第95話 発表2

 耳慣れた名前に似てるからそうじゃないかと思っていたけど、まさかさっき会った人だったか。

 どうやって釣ったのか気になるところだけど、それよりもやっぱりウーゴの怪力は種族特性だったな。

 あんな巨大なサメとか、ハーフドワーフでも厳しい。


「はぁー。オーク族とか言ってましたか。あの力は凄いですねぇ」

「ミングスさん、語彙力が抜け落ちてますよ。……とてつもない力ですね」

「ちょ! エミリーさんも僕と似たようなものじゃないですか!」


 隣の楽しそうな会話に混ざりたい気持ちもあるけど、目だけ動かすと未だにコワーイ方々の睨みが効いている。

 ちゃんとお仕事してますので見逃してくださーい。


「ノコギリザメや太刀魚タチウオから発想を得たのでしょうか。ただ、見た目がちょっと丸っこいですね。もしかして、まだ幼魚じゃありませんか? そこらへんアーゴさんの図鑑ではどうなってますか?」

「えーっと、確かに子供になってるね」

「子供……という表記であれば、まだまだ大きくなりそうですね。イタチザメ程になるのであれば1トンを超えるのかもしれません。もしかしてコイツ、水生系のボ————かも?」


 あ、これ言ったらダメなワードだったわ。


「えーっと、話を変えましょう。まだ子供だとしても、既存の竿だとバトル中に折れてしまうと思います。どんな竿を使ってたか聞いても良いですか?」

「えっと、確かここにあったかな」


 インベントリ内を探すアーゴが竿を取り出すと、具現化された物体が地響きをならして地面に落ちる。

 どう見ても竿と呼べる代物には見えない。

 そこにあるのは両手で持ち上げるのも困難と思える鉄棒だった。

 しばしの静寂を終え、そこかしこから「はぁ!?」と納得のいかない声が湧き上がる。

 思わず俺も解説席から飛び出して鉄棒の元へ行くと、中を覗き込む。


「中までギッチリ。持ってみても良いですか?」

「どうぞー」


 両手で掴みゆっくりと持ち上げ……上がらない。


「すぅー、ふん! ふんぬぅぅぅうううう! 上がらない。力補正の高いひとー、手伝ってー」

「おっしゃ」

「俺もやろう」

「まかせろー」


 ゴリゴリ筋肉質の人、熊獣人、リザードマン。そして、ハーフドワーフの俺を合わせて「せーの」で持ち上げると、ようやく地面から離れる。


「これは鉄じゃねーだろ。ドワーフならわかるんじゃねぇか?」

「調べる。一回降ろして」


【鉱物探知】を付け直し、地面に置き直した鉄棒を調べてみる。

 じぃーっと見つめていると、名前が浮き上がってきた。


『オーク鉱の鉄棍』


「オーク鉱? あったっけな」

「それはウチらの階層でよく取れる鉱石だよ。ウーゴから聞いてない?」

「初耳です」

「こいつを売りにアルフヘイムへ行ってたと思うんだけどねぇ」


 そうだったのか。

 出会った時は、装備も持ち物もほとんど無かったからわからなかった。

 ウーゴは……来てないのか。

 これ以上内輪の話してられないし、解説に戻るとしましょうかね。


「これだけ頑丈であれば納得です。ただ、これを他種族で使うのは難しい。ということで、新素材の発見と竿職人の技術向上が必要になりますね」

「解説ありがとうございました。3位のアーゴさんには1級腐肉の10点セットが送られます」

「やたー!」

「おぉおおお! アーゴ、独り占めするなよ?」

「もちろんよ」


 オーク族たちは喜んでいるけれど、他は誰一人として良さがわかっていない。俺もわからん。


「それ、どうするんです?」

「ん? ヨルムンガンド越えるのに必要でしょ。買おうとすると一個10万Gするからねぇ」

「10万G ……あ! 階層移動だ!」


 うっわぁ。

 ウーゴが言ってた移動に10万G必要ってこれ買うためだったのか。


「アーゴさんだったか、ちょっと聞いても良いか?」

「棒持ってた獣人? なに?」

「腐った肉でアルフヘイムに行けるのか?」

「あー。1級の腐肉で超えられるのはヨルムンガンドだけだから、ミズガルズとアースガルズだけよ。アルフヘイムに行きたいなら————持ってかないと」

「もう一回頼む。何を持ってくんだ?」

「だから、————よ」

「あぁ。……わかった」


 俺もわからないことがわかった。


「えー、みなさん。2位の発表に移ってもよろしいでしょうか?」

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