第15話 結崎ゆえ

「で、さっきも言ったけど。松尾君と居る時は楽なんだよ」


 ……また楽と言われた俺だった。特に問題はないのだがね。


「うん。なんか同じセリフを電車の中でも聞いた気がする」

「だから。その私が慣れるまで協力とか……してくれないかな?」

「うん?協力?なんの?」

「実はさ……」


 そう言い結崎は一口飲み物を飲んでからまた話し出した。


「私ね。高校入ってからなんだよ。今みたいなクラスの中心とかそういうまとめ役?みたいなことするの」

「……」


 なんかそんな予感はなくもなかったが――まあとりあえずここは何も口を挟むことなく聞くことにした。話を途中で止めてしまうとな。また楽。とか何とかいうのから始まってしまうからな。


「ちょっといろいろあってね。今はこうやって地元を慣れて1人暮らしで。周りは誰も知らないところだからさ。それまでのままでもよかったんだけど。なんかね。せっかくなら新しい事を頑張ってみよう。って。なんか寂しいじゃん。1人暮らしだと家では1人だからね。その……学校くらいはみんなでいろいろしたいなって。中学まではあまりしてこなかったから」

「……」


 まだ俺は大人しく聞いている。


「で、結構はじめはいい感じだったんだよ?うちの学校校則が緩いからね。今のこの雰囲気っていうのかな?髪型とかもなにも言われないし。まわりからも評判よかったし」

「まあうちの学校スーパーゆるゆるで自由だからな」


 って、ここでちょっと口を挟んでしまった。まあ話しっぱなしにするのもだからな。これくらいはいいだろう。


「うん、そこまではね。良かったんだよ。今もとっても楽しいし」

「で?」

「でもね。学校が始まってしばらくしてからかな。多分……松尾君と電車で――の時かな」


 なるほど。それがあの自主規制のところにつながるのか……と。ちょっと過去を思い出し。

 危ない危ない。落ち着け俺。深呼吸深呼吸。過去を思い出すな。大丈夫。大丈夫。


「ホント……あの時はごめん。私……何してるんだろうね……ホントごめん」

「いや、それはもういい。ホント良いから」

「……ありがと。で、その時ね。何かわからないんだけど……周りが気になるというか。その自分でもまだよくわからないんだけど……なんかね。胸がドキドキするというか。みんなと居て楽しいはずなのに。なんかね身体が付いていかなくて」

「それってさ……今までしてなかったことを急に初めて普段の生活そのものがストレスになった?っていうのか。そんな感じ?」

「かな?まだ自分でもわからないんだけど。あっ、ちゃんと休んでるんだよ?リフレッシュしているはずなんだよ?でも……なんかね。週の後半っていうか。そのいろいろあるとなのかな?どんどん体調が悪くなるというか。あの時。松尾君ところにお邪魔することになっちゃったときが一番ひどかったかな?みんなで遊ぶまではなんとかよかったけど……あっ、断るのがね。ちょっと断りにくくて。で、そのあとはもうボロボロっていうか。歩くのもしんどくて。うん」

「その場面をあまり思い出さない方がいいかと」

「……ごめん。でもね。そこからだよ!」

「—―うん?」


 何故か急に結崎の声が変わった。


「なんかね。松尾君と居る時は気が楽って気が付いたの」

「……楽ね。今日よく聞く言葉」

「ホントだよ?学校でもね。ちょっと話すだけで気分がすっきりするし。一息付けるというか。落ち着くんだよ。それに昨日も。オリエンテーションとか普段と全く違うじゃん?で、そのみんなと居るのは楽しんだけど。まだ身体がダメなのかな?1日中だときついのかな?いつもの学校なら日中だけだからその……まあ何とかなるというか。そんな感じなんだけど」

「ああいう宿泊があるやつはずっとクラスメイトと同じだからな」

「そう。それがね。私の身体ダメみたいで。みんなには悪いな……とかいろいろ思っちゃうと。さらにね。悪くなるというか。気分が落ち込むというか。でもね。昨日も施設の廊下で松尾君とばったり会って話した時に一瞬だったけど落ち着けたんだよ?で、そこで確信したんだよ」

「何を?」

「松尾君のそばなら私大丈夫って」

「……何と――まあ。うん」


 何故か結崎の目が輝いているというか。何か獲物を見つけたような目になっている気がするのだが……俺食われるのかな?


