第18話 図書室

 月日が流れるのは早い。もうオリエンテーションから数日だ。


 学校行事として大きなことは……この後はしばらくないかな?多分ない。

 あー、訂正。どうでもいい事かもしれないが。今日は内科検診やらがあった。それだけ。一応これも学校行事と思うのでね。言っておくことにする。


 とりあえず、現在は学校の授業も本格的に始まり。部活動、委員会もしっかりと行われている。


 ちなみに俺の席の後ろの方は元気な日々が続いているようだ。今日も1日クラスをまとめていましたね。ハキハキと。そして俺は……結崎のお友達さんたちによく席を取られていたので、昼休みとかも図書室に行ったり。決して追い出されているわけではない――多分。

 そして今は放課後になるのだが。放課後も図書室へと俺は向かっているところだ。ってか、放課後に図書室に向かうのはいつもの事か。委員会だからな。このサイクルも慣れてきた。


「——こんにちは」


 開いていた図書室のドアから入りつつ挨拶をする。


「あっ、松尾君。今日もお願いね」

「はい。本揃えてきます」

「よろしく。ちょっと今日は多いからね。こっちが片付いたら手伝うからね」

「ありがとうございます。出来る限り頑張ります」


 図書室に着くと俺は楚原先生に挨拶のち。早速今日の仕事に取り掛かる。

 授業が始まったからか。貸し出しの本や。多分授業とかでどこかのクラスが使ったのだろう。多くの本が元の位置に戻りたがっている。って言い方は変かな?図書室には返却ワゴン。というのがあるのだが。このワゴンに乗っている本は一度貸し出しされたや。図書室で読まれたりしたため。元の位置に戻す必要がある。


 この図書室は。一度読んだ本は本棚に返すのではなく。このワゴンに返すことになっている。あれだ。入れてあったところと別のところに戻されるとね。本が探せなくなるからだ。ちゃんとバーコードとかで管理されているのだが……その位置に本がないと大変なんだよ。ってことで、指定の場所に戻す役目は図書委員の仕事。本に書かれている数字やらでその通りに並べていく。


「今日はホント多いな」


 俺は1人でつぶやきつつ。本を本棚に戻していく。


 ちなみに図書室は現在利用生徒は0。いや生徒ではなく。先生は居るか。先ほどやって来た保健体育の先生だっけ?が、楚原先生と何か話している。


 まあ俺は関係ないのでずっと隅っこで本棚の整理を続けている。

 それからしばらくして保健体育の先生が図書室を出て行き。小さな先生—―おっと失礼。楚原先生が俺のところへやって来た。


「松尾君。この本もお願いしていいかな?」

「あっ、はい」


 俺がワゴンを引っ張りながら本を片付けていると楚原先生が数冊の本をこちらに持ってきた。


「もう。先生が無断で長期間借りたら困るよね」

「えっ?」

「さっきの先生ね。春休みからずっと借りてたのよ」


 なるほどそれでさっき先生が居たのか。何か話していると思ったがそういう事らしい。


「まあ……返却日って忘れそうですからね。一応書いてあるんですがね」

「そのうち生徒にも言わないとね。何人かの生徒が長期間借りっぱなしになっているから」

「そういうのもあの貸し出しとかで使っているパソコンでわかるんですか?」

「そうそう、生徒のバーコードを読んだらすぐわかるわよ?誰が何日借りているかとかもね」

「凄いですね」

「この機械が入ってから便利になったのよ」


 楚原先生はそんなことを言いながら俺の引っ張っていたワゴンから本を取り。本棚へと一緒に入れていってくれた。すると――。


「そうそう、あの人から聞いたんだけど……」

「—―えっ?」


 俺が反応すると。小さな先生……再度すみません。でも小さい先生なので。その小さな先生楚原先生は少し俺より身長が低いのでちょっと背伸びをして俺の耳元で――。


「最近松尾君。同じクラスの結崎さんと仲良いんだって?」

「……」


 何だろう。楚原先生が同じ学生に見えた。というか……ニヤニヤしつつ脇腹を突っついてきた。こんな態度がたまにあるから生徒に見られるんですよ。楚原先生。あと、生徒を突っつかない。


