第8話 オリエンテーション 中

 山奥に連れてこられてしばらく。現在は1カ所に集められた俺たちだ。


 さてさてこの後何が行われるのかと思っていたら。まずは各自部屋に荷物を置きに行くようにと。先ほど担任の先生から言われた。そして一気に建物内に入っていくと入り口で混雑するから。などの理由で俺たちのクラスはまだ外で待機中である。

 よくよくというか。普通に考えたらそうか。こんな大きなカバン持ったまま何かをするということはないか。すると――。


「あー、そうだそうだ松尾ー、松尾居るか?いるよな?」

「あっ、えっと――ここに居ますけど?」


 俺は急に担任の先生に名前を呼ばれた。ちょっとクラスの皆さんの視線がこちらに向いた。俺特に何もしでかしてないと思うんだが。って、この前教室での部屋決めでもこんな光景があったような――とか思いながら返事をすると。


「もしかしたらもう知っているかもしれないが」

「はい?」


 何の事なのか全くわからないですが?の俺である。


「隣のクラスからなんだがな。松尾と同室だった生徒が体調不良で欠席らしい」

「—―はぁ、はい」


 そういえば俺は確か部屋決めの際。くじ引きであたり?はずれ?どっちかは忘れたが。とりあえず部屋決めの時に4人部屋ではなく。2人部屋になった。そして相手は隣のクラスの生徒。という事だったのだが。


 特にわざわざ聞きに行くとか言うことをしなかった。もちろん相手側からも訪問はなかった。誰が同じとか知らないまま今日まで来た。って……同室の人が休みということはである。


「俺1人っていう事です――かね?」


 一応確認をしてみると。


「そういうことだ。まあ松尾なら大丈夫か。基本寝るだけだしな」

「……ですね」


 そんな感じの会話を約15メートルくらい離れている先生と話したが。めっちゃ周りから視線があるな。そして――。


「えっ、1人ってかわいそうじゃない?」

「どっか入れてあげたら?」

「いやいや4つしかベッドない言ってたぞ。無理に入れてやっても誰か床になるぞ?」

「松尾ってどいつだっけ?」

「床は嫌だな」

「今先生と話してたじゃん」

「どいつ?」

「えっと……あれー、見えない」

「っか、1人で使えるとか逆にいいじゃん」

「えー、寂しいだろ」

「そう?スマホとか持ち込みOKなんだし。私ならむしろ歓喜」

「っかさそんなことより。夜遊びに来いよ。みんなで。トランプとか持ってきたぞ」

「おっ、いいねー。ちなみ俺も持ってきた」

「女子もどう?」

「まあいいけどー」

「決まりー!」


 ……何だろう。俺が原因ではないと思うが。すごく周りにざわざわした感じがこの場に生まれた。先生が前の方で『静か』にとか一応言っているが。基本決まりがゆるゆるの我が学校。先生も特にしつこく何度も言うことはなく。むしろ……あきらめ顔で。前の方で生徒と笑いながら話している。っか、事前の話の時は一応男女の階の行き来は禁止……とか言ってた気がするが。さすがというか。とりあえず書いてあるというだけなのか。さすがうちの学校。フリーである。


 そういえば。今さらっと。俺の事を知らない人が複数このクラスに居ることが判明した気がするが。別にいいか。気にすることではないな。まだこの生活も始まったばかりだし。俺早々に休んでいたから――いやいや待て俺そこそこ目立つことしている気がするが。それでも知られてないのか。自分が気にするほど周りは俺の事なんてどうでもいいと。なるほどなるほど。


 それから少しすると他のクラスが建物内に入っていったので俺たちのクラスも建物内へと移動を開始。


 建物の入り口はそんなに広いという感じではないので1クラス分の人が集まっただけでも、すぐに詰まった。まあみんな一気に流れ込んだからな。俺はのんびりと最後尾に居たため。目の前の混雑を1歩下がって見物中。


