第23話 おでかけ3

「あれー?松尾?」

「えっ?」


 声の方を振り向いてみると……そこに立っていたのは。


「……えっと――どちら様?」


 全く知らない人だった。


「えー。ひどっ」


 でも相手は俺を知ってる?えっ?誰だろう?俺こんな人知ってたかな……声をかけられたが……全くわからないんだが……誰?と、ちょっと頭の中混乱中。


 今俺の前に居る人は――とりあえず女性なんだが。そういえば、なんか声は聞いたことあるんだが。やっぱりわからない。見た目は……背丈からして同級生くらいに見えるのだが・見えるのだが。わからない。

 服装はこだわりがないという言い方は失礼かもしれないが。普通に部屋着?とか言うのか。なんかこんなラフなスタイルを結崎が部屋で一度していたな……とか俺は思い出していたが。ってこれは関係ないことか。


 とりあえず声をかけてきてくれた目の前の人が誰かわからない。でも顔はなんか見たことある気が……うーん。と、思っていると。


「松尾?」

「えっと――はい?」


 やっぱり相手は俺の事を知っているみたいだが――えっと……うーん。どうしよう。


「もしかして誰かわからない?」

「えっと……は――あっ!」


 悩んだ結果。『はい』と言いかけた時に何かがつながり。そこで俺は気が付いた。そうだそうだこうやって名前を呼ばれたことがこの前ある……のだが。あれ?うん。雰囲気が違いすぎる気が……でも多分だが。あってるよな――?


