第20話 勘違い2

「—―えぇぇぇぇぇ!!!!????」 


 少し前に図書室内に結崎の声が響いてから少し。


「……恥ずかしい。死にたい」


 我らのクラスの室長様。顔を真っ赤にして。図書室内の机でつぶれている。いや、これもまた初めて見る姿だった。


「にしても、松尾君もひどいねー、こうなることを予想して、わざわざ図書室まで連れてくるとはねー」


 俺の横に居た楚原先生がそんなことを言っていたが俺はこんな未来は予想していなかった……多分。ちょっと驚くだろうな。とかは思っていたんだが――ここまで潰れるとは。にしても顔真っ赤である。


 そんな結崎を見つつ。俺はちょっと考えてみる。

 結崎は俺と話していた人というかスキンシップ?攻撃?のあった。楚原先生の事を知らず……まあ見た目学生ですからね。ホント。おまけに今日の服が偶然にも制服に近いというか。紺の色なんでね。離れたところからなら学生にさらに見えるかである。

 つまり図書室で俺と楚原先生がなんか楽しそうに話していたから。邪魔しちゃ悪い……で、Uターンしたが。よくよく考えたら私今までもすごく邪魔なことしていたんじゃないの?的な事で悩み――トイレに引きこもるになるになったのか……で、合ってるか結崎?って今はこれの再確認したら俺は刺されるかもしれないからそっとしておこう。ただ俺が勝手に考えたことである。


「にしても、結崎さんがこんなにかわいい子だったとはね。今日はいろいろ発見があるわー」

「楚原先生。今結崎をいじめない方がいいですよ」


 大爆発したら俺止める自信ないし。


「だって、かわいいじゃん。って結局は結崎さんは松尾君と私のやり取りを見て、もやもやしたんでしょ?」

「……楚原先生。すごい視線が机から来てますよ」


 俺怖くてそっちは直視できない。でも楚原先生は特に――である。強い。


「あららー。怖いわーふふっ」


 机の方からは結崎が先生相手だが……許さん。的な目線で楚原先生を見ている。

顔は真っ赤でちょっと涙目だから――かわいい。に落ち着いてしまうのだが。


「でも、2人もさすがにそろそろ帰らないと。遅くなるわよ?」

「ですね。結崎どうする」

「……帰ります」


 そういいながら結崎は立ち上がった。そして荷物を持ち――。


「—―—―—―お騒がせしました」

「大丈夫よー、また遊びに来てねー」


 楚原先生強い。っか……しばらく俺は毎日放課後が大変そうだ。


「—―松尾君?」


 俺がちょっと固まっていると。結崎に声をかけられた。とりあえず、一緒に帰るのは良いみたいだ。


「はいはい、行きますよ」


 俺は結崎の方に足を進める。


「彼女が呼んでるわよー。松尾君」

「違いますからね?」


 振り向きつつ訂正。これ大切。


「あららー」

「楚原先生。刺激しないでください。俺に火の粉がとんできます」

「ふふっ、気を付けてね。あっ、松尾君ちゃんと送ってあげるのよ?」

「とりあえずお騒がせしました」


 俺が先生に言う頃には結崎はすでに廊下に出ていた。


 そして俺が結崎を追いかける形で図書室を出ると結崎は出てすぐのところで立っていた。あれ?俺睨まれて――る?睨まれてるね。


「……」

「……」


 そしてめっちゃ静か。このままでは――なので俺はゆっくりと進むと、結崎がちょっと後ろを付いてきた。


「……」

「……」


 そして昇降口まで来た時だった。


「……ごめんなさい」

「—―うん?」


 ふと、小さな声が聞こえてきた。


「その……いろいろと」

「いや、面白かったから」

「もう!」

「まあまあ、結崎の勘違いから始まったこと」

「そうだけど――」


 そんなことを話しながら靴を履いて……外へ幸いまだ鍵が閉められていなかったので普通に昇降口から外に出れた。というかちらほら駐輪場とかまだ話している学生が居るからな。みんな帰りたくないのかよ。とか思っていると。