「混み混みだねー」

「だな……って、誰?あ、結崎か」


 急に声をかけられた俺だったが――聞き覚えがあったからか普通に返事をした後――誰?という大変失礼なことをした気がするが。とりあえず結崎が話しかけてきたところである。


「松尾君。部屋1人なんだね。寂しくない?」


 さすが室長様。気遣いがすごい。


「いや、特に問題ない。自分の部屋みたいに使えるし」

「せっかくみんなとワイワイできるのに?」

「そこまでワイワイを求めてないというか。まあ逆にゆっくりできるかな。とか今思ってた」

「——寂しかったら来ていいよ?」


 結崎は何を言いだすんだか。とか思いながら返事をする。


「女子の部屋に突入することはないので」

「雰囲気的に問題ないみたいだよ?ほんとうちの学校自由だよね」


 どうやら冗談。いやもちろんわかっていたが。特に結崎は声のトーンを変えずにいつも通りといった感じで話を続けた。


「みたいだな」

「でも――れそうだなぁ」

「——うん?結崎。なんか言った?」

「あ、うんん。なんでも、あっ、前ちょっと進んだよ」


 結崎に言われて前を見ると確かに少し進んでいたので俺達も進む。それから少しして最後尾の俺たちも靴を脱いで建物内へやっと入った。地味に時間かかったな。

 建物内は綺麗っていう感じではないが。よく使われたというか。ちょっと古めの建物というか。でも普通の建物ということにしておこう。廊下を進んでいくと部屋がいくつも並んでいた。俺は一番階段に近い隅っこの部屋だった。入ってみると。何故2人だったか納得した。

 俺の部屋は階段横の部屋だからかちょっと変な形の部屋だった。空間の有効活用かな。部屋の半分が階段のの裏になるというのか。凸凹している。


「なるほど、こういう理由で部屋に2段ベッドが1つしか置けないから2人部屋か」


 俺は1人でそんなことをつぶやきつつ。とりあえず床に荷物を置いた。


 そして少しベットに座っていると館内放送?とか言うのだろうか。どこかのクラスの先生の声が天井にあるスピーカーから聞こえてきて『貴重品と筆記用具を持って体育館に移動するように』という放送が聞こえてきた。


 が――俺。体育館の場所がわからない。


 俺はとりあえず必要なものを持って外に出てみると。すでに廊下には男の塊が多数……そりゃ男子の階だからな。こうなるわな。

 とりあえずみんなが進んでいる方に、多分みんなが向かっている方が体育館なのだろうと俺も男たちの塊の最後尾についていった。


 そして少し建物内を進んでいくと特に迷うことなく。体育館と書かれた場所に到着した。女子たちの部屋の方が近いらしく。すでに女子たちは体育館の中に居た。


「……」


 あたりを見つつ。学校の体育館と何が違うのだろうか?とか思いつつ中に入っていったが。ほとんど同じな気がする。ちょっとこっちの方が規模が大きいかな?である。


「男子ー。早く並べよー」


 そんなことを思いつつ出席番号順に並ぶように先生たちが叫んでいたのでその通りに俺も列に並ぶ。 

 そして全員が並び終えると。


 大体こういうのがあるんだよな。こういう行事というか。施設に来た時と言えばいいのか。どこかにこうやって学習?しに来ると必ずある。施設長挨拶。とかいうやつである。


 みんなの前にマイクが置かれておっさん。おっちゃん?おじいちゃんではない人が登場。


 そしてマイクの前で話し出した。


「コホン。えー。はい。皆さん……」


「—―」


「—―」


「であって……」


「—―」


「—―」


「—―」


 ………………なげーよ。めっちゃなげーよ。挨拶ってっさらっと終わらしちゃダメとかいうマニュアルがあるんかね?さすがに周りの生徒もちょっと退屈してきたのか。小声が聞こえてきているが。ここの施設長らしいお方。まだまだ話しそう。手元ににあるメモをちょくちょく見つつ。ホントまだまだ話しそうな雰囲気がある。下手したら半分もメモを読んでない気がする。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「—―ケガの無いように過ごしてください。以上です」