「もしかして……蓮花寺さん?」


 自信なく言ってみると――。


「おー、すごい。化粧してないのにわかった?」

「えっ、マジ?」


 あたりだったらしい。


「えっ?勘?」

「あ――ちょっと」


 ほぼ勘です。はい。違ったら謝る流れまで予定していました。


「えー。まあ今は完全にオフだからね。何もしてないから。松尾じゃなきゃ話しかけなかったねー」

「……どういうこと?」

「いや、松尾なら変なことに利用しないだろうし。だってクラスの人だと……特に男子に見られたらしばらくネタにされそうだからさ。こんな姿で出歩いてるとか」


 そう言いながら蓮花寺さんは軽く手を広げ自身の姿を再度俺に見せてくる。


「……まあ広めたりはしないけどさ」

「だってかなり違うでしょ?」

「めっちゃ違う。学校のあれは――?」


 別人?と俺が言いたくなっていると。いや、ホント違うんだって。今だに頭の中では『蓮花寺さん?』って、はてなマーク付いてるし。


「化粧の力」

「マジ?」

「大マジ。かなり練習したけどねー。朝からめっちゃ時間かけてるからね」

「ま、だよね。学校だと……」

「なになに?かわいい美人?」

「……」


 いや、それも当てはまるが。何と言うか。ここはなんといえばいいのか。ミスったら怖いしな。難しい。


「なんで引くのさ」

「いや、身の危険を」

「まあ冗談は置いといて。松尾はアクセサリーショップの前で何してるの?」


 そうだ。そういえば俺似合わない場所の前に居るのだった。これもなんて言おうか――。


「あ――まあその……待機中というか」

「あー、あれか。妹待ちとか?松尾面倒見良さそうだもんね」

「あいにく1人っ子です」


 兄妹なしです。そりゃ親戚がちょっと集まれば――居るかな?記憶にないな?集まることも最近はないからな。


「えー、じゃあ……ママ?」

「……言い方があれだが……俺じいちゃんばあちゃんの家に居るので」

「じゃあ、ばあちゃんか!」

「なんでそうなるの!?」


 ばあちゃんがアクセサリーショップ出入り――それはそれでめっちゃ目立つというか。どう見ても今俺達の周りは若い人。学生。子どもしかいない。


「あはは、ごめんごめん、なんか楽しくて。って松尾。マジでこの姿の私の事言いふらさないでよ?写真とか撮ってないよね?」

「会ってからずっとスマホには触ってませんが?」

「よしよし、まあ別に誰かに見られてもいいんだけどー。こうやって話さない限りわからないだろうし」

「……見せたいのか見せたくないのかどっちなのか……」


 すると、俺が話した時だった。


「ごめんごめん。レジでちょっと前の人が揉めててって――えっ?」

「ほっ?」

「あっ――」


 3人がそれぞれ固まるというね……どうしようか。これ。


「……ゆえ?」

「……澪?だよね?」

「……」


 さすが女性同士。というか。まあ蓮花寺さんは――結崎には気が付くというかわかるよな。普通に私服なだけだし。ほぼいつも通りだし。

 っか逆に結崎がよく蓮花寺さんをすぐに理解したとは思ったが。って、わかるんだろうな。もしかしたらオリエンテーションの時とかに見てるだろうし。


「えっ?ええ?どういう状況!?」


 俺が思っていると蓮花寺さんがキョロキョロというか、俺と結崎を交互に見て、って、そうかそれの方が混乱するわな。


「付き合ってたの?」

「「違います」」

「ハモったー」


 はい、ここから俺と結崎。そして蓮花寺さん――休日バージョンとか言っておこうかね。の3人は館内にあった休憩スペースへと移動した。


「なるほどね。この前図書室で助けてもらったから?」

「……ま、まあそういうこと。お礼はしとかないとね」


 結崎はどう説明するのだろうかと思っていたら。椅子に座るなり。


 この前の図書室での事を出して話し出したので俺もそれに合わせた。まあそれくらいしか俺と結崎の接点はないというか。知られている接点がそれしかないしな。オリエンテーションとかその他もろもろのは……言えないだろうし。


「で、ちょっと私が予定埋まってたから今頃になっちゃったと」

「へー。そういえばさ、最近2人仲良いよねー」

「そ。そんなこと……ないよ?挨拶くらいはするけど」

「ふーん」


 交互に俺達を見てくる蓮花寺さん。目が楽しんどる。


「何もないから」

「まあいいや。でも面白い組み合わせだったからね」

「—―そうかもしれないけど……ってさ」

「あっ。ゆえが話変えた」

「だって、澪の姿。一瞬誰かわからなかったよ?」

「でしょー、何も頑張ってないから」


 どや。という蓮花寺さん。って――もしかして素をアピール中?


「……逆にその姿で普通に出歩けているのがすごいよ」

「慣れちゃった」

「……ある意味すごい」


 女子2人がそんな会話をしている間俺は飲み物を買って……大人しく座っていた。


 そして、今改めて見ると……ホント蓮花寺さん雰囲気違うというか。誰か

わからないという。ちゃんと見ると髪型とかはいじってないから、そこに気が付く……かもだが。ノーメイク?とか言うのだろうか。それだけでこんなに別人になるとは……化粧って怖い。変装じゃん。


「休みくらい何もしない方が楽じゃん。休みまで完璧にしてたら倒れるよ?それに肌にも休みをだねー。って単に楽してるだけー」

「そりゃ……そうかもだけど……」


 あー、その言葉は結崎に刺さってるだろうな。絶対刺さった。間違いなく刺さった。そうだよ。休みくらいだらー。っと、リラックスすればいいんだよ。っか、みんなしてるよ。とか思っている俺だった。


