第96話 発表3 トラブル

 雑談会になりかけていたところ、司会の一言でハッと我に返され、少し申し訳ない気持ちになった。


「それでは2位の発表に参りましょう!」


 ドラムロールが回り出し、ピピピと名前が表示されていくと、これまた見たことある名前が出てきた。


 2位 グレンディル 騎士エビ:957kg


「「「「さすが親方!」」」」

「くそぅ! 儂がトップじゃねぇのか」


 先程のオーク族祭りと同じような状態になりつつあり、俺も両手をあげて喜びそうになったが、なんとか踏みとどまれた。

 その際に持ち上げた手を組んで顎を乗せ、なぞの強解説者っぽさを演出することへ全力シフトしていく。


「素晴らしい結果ですね。少しグロテスクな見た目ですが、セミエビを基にしたのでしょうか? 大きさは胴体だけでもドワーフを超えています」


 何してるんだという視線を向ける隣は無言を貫き、かえって恥ずかしいが、なんとか最後までやりとげよう。


「グレンディルさんはどちらで釣られたんですか?」

「ん? お前なんか変な物でも食ったか?」

「ハッチ氏は照れ隠しで変な動きしてるんですよ。ほっといてあげてください」

「そうか。悪かったな!」


 やめてくれ—。顔がマグマみたいに溶けてまう。


「こいつは姫エビっていう小さな奴を狙うと出てくるんだ」


 グレンディルさんが手のひら出してこのくらいだよと教えてくれる。


「んで、場所は大湖地底の中心から地面を掘って見つけた地下道の中だな。そこにいい感じの穴があって、そこで釣れた」

「あ、はい」


 魚人族ですらお手上げ状態になっている。

 つまり一般プレイヤーの到達不可能地点ということか。


「さくさく行きましょう。2位の報酬は、なんとなんと巨人の槌でーす!」

「「「「おぉー!」」」」


 でっけぇ!

 サイズ比がおかしいんじゃないかって言うほどの大きさ。通常ハンマーを4倍した位大きく、ドワーフなら最高の装備じゃないかと思う。

 だと言うのにグレンディルさんの表情は良くない。


「それ……儂が作ったんだが?」

「ん? えぇぇぇええええええええ!?」


 駆け寄って触れてみると、ドワーフ村にある武具工房の看板と同じ槍とハンマーが彫刻されている。


「マジです」

「え!? 他に報酬は……」

「これで良い。グスタフぅぅうううう!」


 グレンディルさんが大声を出すと、どどどどと足音を響かせながら、ポータルからドイツ国旗を背負ったグスタフさんが走りってきた。


「はぁはぁ……お呼びですか!?」

「こいつを出品しとけぃ。利益は工房仲間と適当に使って良いぞ」

「お? おぉ!?」

「さぁて、それなりに面白かったし、先に帰るわー」


 そう言うと、ポケットから何かのボタンを取り出して押す。まだ何も起きてないが、そんなことは無いはず!

 すると既視感のある地鳴りが始まり、グレンディルさんの前に闇の穴が開いた。


「じゃあなー」


 騎士エビを担いだままその中に入っていくのを見ていたが、ふと思った。今付いてったらドワーフ王国に行けるのでは?


「ま、まった。自分も! どぅふ!?」


 入ろうとしたら、見えない壁に阻まれてしまう。


「マジか!? これって浮遊湖の壁と同じ」


 ついさっき見たやつと同じだ。


「ハッチ氏知らなかったんですか? それは結構前に検証班が調べ終えテルますよぉ。ね? ドリル氏」

「スコッパー氏の言う通り」

「「ウィー!」」


 マジか。

 くそぉ、やっぱりズルには厳しいな。


「えー、1位の発表に移っても良いですか?」

「あ、すみません。進めてください」

「では、発表してくださーい」


 眺めのドラムロールを見上げていると、これまた見たことある名前が出てきてしまった。


 1位 ドーイン コミッタークラブ:2240kg


「ドーインさーん! ドーインさんはいらっしゃいませんか!?」

「あ、あのぉ」

「ハッチさん、どうしました?」

「親方は……ドーインは強制退去させられてました」

「えぇええ? ちょ、ちょっと待って。スタッフの誰でも良いからログ辿って!」


 忙しなくスタッフの指が上下する中、気になったことがあったので、中島さんに尋ねてみた。


「えっと、計量前に退去してたと思うんですけど、親方は測ってたんですか?」

「あぁ。一応先に計量はできたんですよ。ただ一度しか計量できないので、急用ができた人用だったので」


 なるほど、そういうことだったのか。


「見つかりました! その時点で参加資格も無くなってます」

「ちょっとちょっと! それなら名簿から無くなってたはずでしょ? 運営に連絡してみて」

「はい!」


 何やら問題が起きてるみたいだな。


「運営って会場提供だけじゃないんですか?」

「あー、実はランキング機能を試したいってことで、計量と名簿もやってもらってるんですよ。まさかこんなことになるとは……皆さんお待たせして申し訳ありません!」


 ほー、そういうことになってたのか。


「そういうことなら僕たちで間を持たせましょうか。ハッチさんもこちらに戻ってきて」

「そうですね」


 ミングスさんの計らいで確認中は雑談することになったが、ポックルっ子たちとエミリーちゃんファンのデスビームを浴び続けることになってしまった。




「なるほど、ということは妖精種の方々は街の謎解きを頑張ってるんですね」

「ミズガルズにもそういうのありますか?」

「人種の王都と獣王国の遺跡だかにあったかと思います。エミリーさん知ってますか?」

「え? 知らなかった。帝都の図書館の噂じゃなくて?」


 どこも謎解きが詰め込まれてるみたいだな。

 前よりも行ってみたくなってきた。


「ハッチさんはどこに行ってみたいですか?」

「気になってるのは魚人村ですね」

「ははは、やっぱり」


 まぁ、釣んちゅですからな。


「お待たせしました! 発表を再開します!」


 おぉ、思ったより早く終わったか。

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