「あー、やっと来たー!って松尾も一緒じゃん」


 ちょっと大きめの声が。ってこれは蓮花寺さんだよな。さすがにわかる。

 そんなことを思いつつ俺が前を見ると。こちらに駆け寄ってくる女子生徒。蓮花寺さんがいた。そして俺の斜め後ろに居た結崎は――。


「ヤバ……メッセージ作ってる途中だった」


 どうやら結崎は蓮花寺さんの事をすっかり忘れていた様子。そういえばトイレの前でなんかしている時に声かけちゃったからな。つまり蓮花寺さん1人待ちぼうけ……。お疲れ様です。


「ゆえー。心配したよー。なかなか来ないんだから。ってなんで松尾も一緒になった?ってもしかしてまたゆえナンパした?」

「ち、違うからー」

「って、あれー?ゆえ泣いた?」

「なっ……」


 すると。俺の隣からヤバイヤバイ。というオーラが――こういう時は助け船が必要なんだろうが……いい言い訳ね。図書室に居ただけだし……ってそうか。それでいいんだ。


「いや、その、あれから俺忘れ物探しに行ったじゃん」


 考えながら俺は蓮花寺さんに話をする。


「そういえば松尾。1回帰って戻ってきたよねー」

「で、教室になくてさ。あっ、委員会の時か。で図書室に戻ったら。結崎さんと先生が居て。何話してるんだろう。って思ったら――本の返却忘れた上に今その本を紛失中みたいで怒られているところに偶然遭遇したわけ」


 完全に嘘だが――何とかなることを祈りつつ話を進める俺。


「うわー、ゆえ何してるのー。って。ゆえ本読むんだー」


 結崎はちらっと俺の方を見てから……多分俺の考えは伝わったらしい。


「そ、そうなんだよ……ちょっと気になった本があったんだけど――そのやらかしてね。どっか置いて――で」

「で、なに号泣しちゃったの?ゆえもかわいいところあるんだね」

「……」


 すると結崎はまた俺の方を見た。まあこのまま進めていいのかわからないが。はじめてしまったので進めるしかないか。


「まあ、図書の先生は、ちょっと意地悪だから、いろいろ言われたみたいだよ。で、まあいろいろあったみたいで……」


 これ事実でもいいような……ダメ?


