第14話 オリエンテーション後

 現在いつもの小さな電車の車内で結崎と向かい合う形で座っている。

 何度か言っているかもしれないが。通路をほぼ塞いでいるが。多分今のところ大丈夫だ。問題なし。他にこの車両に人は居ないからな。

 にしても、ホントこうやって向かい合う形で座ると改めて思うが。この電車。小さいよな。足と足がぶつかりそうになる。


 じゃなくて。今は目の前のお方の話を聞くべきか。


「……楽?」


 どういうことだ?と思いつつ俺が聞く。


「うん。って、言い方が悪かったかな?」

「まあ、なんというか。別に言い方とかはいいんだが……楽ってどういうこと?」

「なんかね。松尾君と居る時だけ。気持ちが楽なんだよね」

「俺にそんな癒し効果はないかと」


 そんな良い効果を俺の身体が出しているわけない。絶対ない。はっきり言っておこう。


「でもね。もう終わったから話せるけど。ずっとオリエンテーション中ね。身体がしんどくてしんどくて」

「なのにあんなにしっかり室長の仕事していたのかよ。って、まあ体調悪そうというか。食欲はなさそうだったな」


 食堂のおばちゃんとの会話を思い出す俺。


「……まあその。気合でね乗り切ったみたいな。かな?」

「すげー。俺なら休むわ。拍手拍手」


 ここは一応拍手かな?とか思ったのだが。俺たち以外にお客が居ないとは言え。拍手をするのは……だったので声で言っておいた。


「なんか雑にあしらわれてない?私」


 もちろんと言うべきか。ちょっと結崎のご機嫌が――だった。


「いや、通常通りかと思う」


 ちなみに雑ではないのだが……雑?いや、でも俺こんなちゃんと向かい合って女子と話すとかあまりないので、ちょっと雰囲気を崩そうとかなんか変なことを考えつつ俺は話していた。 

 いや、結崎とはそこそこ話している方だからそんな緊張とか無いんだがね。なんか。今の雰囲気は違うというか。俺は感謝されるようなことはして――いやいや待て待て。結構してるか。俺精神的ダメージ受けながら頑張った過去あるじゃん。感謝されないと。とか俺が勝手にいろいろ思っている間も結崎の話は続いた。


「で、さっきも言ったけど。松尾君と居る時は楽なんだよ」

「うん。さっきも聞いた」

「で、松尾君がよかったら……」

「お断りします」

「……うん!?」


 俺の返事に驚く結崎。


「えっ?」

「ちょっと待ってね。松尾君。私まだ何も言ってないよ?」


 結崎は話を途中で切られたので、ちょっと混乱といった感じだったが。俺は断った理由は――。


「いや、俺の直感が危険信号を出した」

「何それ!?」


 再度驚く結崎。車内が空いていてよかった。ほとんど走行音に消されてると思うが。


 ちなみに『危険危険。この後面倒なことに巻き込まれる以上』『危険危険……』とかまあそんな感じというか。とりあえず。頭のどこかから警報音が聞こえてきてな。反射的にというか。断ってしまったのだ。


 いや、ホントなんかこの流れ。俺が居ると落ち着けるから。定期的に使わせてくれとかそんななんかの物語?みたいなことが始まりそうでね。って、そんな物語ないか。あれかな?ちょっと本を読み過ぎでいろいろな物語が頭の中でごちゃごちゃしたかな?

