第21話 お出かけ

 とある金曜日の放課後。

 俺はいつものように委員会の仕事のため図書室に居た。


 今日は楚原先生が職員会議?やらで留守のため。放課後に来て、楚原先生と受付を交代してからは、ずっと1人で受付にて、ぼーっとしている。本当なら返却された本を戻すとかいう作業があれば。だったのだが。今日はすでに昼休みの時間で終わっているらしくその仕事はなかった。

 さらに放課後利用する生徒がいなくてね。ずっと受付に居るだけは……眠くなってきたが。下校時間まであと数十分。頑張らねば……と思っていると。


 そんな時に廊下の方から足音が聞こえてきて――。


「松尾君。ごめんねー。1人で大丈夫だった?」

「大丈夫です。全く問題ありませんでした。利用生徒……0人です」


 楚原先生と話したことで眠気は飛んでいった。


「ありゃー、まあいつも通りだね」


 楚原先生はそんなことを言いながら受付カウンターに……なんか紙袋を置いた。何かこの後するのだろうか?とか俺が思っていると。


「あっ、松尾君もう帰る準備していいわよ」

「えっ?まだ下校時間まで少しありますよ?」

「大丈夫よ。それに待たせるのは悪いわよ?」

「……はい?」

「はいはい。片付けて荷物持つ。そして廊下へ行く」

「えっ?えっ?」


 なんか楚原先生が楽しそうにそんなことを言いながら……俺の背中を押す。そして。


「お疲れ様ー。ファイト!」


 謎な感じというか。なんかテンションの高い楚原先生により。図書室から追い出されるように出た俺だった。


「……なんなんだ?なんかこの後図書室であるのか?さっきの紙袋は……普通に図書のプリントだったし……」


 とか思っていると。ふと廊下にあった人影に俺は気が付いた。


「うん?」

「—―あっ」


 どうやら向こうも気が付いたらしい。バタバタした感じで出てきたから音で気が付くよな。


「……結崎。何してるだ?そんなところで」


 図書室からちょっと離れたところの柱の陰に見覚えのある姿があった。結構待っていたのだろうか。足元にカバンを置いて、暇していましたオーラが……ある気がする。


 って、なるほど。楚原先生が言っていたことはこういう事か。とりあえず俺は、結崎のところに向かうこととした。


「どうしたんだ?」

「もう委員会終わったの?」

「楚原先生が職員会議から帰って来るなり。人を待たせたらー。やらやらで帰らされた」

「えっ?先生もしかして……私に気が付いてたの?わざと職員室とかのある階段とは反対側の廊下に隠れたんだけど……」

「結崎のオーラが見えたんじゃないか?」


 つまりバレバレだったという事だろう。


「そ、そんなのないから」

「それはいいとして、なんか用事か?」

「あ、うん。ちょっと」

「歩きながらでも大丈夫か?か、どこかちゃんと?」

「あー、普通に帰りながらでいいよ」

「なら――帰りながらか」

「うん」


 俺と結崎は下駄箱に向かって歩き出した。


 ってなんかやっぱり2人で居るのは変な感じだな。教室に居る時は、挨拶程度か。たまにちょっとした話は最近しているが。なんかこの前の一件以来?というのか。結崎は俺と話すときにちょっと慌てているというか。変な感じなんだよな。教室では……いつも通りの明るいキャラなんだが。あ、いや。今も明るいぞ?でもなんか違うんだよな。って、まあ2人だけだからか。そりゃ変な感じもするか。


 ってあれ?なんか用事があって結崎は俺を待っていたのでは?と、思った時だった。


「松尾君?聞いてる?」

「へ?」

「その反応は聞いてなかったよね?」


 あっ、これはちょっと怒っているかな?全く聞いていませんでした。余計な事考えていました。すみません。


「あ、いや――」

「じゃ問題です。私は今何を聞いたでしょうか?」

「……」

「後5秒」

「短っ!」

「4……3……2……」


 カウントダウンまで始まってしまったが。何も聞いてなかったから何も思い浮かばないというか。わからん。こういう場合は……。


「ごめんなさい。ちょっと聞いてませんでした」


 素直が一番である。


「もう……やっぱり……そんなに―—行きたくない?」

「—―えっ?」


 俺の横で結崎はちょっと不貞腐れた顔をしていた。


「—―だから……明日とか。前に言ったお礼したいから――出かけないって?聞いたんだけど……」

「あ――あー。って、お礼とか気にしなくても」

「いや……でも結構私いろいろ松尾君に迷惑かけているからさ。本当に1回はお礼しておかない。ムズムズするというか。うん。って、明日とか用事あった?」

「いや、全く」

「……」

「……」

「……」


 突然始まる沈黙。


「……えっと、この沈黙は何でしょうか?」

「えっ……その返事を……いただけますと……ってなんか固くなっうちゃうなー」


 自分の頬を引っ張りつつつぶやく結崎。


「あっ。うん?いや、俺は大丈夫だが……」

「じゃ、明日10時集合くらいでどうかな?やっぱりお礼したいから」

「えっと――まあ問題ないけど。どこに集合?」

「お店とかいろいろあるのは大学前だから……」

「じゃ大学前でか?」

「かな?」


 そんなことを話していると下駄箱に到着。靴に変えてさらに話しながら駅へと向かう。まだまわりは下校時間になっていない為。部活動をしているらしく。下駄箱周辺の生徒は少なめだった。結崎が目立っている気もするが――仕方ないか。いつもの事だ。