「ちょ、ちょっとね……予想外で。ご、号泣はしてないから。そのびっくり?的な」

「うわー、ゆえ泣かすとか図書の先生めっちゃ怖いね。私は全く用がないからよかったー。図書の先生知りもしないからねー。怒られることもないだろうし。良かった良かった」


 嘘と言えば嘘だが……意地悪な先生やらやらはあってるし……大丈夫だろう。明日にでも楚原先生に口裏合わせでもしてもらおう。多分—―喜んでしてくれる気がするし。 

 なお、俺が精神攻撃されそうだが――何とかなるだろう。


「まあでもよかったよー。メッセージも返ってこないからさ」

「ごめんごめん。あっ、でも今からじゃ買い物行くのも遅いよね?」

「いいよいいよ、私は暇で待ってただけだし。ゆえはなんかナンパしてきたみたいだし。今日は松尾にゆえを譲るよ」

「だからー。松尾君は……」

「はいはい違うんでしょー?うるさいなー。ゆえは」


 なんか隣で2人が楽しそうに話しているが—―俺邪魔かな?とか思っていると。


「じゃ、松尾。ゆえをまかせたー」

「えっ?」

「あっ澪?」


 そう言うと蓮花寺さんは満足したというのか。結崎を確認したからOKなのか。そのまま手を振りながら帰っていった……って俺達取り残されたんだが。


「蓮花寺さん――よかったの?」

「あ――うん。帰っちゃったね」

「……いいお友達で」

「……あ、うん。なんかありがとう」


 結崎とはその後そんな会話をしながら駅までやって来た。


 少し電車が来るまで時間があったので結崎はベンチに座り俺はベンチの横に立っていた。


「ね、ねえ」

「うん?」

「さっきのさ。楚原先生がめっちゃ怖い先生みたいな感じで言っちゃったけど……大丈夫かな?」

「大丈夫じゃないかな?まあ明日口裏合わせお願いしておくよ」

「……いろいろごめん。助かる」


 結崎が言った時だった。


「何が口裏合わせなのかな?」

「「うわっ!」」


 俺と結崎は同じ反応をして声の方を見た。


 そこには――小さな先生……毎度のことながら失礼。楚原先生があれ?楚原先生って……こっち方面だっけ?と、俺が思っていると。


「2人が何か楽しそうな話していたから聞きに来ちゃった」


 この先生ホント学生で通るよ。


「—―びっくしりた」

「まだドキドキしてる……」


 結崎は心臓付近を抑えて――って、確かに。俺もドキドキだわ。全く予想してなかったからな。


「2人ともいい反応ね」

「楚原先生ってこっち方面でしたっけ?」

「私はあっち、反対側だよ」


 真逆を指差す楚原先生。なら何故居る――。


「ですよね。こっちで見たことなかったので」

「で、口裏合わせが何かな?楽しそうな話?ねえねえ」


 めっちゃ楽しそうな顔をしている楚原先生。ってこれ もしかして聞いていたんじゃないだろうか……なので一応確認のため。


「—―実は楚原先生今の話聞いていたとか?」

「聞こえちゃったー」


 言葉の最後に音符マークが尽きそうな感じの笑顔で返事をしてくれた。


「……」


 結崎はなんかまた顔を赤くして――フリーズなので。


「じゃあの……楚原先生お願いが……」


 と、いうことで特に俺たち以外いない田園駅方面のホームで、俺と結崎は先ほどの蓮花寺さんとの会話が噛み合うように、楚原先生にちょっとお願いをしましたとさ。


 そして予想通り。


「OKOK。先生にまかせなさい!楽しそうじゃん!」


 とか楚原先生は言っていたから大丈夫だろう。そして俺たちが乗る電車がやって来たので、そこで楚原先生とは別れて俺と結崎はいつも通りのよく空いた車内へと入った。


 いつもの狭い車内。今日は結崎は俺の正面ではなく……隣に2人分?くらい空けて座っている。


「いろいろあって――疲れた」

「ホント。結崎の勘違いで」

「だから……それはごめんてば」

「っか、俺も何してるんだか。って今思ってる」


 これ俺が頑張る必要なかったことだからな。でも誤解を解いておかないとクラスで変な雰囲気にはなったかもだが。


「そういえばさ……松尾君もしあそこでメッセージの音が聞こえなかったり。聞こえても私が出てこなかったら……女子トイレに突撃するつもりだったの?」

「そんなことはしませんから、声かけるくらいだよ」

「まあでも、あの時はびっくりしたよ、返事を返したらすぐに外でスマホの音が鳴るんだもん。誰か居るの!?ってホントびっくりしたんだから」

「そういえばそこで痛いとか言ってなかったか?」

「あ――あれは……ちょっとびっくりして。壁にぶつかって」

「なるほど」

「だって焦るじゃん。誰か居る!?ってなったら。あんな普段人が居ないところで」

「まあ、それはごめん」

「ホントだよ。もう」


  結崎と話していると電車は公民館前に到着した。


「じゃ、松尾君また」


 そう言いながら結崎は立ちあがる。


「ああ、気を付けて」


 本当は楚原先生に言われていたので「遅くなったから家まで送ろうか?」とも。到着間際に提案したが「大丈夫だよ」と結崎がずっと言うので俺たちは電車内で別れた。


 そして今日も俺1人を乗せて電車は田園駅へと向かった。


 ちなみに翌日蓮花寺さんに放課後振り回された。とか言うことを。数日後聞いた俺だった。よくよく考えると蓮花寺さんは相当な時間待たされていたんだからな。そうなるわな。それは仕方ない結崎である。


 あと、図書室で本の返却を忘れたりすると……床に正座をさせられて。学校の決まりが緩いことを理由……ありとあらゆる罰を図書の先生から受ける。という噂が広がりだしたのは翌週あたりからだった。


 すでに生徒に被害者もいてさらに噂が広がり。相手が先生でも容赦なく。すでに保健体育の先生が図書の先生にボコボコにされて大泣きしたとかの噂があるとかないとか。大丈夫か?この学校。ってか、図書室――。


 一応俺は楚原先生に確認したら。


「保健の先生にね。この前の罰として協力してもらったのよ。それ以来。返却率100%!」


 とか言っていた。あれは――マジで何かしたかも。


 ちなみに結崎は蓮花寺さんに絶対あのことは言わないようにと。出かけた際にいつもよりリッチなパフェを奢って口止めしてるとか。フルーツがめっちゃ刺さっていた。とか聞いたか。刺さっていた?はちょっと気になったが。まあ詳しくは聞いてない。


 そういえばあれ以来教室でも蓮花寺さんと挨拶をするというか。話しかけられるようになった俺だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る