「にしてもゆえ。今日はいつも以上に頑張ってない?」

「そ、そんなことないよ?まあ、一応お礼で出かけるからそれなりにはしたけど……」

「へー、へー」

「澪ー?」

「すみませーん。ってさ、もしかして2人はまだどこか行く途中だよね?」

「う、うん。まだ何もお礼してなくて……ついでの買い物を先にしただけかな?私がちょっと無理言って」

「そりゃごめんごめん。じゃ私はそろそろ消えるよ。あまりこの姿でゆえたちと居ると私が目立っちゃうから」


 そう言い蓮花寺さんは立ち上がり……先ほど俺たちが居た文具とかがある方へと手を振りつつ歩いて行った。


「また学校でねー。ゆえ。松尾」

「あ、うん」

「……」


 あまりにあっさりだったため――俺反応できず。


「—―嵐みたいに去っていった?」


 姿が見えなくなってから俺はぼそりと言った。


「どうなんだろう。って……澪も休みは楽してるんだ」

「結崎はそこが気になったと。でもみんな休みはあんなんじゃないの?」

「まあ……一応知ってたんだよ?澪が毎日頑張ってるのは話とかで聞いてたから」

「あっ、だからすぐにわかってたのか。俺は全然わからなかったのに」

「まあ、ぱっと見はね。かなり違うよね」

「なんか目のサイズとか。肌?っていうの?なんか全部違うというか……」

「肌ってそんなところ見てたんだ」

「いや、変な意味ではありませんから」

「ちなみに……私も化粧してない姿は。だね……うん――?あれ!?」


 すると急に結崎が動揺?しだして――何かを思い出したらしい。俺を見つつ。


「あの……松尾君ってもしかして……私の……その――見たことあるよね?」

「あー、うん。結崎がぶっ倒れてじいちゃんばあちゃんのところに居た時にな」

「—―私ダメだー」


 ガックリ落ち込む結崎。


「えっ、今落ちこむ?」

「思い出したら……見せちゃだめなの見せた気がしてきた……なんかごめん」


 いや、あの時は俺も特に触れなかったが。髪の毛が明後日の方向を向いていたのはさすがに気になったが、その他は……って別に結崎は普通というか。化粧を今しているのはもちろん知っているが……個人的にはしていない時の結崎もいいと思うんだが。と、いろいろ思っていたから無言になったからだろ。


「————もしもーし。無言になるほど――やばかった?」


 心配そうに結崎が聞いてきていた。


「えっ、いやいや、そんなことないよ」

「いや、自分でもわかってるから」

「ホント、化粧してない時の結崎も良いかと。って俺はなにを言っているんだ?」

「ホントだねー。何言ってるの松尾君?」

「おい。どっちが始めた話だよ」

「ごめんごめん。でも――ダメなの見せたー」

「それはないかと……」

「—―ホント?」

「うん。だから変に落ち込んだりする必要はないかと」

「……なら。そうする。って座ってばかりだからどこか行こうか?動かないと……また誰かと会うかもだし。ここ結構みんな使ってるから」

「まあ、そうだね。って。そろそろお昼か」

「あっ、じゃあ喫茶店行こう。美味しいお店があるんだ」


 ということで、先ほどまでの話は終了。俺と結崎も席を立ちあがり。って、そういえばさっきまで蓮花寺さん居たんだよな。ちょっと今のドタバタで忘れてた。

 ってそうだよな。休みなんだから蓮花寺さんみたいにみんな出歩いてるかもだよな。ちょっと気をつけておかないと。


 とりあえず、その後俺達は、結崎のいう喫茶店へと向かった。


 ビルを出て――結崎は裏路地に入っていった。俺はあまりこういうところには来ないので初めてのところ。むしろこんなところがあるのを初めて知った。ホント狭い路地だな。とか思いつつ結崎に付いていく。

 ちなみにちゃんとお店もあり。新しいお店もいくつかあった。


「ここ、ここ」


 すると結崎が止まってこちらを振り向いた。結崎が指さす方を見ると――普通の喫茶店というか何年も何十年もありそうな感じの落ち着いた感じのお店だった。


「結崎がこういう店を知っているのに驚いた」

「えっ?」

「いや、もっとなんていうのか。人がたくさんいて。女子がキャーキャー言いそうなメニューがあるお店を一瞬想像していた」

「松尾君の中で私のキャラ……なんか変だよね」

「結崎が無理をして作っているからだと思いますがね?」

「うわー、攻めてきたよ。って、とりあえず入ろう?ここ通路が狭いから人が来ると詰まっちゃうし」

「確かに邪魔になるな」


 そしてお店の中に入ると。


 落ち着いた感じの良いお店だった。ゆったりとしていてお店の中で流れている音楽がまた心を落ち着かせるような感じの音楽で良い。

 お店の人に席へと案内されて俺と結崎は向かい合うように座る。


「結崎はここ来たことあるの?」

「うん、まだ1回だけだけどね。みんなで遊びに行った帰りに見つけて、いい感じのお店だなー。ってことでこの前だったかな。奈都なつと来たんだ」

「……奈都?」


 知らない人の名前が出てきたぞ?