「だから、その……これからも助けてくれないかな?」

「助ける言っても……俺何かしたっけ?」


 結崎の話を聞いていると。いや、まだ正確には把握できていないと思うんだが。

 とりあえず。今までと違う事をしている結崎。まあみんなと楽しい学校生活をしたいとかでいいのか?で、それを始めたが。身体が慣れていないことばかりをするからストレスになったかで、体調を崩しやすくなった。が。俺といると何故か落ち着くと。

 俺は何かしているとかそんなことないんだが……ないよな?昨日も場所を提供してやっただけだし……ただ休む場所。寝る場所を。


「松尾君は居てくれるだけでいいんだよ」

「どういうこと?」

「その……なるべく私と一緒に居てほしい的な?」

「……一応確認しておくけど」

「うん」

「いや、しない方がいいのか?」

「う、うん?いやいや松尾君そこまで言ったら言ってよ。気になるじゃん」

「いやさ……なんか言いにくいけど……まあうん。その……結崎は俺が好きだから一緒に居ろとか言ってるんじゃないよな?」

「……へっ?」


 すると結崎は考えだして。考えだして……なんか唸りだして……腕組んで……さらに考えて――長いな。おい。


 ……って、俺は……何を言っているんだ!?なんか言っちゃったが今になってなんかめっちゃ恥ずかしくなってきたぞ?ホント俺は何言ってるんだ?もう完全に手遅れだが。まあこのまま嫌われたりした方が関わらなくていいから……それこそ楽?とか。うん。頭の中でいろいろと考えていると――。


「うーん」


 結崎はまだ隣で考えていた。真面目というか。なんかホント俺が恥ずかしいので早くなんか言ってほしい。何言ってるの?とか馬鹿じゃない。とか言われたいです。はい。出来ればそのまま追い出していただいても……罵倒?って言うのかそんな感じでいいのでキモいやつを追い出していただけると。


「—―なんか……すごく失礼かもしれないけど……」

「う、うん」


 するとやっと結崎のシンキングタイムが終わったらしい。めっちゃドキドキじゃん。ホント今すぐ帰りたい俺です。すぐにでも帰るか。この少し前からの時間を抹消。消したい。


「私—―松尾君の事……男の子とかって感じで……見てなかったかも」

「—―—―うん?」


 あれ?予想していたのと全く違う……急に……力が抜けていくというか。抜けた。


 っか……俺……女の子だったのかなー、なんか。男として見られていなかったようです。そしてそれを聞いたら急に安心したというか。俺の変な気持ちも消えていった。って俺の身体も十分おかしいな。あれか。結崎に自主規制されてから。おかしくなったのか?うん。そうしておこう。結崎が悪い。よし。


「いやいや、その松尾君は男の子だよ?ちゃんとわかってるよ?いろいろ見られたら恥ずかしいし……」

「……まあ、うん」

「でも……今もだけど。その……うん。なんか他の子と違うというか。癒し効果があるというか」

「ちなみに俺は何も身体から出してないからな?特殊能力とかありますとかじゃないからな?異世界から来た人間じゃない生き物ですとかでもないからな?」


 ヤバいな。俺の口余計な事ばかり言ってるぞ。大丈夫か俺。と、頭の中で思っているのだが……遅い。すでに声に出してから思っている時点で遅い。どうした俺—―。


「そ、それはわかってるから。でも……やっぱり他の人と居るより落ち着くんだよね」

「……まあ、なんかもういろいろこっちが恥ずかしい思いをしそうだから。うん」

「あはは。何言いあってるんだろうね。私たち」

「ホントだよ。まわりに誰か居たら意味わからん会話してるとか言われそうだぞ」

 

 ほんとそう思う。俺も今何を話していたか。ちゃんと説明できる気がしないし。何話していたんだっけ?俺ってなんか癒し効果あるのか?とか変な事しか出てこないし。


「ふふ。でも。ほら、やっぱり松尾君とならこうやって話していても……楽しい。あと気にしなくていいというか。普通に居れるかな」

「……まあ、なんというか。俺も家で話しているというか。なんか変な緊張はないが……」

「でしょでしょ?だからさ。松尾君。しばらくの間協力してよ」

「協力と言っても……俺と結崎に接点とかなくないか?」

「それは……あっ、まずは連絡先の交換してさ」

「あ、そういえば知らないな」

「で、その……私が落ち着きたい時に――来てくれるとか?」

「俺便利屋?何でも屋?」

「そ、そういう事じゃないけど……でも近いかも」

「おい!」


 さすがにツッコミを入れた。都合よく使われてもだからな。


「ふふっ。ダメかな?あっ、ちゃんとお礼もするからさ」

「お礼って言われてもな」

「ねぇ?しばらくの間。私がね。慣れるまででいいから……ダメかな?」


 なんやかんやで言うが……さっきから。ダメかな?という結崎がめっちゃ可愛いというな。なんか――その普段と違うからか。頼み上手というか。困るな。ホント。


 っか素の結崎はどれだ。なんか静かな雰囲気なのかと思っていたが……なんか違う気がする。目立たないとかいうことはなさそうだし。まあ普通だったというのか。今はそう思っておこう。


「……まあ……少しくらいなら」

「ホント!?ありがと!あっ、じゃは――その。連絡先交換しようか?」

「あ、うん」


 ということで……珍しく。大変珍しいことが起こり。俺のスマホに新しいお友達?というのか連絡先が増えた。いや、メッセージアプリ的にはお友達欄に追加なのでね。とりあえずお友達で間違いないだろう。


 メッセージアプリには「ゆえ」という文字が追加された。さすが結崎というか。アイコン?って言うんだっけ?待ち受け画像?も結構こだわっていて。まあそのいろいろデコレーション?されていた。なんかみんなで撮った?と思われる写真とかも使われていたし。っかみんなすごいな。スマホ使い慣れてらっしゃる。俺には無理だ。