「どうしたの?」

「いや、なんでも」

「で、松尾君どこか行きたいところある?」

「いや。俺休みはほとんど家だったからな。どこ行っても新鮮かも」


 そう、ホントどこか行くってないからな。自然にならいつも囲まれているからそういうところ以外ならどこでも歓迎である。


「なら任せてくれる?」

「おまかせします。ってさ」

「うん?」

「2人で行くの?」

「えっ?そ、そうだけど……」

「……」

「……」


 再度の沈黙。いや、これってさ。デートとか言うの?とか俺は思っていたが。口には出せず。とりあえず2人とも沈黙だ。


「……」

「—―嫌?」


 心配そうに結崎が聞いてくる。


「そんなことはないが……結崎的に大丈夫なのかな?って」

「私は松尾君と居るのは前に言ったとおりだから」

「なるほど」


 これは俺の気にしすぎ?というやつだろうか?経験ないんでね。悪い。ってか、そんなこと話していたら駅に俺たちは到着したので、そのまま電車を待つ。


「ところで松尾君は休みの日は何してるの?」

「うん?基本家かな。じいちゃんばあちゃんの手伝いもちょくちょく。ってどこか行くにしても電車乗らないとどこにも行けないから自然と家で……になるんだよな。まあじいちゃんばあちゃんの手伝いとかしてたらあっという間というのもあるけど。あっ、買い物くらいは行くぞ?」

「なるほどね」

「ちなみに結崎は?」

「えっ、あっ。うん。誘われたら遊びに行ったりかな。でも土日ならどちらかは家に居るようにしてるかな?休みたいから」

「休みは大切だからな。って、俺と出かけるのって負担に……」

「それはないから大丈夫。ホント松尾君と話している時は私めっちゃ楽なんだもん」

「楽。というのをどう受け取ればいいのか。何だけどまあ結崎がいいならいいけど」

「うん」


 話していると電車がホームに入って来た。今日は――0人でやって来た。どうやら大学前からは誰も乗る人が居なかった様子。

 そしてこのホームには俺と結崎を入れて5人が待っていた。ということは車内は5人。だが田園。終点まで行くのは1人か。とか思いつつ。座席に座る。結崎は……俺の正面に座った。


「だから結崎。何で通路を塞ぐ?」


 前もそんなことを言って気がするが俺は再度聞いてみた。


「大丈夫だよ。誰もこの車両はまた乗ってないからね」

「まあ、そうだけど」


 結崎の足が俺の足に軽くぶつかる。


「あっ。ごめん」

「いや、狭いから仕方ない」

「ホント狭いよね」


 正面に結崎が座るとまあ全身が見えるというか。見えるな。ホントこうしてみると……良いスタイルしてるよな。足長いし。細いし。って、全体的にスリムか。とか余計なことを考えていた俺。


「松尾君。今変な視線なかった?」

「—―ないから」


 バレてたよ。


「ほんとかな?変な間もあった気がするけど……」

「ないない」

「まあ少しくらいあっても許すよ?」

「なんか結崎キャラ変わった?」

「それは松尾君の前だけだと思うよ?」

「何故に?」

「だって――松尾君の前でいろいろ演技する必要がないからね……いろいろ……恥ずかしい思いもすでにしちゃったから……もういいかな?的な」

「—―楚原先生未だにネタにしてるもんなー」

「あー、それは聞きたくないです。聞きたくない。本当に私図書室に今入れないもん。楚原先生が絶対いない……ならいいけど……居たら絶対笑われるし……」

「拒絶したよ」


 楚原先生当面結崎とは会えないみたいですよ。


「だってあれは――まるで私が……ま、松尾君の事—―好きみたいな感じになっちゃってたし」

「何度もその後聞いたからちゃんとわかってるって」

「—―う、うん」


 そうそう、前に結崎が図書室で楚原先生と俺のやり取りを……の後か。いや、さすがに、もしかして結崎俺に――とか一瞬思っちゃったよ?でもそのあとに「ちゃんと理解してよ。わかった?」みたいな感じで結崎に何度もその後言われたからな「そういうのじゃなくてー」とか。何度も聞いた気がする。

 あれだけ必死に言われたらな。俺もまあ理解するよ。それに未だにだが。ってさっきもそんなことを俺は言っていたと思うが。結崎の隣を並んで歩く勇気がね。さっきは。人の目が少なかったからだが。あれが周りに生徒たくさんとかだと。ちょっと厳しいかな。差がすごいからね。室長様と俺じゃ。天と地だよ。


