第86話 クリケット恐るべし
伊勢さんからのお叱りは無し。代わりに出された条件は、一定量の素材無償譲渡。マネーで無く現物を提示してきた。
「くそっ。時間か金かどちらか選べと! 流石は伊勢さん。相手の心理を読んでいる。ゴリゴリに詰めるより、少しだけ選択肢を残すことで仕事させようとする。悔しいことに、それなら返そうと思ってしまっている」
「ってか、今ゴールド残ってるなら送っちゃえば?」
「テッケンさん!? 確かにそうか」
なぜここにテッケンさんがという疑問はさておき、無くなっても半額だから支払い分は残っている。こういう面倒ごとは先に終わらせるに限る。
ゴールドの送り先を伊勢さんにして、OKを押すっと。
よし、これで問題無し。
しかし、残念なことに残金が悲しいゾロ目になってしまった。
1111ゴールドじゃ出店で何を買えるか……。
<これより休憩時間に入ります。この間の釣果はポイントに含まれませんのでご注意ください。>
「ちょうど休憩だな。クリケット観に行こうよ」
「テッケンさんは詳しいの?」
「全く知らん。ははははは、だけどスレの評判は良いよ。これこれ」
_______________
343:観客
初めて見るけど、意外と面白いね。
344:観客
名前がムスタファってなってるけど、わざわざ海外から呼んできたの?
345:観客
劣化だけどバット200ゴールドで買えた。
_______________
その後も割合評価は高い。
ちょっと観に行ってみようかな。
でも、KOKKAも観たいし。
「よし、チラ見だけでもしてこよう」
「じゃあテレポーターに」
クリケット会場に転送されると、円形の芝の中央で試合をしているところだった。野球の会場とも似ているが、配置だったり役割だったりがわからない。
「あそこでルールブック配ってるな」
ルルブを受け取って読むと、なんとなくわかった。バッター2人がいてウィケットという棒の間を交代すると点数になるのね。
試合の点数が気になり、それを見つけて驚く。
「210対40!? こんな点数入るのか」
「クリケットは大量得点が入りやすい競技なのだ。見よ。今まさに6ラン、ノーバウンドで外の線であるバウンダリーを超えたところだ。これで6点追加。ゴロでバウンダリーを超えても4点追加だ」
「なるほど。ところであなたは?」
「私は今大会の非公式マスコット。バッツメェーンと言う。以後よろしく」
どう見ても熊手にしか見えない。飾りを増やしすぎたせいか原型を留めておらず、胴体の『バット』という文字を見て、なんとか元の形を想像しているところ。
見た目は微妙だが、キャラクターが面白かったので、スクショ取ってブログに載せとこ。
熊手のマスコット、ばっつめぇ〜んと。
肝心の競技の方は、かなり面白い。ポンポコ点数が入るから全然飽きず、ピッチャー……じゃなくてボーラーの玉も変な跳ね方しているのもあって面白い。
「ランジット! 走れ走れ!」
「ハッチさん。今のハヌマンの方だよ」
「え? じゃああっちの守備は?」
「えーっと……あ、あれは日本の佐々木選手みたい」
名前と顔が一致しねぇ。なぜアバターとリアルをごちゃ混ぜにしたんだ。
元々の期待値はかなり低かったが、予想以上に楽しいとわかった。そして、無意識に売店に寄ってしまった結果。
「残金540ゴールド。テッケンさんお金貸して」
「え?」
ダメだ。俺より買い込んでる人がいた。劣化品の装備ばかりだと言うのに買い揃えちゃって。
「自分で作った方が性能良いんじゃない?」
「そのつもりだよ。これ分解用だから」
「ハッ!? その方法があったか。俺も買って……」
ゴールド足りねぇ!
やっぱり……。
「貸さないよ」
「くぅぅぅ」
「……まぁ、レシピできたら見せてあげるよ」
「流石テッケンさん! あざっす!」
意気揚々と会場へ戻ろうとしたが、時間を見て焦る。2時間休憩のうち半分を過ぎていて、これ以上残ると他の会場を見る余裕が無くなってしまう。
泣く泣く試合観戦を諦めて、次の会場へ向かうことにした。
「頼みますよ!」
「わかってるって、ちゃんと撮っておくから」
「絶対ですからね」
「……うっさいわ! そんなに見たいなら残るか? おーん?」
「すんません! お願いしますー」
念押しし過ぎて怒られた。マジすんません。
かくして次に向かうのはKOKKAの会場へ。
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