「うん?あれ奈都知らない?」


 不思議そうに結崎は首をかしげる。


「えっと……苗字は――」

「あー、長宮ながみやだよ。長宮奈都」

「あー、長宮さんか。ちょっと名前忘れてた」

「本人に言ったら怒られるよー」

「いや、そこまで接点ないから」

「あー、そういえば……松尾君って……澪とはちょくちょく話してるの最近見るけど、他の人はあまりないよね?」

「何故に蓮花寺さんと話しているのは知っているのか――って、蓮花寺さんともそんなに話してないぞ?」

「そうかな?まあ席が前後だからね。すこしくらい松尾君の事はわかるよ」

「まあ、そういうことにしておくか」

「そうそう。あっ、何頼む?」


 そう言いながら結崎がメニューを広げた。


「あー、ナポリタンいいな」


 俺はメニューの中で一番大きな写真が使われているナポリタンにすぐ目がいった。多分このお店のおすすめなのだろう。


「わかるわかる。私はたまごサンドとか、オムライスも気になるんだけどね。ちなみにこの前はミックスサンドだったかな?それも美味しかったよ」

「初めてだし……俺はナポリタンにしようかな」

「じゃ私はたまごサンドにしようかな。飲み物どうする?私は紅茶」

「俺は……コーヒーかな」

「おお、なになに、苦いの飲めますアピール?」


 いじる感じで結崎が話してくるがちがう。マジで違う。


「違うから。いや、普段からというか。なんかじいちゃんところに中元?とか歳暮でさ。よくコーヒーが来るみたいなんだけど。じいちゃんもばあちゃんもあまり飲まなくてほとんど俺が飲んでたから気が付いたら好きになってたみたいな」

「あー。そういうこと。じゃ、それでいい?」

「うん」

「すみませーん」


 それから結崎が注文をしてくれて……少し話していると。


「おお、なんか懐かしい感じ」

「ナポリタン美味しそうだね」

「っか結崎の頼んだたまごサンドすごいボリュームだね」

「ホント……そういえば前はハーフサイズにしたかも――」


 結崎の前にはなかなかな量のあるたまごサンドが置かれている。


「あー。ホントだ。ハーフもあるね」

「でも美味しそう。そしてたまごが分厚い」


 とりあえずは2人でいただきます。


「美味しい」

「美味い」

「たまごがいい感じだよ」


 俺の目の前では結崎が幸せそうにたまごサンド食べていた。っかそんなに美味そうに食べてたら気になるじゃん。とか思っていたのがバレたのかは知らないが……少しして。


「松尾君。松尾君」

「うん?」

「ここに小皿があります」

「—―あるね」


 それははじめから机の隅に置かれていたお皿。多分全体的に量が多いからとりわけができるようにと置いてくれている気がする。


「ちょっとだけナポリタンダメ?」

「えっ?いいけど……」


 結崎よ。その量のたまごサンド食べてさらに食べれるの?と思っている俺だったが。


「ちょっと違う味をね」

「まあたまごサンドばかりはね」

「美味しいんだよ?あっ、松尾君に1つこっちのプレゼントするよ」


 ということで少し物を交換することとなった。ちなみに結崎は一口。俺は――1つなので――上手に結崎は食べる量を減らしていた。


「あー、ナポリタンもいい味」

「うわー、すごい。たまごサンドってこんなに美味しかったんだ……って、コンビニ以外で初めて食べたかも」

「でしょでしょ。ここパンも美味しいと思うんだよ」

「うん。美味しい。たまごがこれちょうどいい厚さでこのふわふわさ……すごい」


 しばらく俺と結崎は感想の言い合いをしつつ――完食。結構な量とか言いつつ2人とも目の前の皿は空っぽだ。


「食べちゃった」

「まあ一応1人分で作られているだろうからね」


 その後は少し飲み物を飲みつつ休憩。


「この後どうしようか?」

「あっ、うん。俺はまあ同じ答えばかりで悪いけど……どこ行っても新鮮だから楽しい」

「よかった。なら――ストレス発散的な?」

「うん?」


結 崎はそんなことを言っていたので……あー、これはカラオケとかそんな感じかな?とか俺は思ったのだった。

 ちなみにほとんどカラオケとか行かない俺には厳しい――とか思いつつも結崎しかいないから――大丈夫か。とか思っていると。


結崎は伝票を持って立ち上がった。


「あれ結崎。自分の分は払うけど……」

「お礼だからいいよー」

「あっ……そういう事」

「そうそう。だからここは払わせて」

「えっと――ごちそうさま?」

「うん」


 ということでお昼は結崎に奢ってもらう形となり。


「こっちだよ」


 俺はまた結崎の後を付いていく形で移動を再開したのだった。

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