「—―どこ情報ですか?」

「あの人からねー」

「……さいですか。それは……気のせいですね」

「えー、私も結崎さん知ってるんだけど」

「あっ、知っているんですね」

「だって、先生の中でとっても評判いいのよ?ちょっと派手だけどね。この学校では問題ないから。あっ問題行動はしちゃだめよ?」

「ははは……」

「でも、いい子よね。しっかりしていて。勉強もできるし。ってそうじゃなくてー」


 そのまま話がそれてほしかったが無理だったか。


「あの人が松尾君と結崎さんが一緒に居たって同僚の人から聞いたって言っててね。あと、最近松尾君公民館前駅を利用しているって」

「俺の個人情報どこいきました?」


 この駄々洩れよ。予想はしていたが。田舎は怖い怖い。


「大丈夫大丈夫。私で止まってるから」

「……心配しかないんですが」

「大丈夫よ。こういう話先生好きだから」

「めっちゃ漏洩しそうなんですが……」


 誰か助けて。楚原先生が恋バナ?ではないが何かのスイッチが入った様子です。って、誰も居ないから話しかけてきたんだよな。


「でもでも、どこで2人に接点がるのかなー。って気になってね」

「……いや、気のせいですよ」

「怪しい」

「どう答えろとですか?」

「実は付き合ってるとか?」

「それはありませんから。そのまま忘れてください。変な話の漏洩は結崎も困ります」

「違うのかー。いや、不思議な組み合わせでちょっと期待していたんだけどね」

「楚原先生は何をお望みで?」

「人の秘密を知るってことがね」

「危ない人で認定しないとですね」

「松尾君?」


 ――バシバシ。

 ……ガラガラ。


 うん、今日の楚原先生はテンション高いですね。なんか旦那さんと良いことあったのかな?背中を先生にバンバン叩かれた俺はそんなことを思っていた。って、地味に強いから居たいんですが――。って、今図書室のドアが開いた音がしたような?

 俺が入り口の方をチラリと覗いてみたが……特に誰もいなかった。

 ってあれ?図書室のドアって開けっぱなしじゃなかったっけ?なんで閉まっているんだろう?まあ後で開けておこう。閉めておくとさらに入りにくさが上がるからな。ドアを開けておかないと生徒入ってこないみたいで。いや、多分入りにくいんだろうな。ドアが閉まっていると。それは少し前に楚原先生から聞いた。


「松尾君どうかした?」

「いや、ドア開けてなかったかな?って」

「あー、さっきの先生だね。多分閉めて帰っちゃったんだね」

「あー、そういう事か」


 どうやらさっきの俺が聞いたのは気のせい。もしかしたら他の教室の音だったのかもしれない。この階にも部活をしている部屋とかがあるのでね。


 それから楚原先生がドアを開けに行ってくれた。


 ちなみに図書室のドアを開けたのだが。結局その後はチャイムが鳴るまで。つまり下校時間になるまで楚原先生との話は続き。先生と話しながら作業が出来たということは利用生徒は居なかったということだ。あっちなみに2人でやったので図書の仕事は完璧に終わりました。が――いつも以上に疲れた気がする。


「松尾君お疲れ様」

「あ、はい。さようなら」

「また楽しい話聞かせてねー」

「……ないですよ。って図書室ではお静かにでは?」

「他に利用する人が居ない時はね」

「ホント決まりがゆるゆるですね」


 そんなこんなで今日の委員会は終了。俺は図書室を後にした。


 下校時間なので校舎内は生徒が少なかったが。昇降口まで行くと何人かの生徒がまだいた。


 運動部だろうか?階段に座り荷物を片付けている生徒。手洗い場で頭から水をかぶっている生徒も――ちょっとまだ水浴びをするのは早くないですかね?上半身裸の男子もいたが……風邪ひくのでは?とか俺は思いつつ。隅っこを通過。いや、邪魔になると何でね。関係ない生徒は隅っこをささっと通過ですよ。