 ………………20分くらい話していたのではないだろうか。施設長の挨拶とやらで疲れた。もう動きたくないレベルである。話長すぎだ。

 俺がそんなことを思っていると、施設長から俺たちの学校の先生にマイクが渡り。


「よーし。じゃ、今からプリントまわすからな。後ろに渡せ。で、そのプリントに高校生活の目標書く欄があるからな。各自書いて提出な」

「……マジか」


 ボソッと俺声が漏れた。多分周りには――というか、周りからも同じような声が聞こえてきていた。面倒なことがいきなりやってきた。


 まわって来たプリントにはうん。何だろう。本当に高校での目標やら何かいろいろ書く欄があるプリントが回って来た。こんなの書いてなんだよ。とか思いつつ。


「はい」

「ありがと」


 後ろに座っている結崎に紙をまわしてプリントを読んでいると――やべ、これ何か後日発表する時間とかあるらしい。いやいやいらんし。ホント今すぐ破り捨てていいかな?とか思っていたら。


「あー、そうそう、時間の都合でな。発表する時間が取れなかったから。書いたら各クラス。室長に渡してくれ。で、室長。クラスの集めて担任の先生のところに頼む。まあ入学早々だがちょっとでもみんなの今後。進路とか一応把握しておこうってやつだ。軽い気持ちで書いてくれ」


 発表が無いのはラッキーであるが。じゃこの紙必要なのだろうか?意識調査?毎回している決まりみたいなことがあるのだろうか?にしてもホント室長は大変だ。次から次へと仕事が生まれている。


 ちなみに現状。クラスの半分くらいがプリントとにらめっこ。真面目にもう書き出している人も居る。体育館はシーンと。という感じではないが。普通に静かな感じでプリントにいろいろ書く時間。となっている。


 ちなみに俺は図書委員頑張る。である。ふと思いついたのがこれでね。これならもしなんか聞かれるというか。発表する場。ない方が嬉しいがなにかの間違えで突然そんな時間が出来てもそこそこ話せるだろうということで図書委員の事を少し書いておいた。そしてその他の記入欄も埋めて……基本本の事ばかり書いたな。そこまで俺読んでるかな?だけど――でも他の人から見たら本を手に取っている時間長いだろうしな。これでいいだろ。

 とか思っていると。早々に書き終えた生徒が俺の後ろ。結崎のところにプリントを持ってきだした。みんな早い。俺がそんなことを思っていると。先生らも一部の生徒が終わりだしたことを見てか。再度マイクを手に取り。


「おーい。書き終わった生徒は隣の食堂移動していいぞ。昼からのために好きなだけ食べとけー」


 そんなアナウンスがあった。そして紙を書き終えた生徒がざわざわと移動開始。うるさい。俺あとちょっとだから書かせて。っか、結崎のところに必ずみんな来るため。その前に居る俺のところにも人が来ているような状況であって。ざわざわだ。