「もしもーし。また松尾君自分の世界に居ない?」


 はい、居ました。ごめんなさいである。


「あっ、ごめん。ちょっと違う世界に居たかも」

「……実は松尾君……私で変な妄想—―」

「してません。はい」


 それはマジでない。


「……そう?」

「っか結崎もうすぐ公民館前だけど?」

「あっ。ホントだ。話していると5分くらいってあっという間だね」

「まあ、そうだな」

「じゃ、明日よろしくね」

「わかった」

「バイバーイ」

「ああ」


 そこで電車は公民館前に到着。結崎は立ち上がり俺に手を振りつつ電車を降りていった。そして俺が先ほどした予想通り車内は1人。多分前の車両は0人になった。


 いつも通りの車内。電車は公民館前を出発してトンネルに入る。そして終点。田園駅へと向かう。


 田園駅に到着後はいつもの道を家へと向かって歩く。

 無事野生動物との遭遇。とかいうことは今日もなく家に到着。いや、でもホントそろそろこの道の両サイドの草とか刈らないと……物騒というか。なんか動物いらっしゃい状態になりそうな気がするのだが――じいちゃんに言っておくか。とか思っていたらちょうどいい事に、家の前に居たじいちゃんと少し話してから俺は自分の部屋へと向かった。


「ふー。1週間終わった」


 俺はそんなことを言いながら制服を脱いで……着替えた。って、そういえば――。


「明日—―何着ていけばいいなんだ?」


 俺は部屋にある服とにらめっこすることになった……のだが。そんなときに俺のスマホが鳴った。


 ♪♪~


 電話—―ということは……と思いながら画面を確認すると。


「ばあちゃんか」


 いつも通りお呼び出しらしく。時間的に晩御飯ではないので別の何か用事だろうと思いつつ。俺はお隣のじいちゃんばあちゃんの家へと向かった。


「ばあちゃんなんか用?」

「あー、守やおかえり」

「ただいま」

「さっき声がしていたからね。いるんだと思って」

「うん。で?」

「守や。明日空いてるかい?」

「えっ?」


 その時結崎との約束を思い出した。ちゃんと忘れてないぞ?覚えているからな?そんな即忘れないからな?俺の記憶大丈夫だ。


「あ……あー、明日は」

「なんかあるのかい?」

「ちょっと朝から出かけてる」

「なら、朝行くときでもいいから。結崎さんにおかずを届けておくれ」

「……」


 いや、ばあちゃんよ。俺――そのお方と出かけるんですが。


「どうしたんだい?」

「いや、まあ明日会うのが結崎なんだけど」

「ならちょうどいいね。頼んだよ。いろいろ今から作るからね」


 ばあちゃんの目が光った気がする。これ――めっちゃ準備しそう。


「タイム。ばあちゃんタイム」

「今回は肉じゃがにしようかね」

「もしもーし」

「漬物も美味しい言っていたみたいだからね。いろいろな種類があったもいいかね。頑張らないとね」

「……」


 聞いてない。もうばあちゃんは献立?を考える自分の世界に入っていた。って、これは結崎に連絡しておかないとじゃないだろうか?おかずを持って出かけるとか……ないよな。ないない。


 ということで、ばあちゃんは自分の世界に入ってしまっているため。間違いなく明日の朝には完璧に結崎に渡すようの料理を作ってしまうだろう。ということで。


 俺は部屋に帰り。結崎にメッセージを送っておいた。


『家に帰ってきたら、ばあちゃんがまた結崎におかず渡したいとか言ってなんか準備しだしちゃってるから……明日の朝結崎の家に集合とかでも大丈夫?』


 これが一番いいだろう。ということで、集合場所を結崎の家。という提案をした。


 ◆


 さすがに、すぐに返事はなかった。多分結崎も家に帰って片付けとかいろいろ1人暮らしだからあるだろうしな。って、俺は明日着る服を考えないとか。そんな外出用の服なんてあったっけな?とか思いながらタンスをあさっていると。


 ♪♪


 スマホが鳴ったので確認する。


「大丈夫だよ。ってなんか毎週もらってるけど……おばちゃんにもお礼言いに行った方がいいよね?」


 結崎からの返事が来ていた。


「いや、大丈夫かと。ばあちゃんは自分の楽しみの1つでやってるみたいだし」


 ♪♪


「でも……あっ、とりあえず。明日は私の家まで来てくれるんだよね?」

「そうなったかなー。食べ物持っては出歩けないし」


 ♪♪


「それもそうだよね。わかった。待ってるね」

「ありがとう」


 そこで結崎とのメッセージは終わったが。俺の服選びは終わらなかった。

 それからしばらく服をあさり。結局は無難というか。シンプルなものになった。というかそんな服しかなかったので――。最悪……結崎の反応を見て謝れば――ということに。仕方ない。外出用の服なんか持ってないし。


 そんなこんなで俺が自分の持っている服の少なさを実感し。どうにでもなれ。みたいな感じでまとまった時に再度スマホが鳴った。


 今度はばあちゃんから。時間を見ると――夕食の時間を過ぎていたのでお呼び出しらしい。時間も忘れるほど真面目に俺は服を探していた。というか服の無さに落胆していた。ということで俺はいろいろ出したものをざっと片付けて。じいちゃんばあちゃんの家へと再度向かったのだった。

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