 そして駅へと向かいいつものように歩いていたら――。


「あー、おーい、おーい」


「ちょ、ちょっとー、えっと誰だっけ?そこの男子ー」


 なんか騒がしいな。とか思いつつ声の方をふと見ると。


「あっ、気が付いた気が付いた。そこの男子ー」

「—―もしかして俺?」


 まさかの俺が声をかけられていたようです。相手は……。


「……蓮花寺さん?」


 俺はなんで呼ばれているのか全く分からないのだが……自転車置き場のところから蓮花寺さんがこちらに手を振っていた。


「ちょっといい?」

「……」


 あれ?俺ボコボコにされるのかな?とりあえず今のところ。蓮花寺さんの影しかないのだが……手招きされているので――これは行った方が良さそうだな。


「……えっと、何でしょうか?」

「ごめんごめん。ねえねえ。えっと……誰だっけ?前にも名前聞いた気がするけど?」


 なるほど名前がわからないからあんな呼び方になっていたのか。って、オリエンテーションの時もそんなことを言われたような――まあ仕方ないか。俺の存在レベルはそれくらいということだ。個人的には目立たないから、ちょうどいいかな?


「松尾だけど?」

「そうだそうだ。松尾松尾。またゆえに怒られるよ」

「結崎さん?」

「そうそう、この前も怒られたんだよねー。失礼だよって」

「そ、そうですか……」

「っか、なんか固くない?」

「いや、急に呼ばれたから。かな?」


 実は超ガチガチだったりする。いや、なんで呼ばれたのか全く分からないし。


「あー、そうそう。でさ、ゆえ知らない?」

「……はい?」


 俺がちょっと身構えていると、蓮花寺さんは俺にそんなことを聞いてきた。


「私がちょっと今日居残りしてたからさ。それが終わったら一緒に買い物行こうって。ゆえに待っててもらったんだけど、途中で図書室に行くから。ってメッセージが来ていたんだよね。で、私は居残り終わってから。終わったー。って返事してここで待っているんだけどまだゆえ来なくて。それにメッセージも反応しないしで。そしたらゆえがナンパしてた男子……あー。松尾ね、松尾。大丈夫。覚えたから。次は大丈夫だから。で、松尾が来たから声かけたわけ。ゆえの居場所知らないかなーって」

「……いや、あいにく――俺知らないんだけど。ちなみに俺図書委員なんだけど。今日は誰も放課後は図書室に生徒来てなかったかと」


 そのおかげで楚原先生に掴まっていたんだからな。


「えっ?あれ!?ゆえ図書室に行くって書いてあったと思うんだけど――」


 そう言いいながら蓮花寺さんは自分のスマホをいじっている。って、もう俺必要かな?帰っていいかな?


「あっやっぱり。図書室って書いてある」


 そう言いながらこちらを再度見てくる蓮花寺さん。


「いや……でも多分——今日は結崎さんは来てないと思うけど――?」

「うー。どこ行ったんだろう」

「もう一度連絡してみるのは?」

「そうしようかな。ごめんごめん呼び止めて」

「いや、大丈夫。じゃ」


 そう言いながら俺は蓮花寺さんのところを離れて駅へと再度向かった。が、少し蓮花寺さんと話していたからか。


「……マジか」


 高校前駅に着く瞬間。電車が駅を出発して行くところを見てしまった。いつもなら普通に歩いてくれば十分間に合うのだが。今日は予想外の事があったからぁ。仕方ないか。

 そんなこと思いつつ。次の電車まで暇なので駅のベンチに座り。って相変わらず。大学前方面はすごい人。とか思いながらスマホを取り出し暇つぶし。と思ったのだが。


「——うん?」


 スマホの待ち受けには新着メッセージ1件の文字が。


 あれかスマホをマナーにしてあったから。メッセージが来ていることに気が付かなかった。って、俺にメッセージなんか送ってくる人居たっけか?


 もしかして、あれか。広告みたいなやつか?と思いながらメッセージアプリを開いてみると。


「今から図書室行っても大丈夫かな?ちょっと友達待ってて暇してるんだ」

「—―うん?」


 広告とかではなかった。届いている新規メッセージの前というか。上には……。


「よろしくねー。で、早速なんだけど。今度の休みどこか行こうか?今までのお礼したいから。あっ明日とかはね。もう予定が入っちゃってるから。ごめん。来週くらいでどうかな?」


 そんな過去の文章があるので……これは。


「結崎から?」


 あれ、なんか少し前に図書室というワードを聞いた気がするのだが。俺は少しスマホを見て固まることとなった。

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