 邪魔にならないように避けたりやらやらでなかなか書けない。ちなみに俺の後ろに居る結崎も同じ状況らしく。


「結崎さん。お願い」

「うん」

「はい。渡したよー」

「はーい」

「よろしく」

「OKー」


 どんどん生徒がプリントを持ってくるのでなかなか書けていない感じだった。

 それに結崎の場合。最後の生徒が書き終わるまでは食堂には移動できないか。と、俺が思っていると。


「ゆえー、食堂行こうー」


 いつも結崎とよく居るクラスの中心メンバーの1人—―長宮さんが登場した。


「ごめん。全員の集めないとだからさ」

「あー、そっか。じゃ、大木とかと先に行ってるからー」

「ごめんごめん」


 室長さんホント大変そう。友人らとも一緒に動けないとか。ってか俺も早く書かないとか。と思いつつ残っている部分をささっと書いて。筆記用具などをしまい後ろを振り向く。


「結崎。これ」

「松尾君も早いね」

「いやいや、俺ほぼ最後かと」

「うん?ありゃーホント。いつの間にか人減ったね」


 どうやら結崎はいろいろな人からプリントを受け取るという事ばかりしていたからか。あまり自分が進んでいなかったので俺も早く書いた人と思われていたらしい。が、周りを見るともう体育館には数十人。20人くらいになっていた。早いクラスはすでに全員書いたらしく。別のクラスの室長と思われる男子生徒が先生にちょうどクラス分のプリントを渡していた。


「私も急いで書かないとだね」

「まあ簡単に書いておけばいいでしょ」

「だね」


 俺の前で結崎はそんなことを言いながら急いでプリントを書いていた。


 ちらっと覗き見——いや、偶然結崎が書いているのが見えてしまったのでね。ちなみに何を書いているかはわからなかったが。急いで書いている割には……めっちゃ綺麗な字の結崎だった。見た目の派手さとは違ってさすが書道部というのか。

 って、いやいや人のをのぞき見するのはだよな。あと、見た目判断も――だな。俺ずっと言ってる気がする。


 とにかく終わった俺は食堂へと移動することにしたのだが。


「あー、松尾いいところに」

「はい?」


 担任の先生に捕まった。俺も――いろいろハズレくじ引いてるかな?


「ちょっと、カモン」

「カモン?」

「カモンカモン」


 なんか担任の先生に付いてくるようにと言われたので先ほど建物に入って来た玄関と言えばいいのだろうか。入り口にやって来た。って――何か箱が置いてある。


「松尾。ちょっとこれ運ぶの手伝ってくれないか?」

「……何ですかこれ?」

「午後使うやつでな。重いんだよ」

「は、はぁ――」

「腰痛めるとだからな」

「……」


いやいや先生まだ若いですよね?多分だけど。って、俺。昼になかなか到達せずだな。


 その後の事を言うと、俺は1人で入り口と食堂までを3往復した。食堂までは何回か行ったのだが……中に入るのはかなり後になった。


 結果—―。


「あれ?松尾君って結構前に食堂行かなかった?」

「ちょっと荷物運びに捕まってた」


 結崎に再度あった時に驚かれたのだった。


「それはそれは大変だったね。お疲れ様」

「ホント。なんか重たい段ボールの運搬してきた」


 作業を終えて食堂へ行くと、ちょうど食堂のところほぼ最後尾の列に並んだら結崎が1つ前に並んでいたので少し話した。


 それからお昼ご飯をもらうと自由席ということで俺は空いていた席に座った。ちなみに結崎はいつものメンバーに手招きされていたのでそちらの方へと移動していった。


 そういえば、なんかいつものメンバーに呼ばれる直前話したいことでもあったのかこちらを振り返っていたが――何も言わずだったので重要な事ではなかった様子だ。


 そしてお昼ご飯は静かに食べた。というか。俺の周りはグループに属さないとでもいえばいいのか。1人で居るのが好きな人というか。そんな人たちが自然と集まっている感じだった。中には隣同士になったからかちょっと話している人も居たが……少し離れた結崎達の方と比べるとこちらはかなり静かだった。

 そもそもあちらというか。ここ以外はかなり賑やかな感じだったがな。


 ちょっと昼ご飯でゆったりできた。とか思っていられたのはこの時だけだった。食事が終わった後。なかなか次の指令。移動の案内が先生たちから出ないな。とか思っていたら……。


「よーし。各自今座ってるところでちょっと横と距離とれー」


 先生らが言い出したと思ったら。昼食前に俺が運んでいた段ボールの箱が出てきて……。


「よーし。今から実力テストな」


 ……先生が意味の分からないことを言いだした。本当に意味の分からないことを言いだしたのだった。

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