 ちょっと普段ないことが起きているから俺も頭がパンクしているのかもしれない。


「もしもーし。松尾君。自分の世界に入らないで。私結構覚悟して話に来たんだけどー。もしもーし聞いてる?」


 すると結崎が俺の顔の前で手を振っていた。


「……あっ。悪い」

「もう、ってやっぱり松尾君と話してると楽だよ。話し出したら話しやすいし」

「何回楽、楽。って、俺は言われるんだか」

「今もだよ?適当な返事を松尾君はしているのかもしれないけど。私普段の学校生活の時よりめっちゃ楽だよ?ちゃんと聞いてる?とはちょっと思っているけど……」

「……そうか?って、聞いてるからな?」

「うん。あれだね。松尾君の前だと普通に居ていいっていうか」


 何故か納得?なのかはわからないが。頷いている結崎。


「普段から普通に居ないのか?」

「居るつもりなんだけど――ね」


 すると、ふと、結崎の表情が曇った。


「学校でも放課後でもはじけ飛んでなかったか?」

「はじけ飛ぶって……そんな感じに見えてる?」


 見えてます。とは即答しないが。


「まあ、ちょっと盛ったかもしれない」


 遠慮気味に答えておいた。


「……まあ、それはそれでいいんだけど。やってるから」

「やってる?ってそういえばさ前にも結崎……」

「……あっ。松尾君」

「うん?」


 俺がちょっと聞きたいことが――。と思った時に結崎が割り込んできた。


「これから時間ある?」

「帰るだけだが……?」

「じゃ、ここで降りて」

「はい?」

「ほらほら」


 すると結崎は立ち上がり。俺の腕をつかんだ。触られた瞬間ちょっとドキッとしたが。ドキッというのは自然とすぐに収まり。なんか収まった。あれだな急なことでちょっと身体が反応しただけだな。


 そして結崎が俺の腕を掴んだと同時くらいに、電車は公民館前駅に到着した。

 そして電車のドアが開いた。すると俺は結崎に腕を引っ張られながらそのまま公民館前駅へと降りたのだった。


 ◆


「……何が起きた?」


 公民館前駅のホームで結崎につぶやく俺。


「ごめんね。強引で。でも今話しておかないと変なことになりそうだったからね」

「すでに変なことになっている気がするんだが?」

「とりあえずさ。うち来てよ。ゆっくり話そ?」


そう言いながら結崎が駅の出口を指差す。


「……誰の家?」

「私」

「和多氏?」


 俺の脳内で変な変換が行われた。いやわかってるんだよ。わかっているんだが――なんか普通に変換がされなかったんだよ。


「ちょっと松尾君。ふざけすぎじゃないかな?今松尾君が変な変換をしたの私何となくわかったよ?誰?和多氏。って」

「……何故にわかった」


 結崎さん……怖いっす。なんで俺の頭の中のことが理解できたんでしょうか?ってあれ?今俺も結崎が言った言葉を理解できたような?なんでだ?勝手に頭の中で変換?いや、その前に自分で変換したから?って、もう何が起こっているかわからんな。よし、考えるのをやめよう。


「とりあえず……少しだけ付き合ってよ」

「……まあもう電車から降りたしな」


 俺が言う前くらい。乗って来た電車のドアは閉まり。今ちょうど電車は動き出した。空っぽの車内。今日も安定の田園までの乗車する人は居ないようだ。


「わかった。行くよ。行く。次の電車までも時間あるからな」

「ありがと、じゃ、こっち付いて来て」

「ああ」


 ということで俺は結崎の後を付いて歩いて行くこととなった。

 駅を出て少し閑静な住宅地を歩く。するととあるアパートへとたどり着いた。


「ここのアパートに住んでるんだ」


 何というかよくあるようなアパート。普通のアパート。でもちょっと今風かな?『俺の住んで居るところなんか、未だにド田舎なのに、少し離れると新しいものが出来ているんだよな』とか俺が思っていると。


「松尾君?」

「あっ、問題ない」

「もしかして……女の子の部屋初めてとか?」

「あー、確かに初めてかもしれない」

「で、緊張してる?」


 ちょっと結崎がニヤリとした気がした。が。残念ながら俺は結構通常運転。特に緊張とかはなかった。


「思ったよりというか全くしていない」

「—―あれー!?」


 そんなことを結崎と話しながら階段を上がっていく。結崎の部屋は3階らしく。一番隅っこの部屋の前まで行き。


「ここなんだ」


 そう言いながら結崎は鍵を開けていた。って、まさかのカードタイプ。マジかよ。なんだそれ?かざすだけで鍵が開くのかよ?いやいや俺のところなんか鍵あるのはあるが。基本閉めてないぞ?俺の部屋はほぼ開けっ放しだ。誰か来るとかないからな。って、なんで1駅離れただけでこんなに世界が変わるんだよ。ド田舎には最新の情報入ってこないぞ?って、余計なことを言ったな。

