読み終えたとき、「作家性とはまさにこのことか……」と感じました。
同作者様の『サクラチル』もそうですが、物語自体はどこにでもあるような平凡なものです。それこそ「隣の誰かが経験しているかもしれない話」です。
それなのに、なぜか不思議と引き込まれるのです。
平凡な題材をここまで見事に仕上げる。それこそが、作者様の技術であり、個性であり、それはもう「作家性」と呼んでいいと思います。
読み進めていくと、「とても丁寧な作品だ」という印象を受けました。
その場の空気が伝わってくる丁寧な描写。
互いの気持ちを少しずつ確認するような、あるいは探るような丁寧な会話のやり取り。
展開自体もゆっくりですが、それがとても効果的に働いています。
読んでいてとてもドキドキして、先を読み進めずにはいられません。
ひたすら「いちかちゃん(主人公)、幸せになって!」と念じながら読みました。
表現の工夫も相変わらず見事です。
主人公のほっぺを「プラスチック」、友人のほっぺを「柔らかいゴム」と例えているところが巧みです。
また、主人公の友人を「可愛い例」として登場させることで主人公の不器用さがうまく表現されていて、こういったさりげない工夫が読みやすく感じる秘訣なのではないかと思いました。
タイトル、サブタイトル、キャッチコピーのどれも素敵なので、まずはそこから見てみるという読み方もおすすめです。