「松尾君は名前が松尾守で画像も初期のままなんだね」

「まあ、特にこだわりないというか。あまり使わないからな」

「そうなんだ」


 結崎とそんなことを話しつつ。とりあえず連絡先を交換……ってその後はどうすればいいんだ?結崎はなんかスマホをポチポチしてるし。俺は……もうすることないんだが。


 ♪♪


「うん?」


 すると俺のメッセージアプリが鳴った。じいちゃんかばあちゃんだろうか?とか思いスマホ画面を見てみると――。


「届いた?」


 そんな声が近くから聞こえてきて……って送り主さんがお隣に居るんですが――80センチ……いや1メートル。離れているか離れていないかくらいの距離に居るんだが……これ使う意味あるか?ってテスト送信か。


 それにそういえば、じいちゃんばあちゃんは基本電話だからこのタイプの音は……久しぶりに聞いたかも。


 とりあえずそんなことを思いつつスマホの画面を確認してみると。


「よろしくねー。で、早速なんだけど。今度の休みどこか行こうか?今までのお礼したいから。あっ明日とかはね。もう予定が入っちゃってるから。ごめん。来週くらいでどうかな?」


「……あの。これはメッセージで言う必要はあったか?」

「あー、なんかね。言うの恥ずかしいというか。うん。恥ずかしくて――」

「さっき男として見てないとか言っていた気がするが。デートみたいなことは言えないと」

「なっ。な、なんか松尾君慣れてるというか……意地悪な事言うね。そのさ。で、デートとか言うの恥ずかしくないの?」

「……ホントだな。俺今よく言えたな。今めっちゃ恥ずかしい。あとから後悔の波が来た」

「……松尾君もなかなかだねー」


 結崎とその後はしばらく言い合い……って喧嘩ではないが。なんやかんやと話した。で、さすがに長く居るのも……というのと。思い出したが今はオリエンテーションの帰りでまあまあの荷物を持っている。ちなみに俺は結崎の家の玄関に荷物を置かせてもらっている。なので。そろそろ帰ることにした。結崎もちゃんと休みたいだろうしな。


「じゃ、また」

「うん。ありがとう。今日はすごくよく寝れそう。あと……お腹空いた」

「空腹のアピールしても今は何も出せないぞ?」

「なっ、私はまた余計なことを――」

「……じゃあな」

「あ、うん。ありがと」


 そして俺は結崎の家を出た。


 その後は迷うことなく。公民館前駅まで歩いて行き。ちょうど電車が来たため。その電車に乗り田園駅。自分の家へと帰るのだった。完璧の流れというか。待ち時間ほぼなしで帰れた。これはいい事。とか思いつつ帰った俺だった。


 ちなみにこの時に乗った電車の運転手さんが楚原さんだったため。田園駅に着いたときに少し話したら。


 はい。この鉄道。俺が留守の間。田園駅と公民館前駅の利用客0人だったそうだ。つまりじいちゃんもばあちゃんも出かけていない。写真家の人とかがやって来た。とかそういうこともなかったという事。まあ昨日の朝と今乗っているから。1日1人は乗ったという事にはなるだろうが。俺頑張って乗らないとな。この路線無くなったら、めっちゃ大変だからな。


 って、じいちゃんばあちゃんは不便でも隣町とかに引っ越すとか選択肢ないんだよな。ド田舎が好きなのか。まあ俺が言う事ではないか。


 田園駅に着いてから少し楚原さんと話した後。俺は少しぶりに家へと帰って来た。うん?久しぶりではないか。ちょっとぶりだな。


 家に着いてからは玄関に居たじいちゃんと話し。台所に居たばあちゃんと話し……自分の小屋。部屋か。うん。部屋に入って寝ころんだ――。

 ってまだ着替えてなかったな。ということで起き上がり部屋着に着替えてから再度寝ころんだ。やっぱりオリエンテーション中も1人部屋だったが。自分の部屋が一番落ち着く。


 それから少ししてばあちゃんがお昼ご飯を作ってくれたので食べて――って、ばあちゃんはまだ何かを作っていたが……あれか。今日は俺が帰って来たからとかで張り切っている?


 ……まあそれはないと思うが。だって昨日の夜居なかっただけだからな。


 とりあえずばあちゃんは何か作っていた。俺は特に何か食べたいとか頼んでないのだが……じいちゃんがなんか言ったのだろうか?とか思いつつお昼を食べて。その後はまた部屋に戻り。ちょっと片付けのち。部屋でくつろいだ。


 幸せである。やっぱり自分の部屋が最高だな。そんなことを思いながら自室を満喫していると――。


 ♪♪~


 俺のスマホが鳴った。これは電話の音だ。


「電話電話……って、まあ電話かけてくるのは基本ばあちゃんかじいちゃんだよな」


 とかつぶやきつつスマホの画面を確認。


 ――ビンゴだ。

 ばあちゃんからの着信。何か用事があるようなので俺は起き上がり部屋を出てお隣の建物へと移動した。呼び出しコールとか言うやつだな。

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