれは仕方ない。


 とりあえず俺の部屋に到着。ちなみに部屋の前には学校に行くときに使っている傘とビニール傘が置いてある。


 結崎が部屋から荷物を持ってくると。俺は比較的綺麗なビニール傘を結崎に貸した。


「とりあえず遅くなったし家まで送るよ」

「えっ。いいよ?悪いし。駅までで」

「今日は手伝ってもらったし。結崎向こうでも傘居るだろ?それに結崎は傘貸したままとかダメ。って感じで明日とか晴れたらまた持ってきそうだからな。家まで付いていって傘持って帰って来るよ。それの方が結崎も気にしなくていいだろ?」

「……ま、まあ確かに借りっぱなしって嫌だから。晴れたら持って行ったかも……」

「だろ?だから送るよ」

「ありがと」


 そんな感じで話しつつ。掃除をして綺麗になった駅までの道を2人で歩いた。そして駅に到着後2人で改札を抜けた。


「地味に結構降ってるな」


 傘に当たる雨の音はだんだん大きくなっている気がする。


「だね」


 俺と結崎は駅で電車を待ちつつそんな話をしていた。それから少しして電車が田園駅にゆっくりと入って来た。


「やっぱり誰も乗ってないね」

「特にこんな時間は誰も乗ってないだろな。っか乗ってきたら不審者扱いしないとだし。うちしかないんだから」

「確かに」


 そんなことを言いながら俺と結崎は到着した電車に乗り込んだ。もちろんだが貸し切り。俺と結崎しか乗ってない。俺が座るとそのすぐ隣に結崎が座った。貸し切りの状態なのに、なんかもったいないというか。なんか近いな。まあいいのか。いつもは正面で通路を――だからこれが正しいのか。


「この電車は――楚原さん?じゃないんだね」

「あー、まあ毎時間楚原さんじゃないからな」


 俺と結崎は運転席の方を見た。そこでは運転手の人が折り返し運転の準備をしている。

 ワンマン電車だから全て1人でしてるんだよな。ちなみに行先も田園行きか大学前行きしかないが。プレートを毎回入れ替えている。矢印とかで田園、大学前。とかのプレートがあればいいのでは?と前に一度楚原さんと話したが。昔からの物を使っていて、文字数的に入らないらしい。まあ確かに大学前の3文字ですらパンパンだからな。


 とりあえず運転手の人が1人で現在点検作業をしている。そしてちょっと小走りで先ほどまで最後尾だった車両へと移動していった。今からは先頭車両だな。今度はそちらの運転席に乗り込んで点検作業。それから少しして電車は発車ベルが鳴った。


 数分間の電車移動。もう暗くなってきていたので車窓はわからない。って、そもそも今はトンネルの中だったわ。このトンネルを抜けたらすぐに公民館前駅だ。


 ――コテン。


 俺の肩に何かが当たった。って……また寝てる。まさかこの数分で。というか。確かに急に結崎が静かになったな。とは思ったが。まさか寝ているとは。

 せっかく気持ちよさそうに人の肩にもたれて寝ているが。さすがにここではすぐ起こさないとだ。もう電車のスピードは遅くなりだしているし。トンネルも今抜けたからな。


「結崎。結崎」


 俺は結崎に声をかけたのだった。

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