 いや、ちょっとなびっくりしてな。気にしないでくれ。


 にしても、何だろうな。はじめて同級生の女子の部屋とかいうんだが。なんでこんなに普通というか。俺は何とも思わないというか。自分の部屋に入るみたいな感じなんだろうか。今カードタイプの鍵を来た時の方がちょっと興奮していた。


 ちなみに結崎の住んで居るところは、あまり大きくはないアパートだが。室内は俺が使っている部屋よりかは多分広い。奥にはベランダもあるみたいで――ちょっと待て、あれは見てよかったのだろうか。ベランダ側というか。室内に干してありますが……とか俺が思っていると。結崎も気が付いた。


「わぁっ!わぁっ!!松尾君ちょっとタイム。タイム!!ここで!ドアの方向いて待ってて。待ってて!早く!」

「—―了解」


 2度ほど同じことをその後も言われたので……俺はくるりと向きを変える。


「……オリエンテーション行くときの朝。バタバタしてて室内に干したの忘れてたー。恥ずかしい……」


 そしてそんな声が後ろから聞こえてきた。そういえば。オリエンテーション初日の朝、結崎は走ってきてたな。バタバタしていたんだろうななどと俺は思い出す。


 そして昨日はオリエンテーションで山の中に居たから、もちろんこの家には帰ってこないから洗濯を外には干せないわな。

 何があったかというと、室内のベランダ側?に、多分結崎の部屋着?シンプルなTシャツや短パン。あと下着類とかも普通に干されていたのだった。意外とシンプルな下着お好みらしい。って、その情報はいらないか。


 数秒後——ということはないか。なんやかんやで結構な時間。壁の方を大人しく俺は見ていた気がする。


「……もう大丈夫」


 そして、ドタバタ音が聞こえなくなると結崎が声をかけてきた。


「うん」

「……なんかごめん。いきなり変な物見せて」

「まあいきなりだからな。で、俺はどうすればいいんだ?」


 ベランダ側のところに何もなくなった結崎の部屋を見つつ俺は聞く。


「あっ、と、とりあえず適当に座って座って、飲み物出すから」

「いや、別に飲み物はいいが……とりあえず要件的な?」

「ま、まあちゃんと話すからね。とりあえず座って座って」


 そう言い結崎は俺の横をすり抜けて冷蔵庫の中をあさっていた。

 俺は、部屋に放置というか。普通に結崎の行動が見えているのだが――にしても結崎の部屋は落ち着いた部屋というか片付いた綺麗な部屋だった。先ほどは洗濯物がいらっしゃったが。普通に綺麗な部屋だ。ところどころにかわいい小物とかが置かれている。小物とかが好きなのだろうか?

 俺の勝手な予想では、なんかいろいろな服であふれているとか。カバンとかがたくさん。あとは――物が散乱は予想してなかったかな。なんとなくしっかり者ってイメージもあるから。片付けとかはちゃんとしていそうとか。って、俺はなんで結崎の部屋のチェックをしているのだろうか?

 ってか、こういう時はどこを見ていたらいいのだろうか。と思いつつ。とりあえず部屋の真ん中に机があったのその近くに座り。周りをキョロキョロしていたら――。


「——松尾君?」

「あ、いや、なんでも」


 こちらを振り返った結崎とたまたま目が合った。


「そんなにキョロキョロしても――も、もう何もないよ?」

「いや、なにも探してないんだが……」


 ちょっと恥ずかしそうにする結崎だったが。俺変な事考えてないからな?


「とりあえず。はい。普通のお茶しかなくてごめんね」


 すると結崎が飲み物を淹れて戻って来た。


「いや、問題ない。でだ」

「うん?あー、そうだね。松尾君を連れてきた理由だよね」

「まあ。うん。そういうことだ」


 結崎からお茶の入ったコップを渡されて、結崎は俺の隣に1人分くらいスペースをあけて座った。


「で、さっきも言ったけど。松尾君と居る時は楽なんだよ」

「うん。なんか同じセリフを電車の中でも聞いた気がする」

「だから。ざっくりというか。もう言っちゃうと。その私が慣れるまで協力とか……してくれないかな?」

「協力—―?はい?」

「実はさ……」


 俺は一体何に巻き込まれるのだろうか。とか思いつつ結崎の話を聞くのだった。

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