第85話 浮遊湖の守護者

 地図では見えないほど小さな水場がいくつもある。木々を縫って走る間に何度も見かけたが、大きな獣が守っていて近づけないところもあった。

 非常に怪しい! 釣れるに違いないと確信しても倒せない。なんで倒せないかって? 今ちょうど、デスルーラをしたところだからです。

 一撃入れたとかいう話じゃなくて、見つかって目が会ったら死んでた。


「なんだよあれは!」

「あ、ハッチさんも見つけたの?」

「も?」

「私も虎さん見つけたんだけど、ひと爪でやられちゃった」


 ぶち猫さんの場合は飛び付こうとしただけでしょ。こうして話している間も近くにいたケットシーに飛びついているし、そうとしか思えない。

 戻ってきてしまったし、露店を覗いてみるか。オトシンさんが減らした分を補充しても良いからね。


 こうしてゆっくり見ると、思ったよりNPCが来ている。水晶樹のフェアリーも何匹か見かけたし、エルフが露店で見つけた髪飾りを身につけているところも見た。

 ただ、流石に俺たちの店には客が来てないな。


「さて、補充する……か」


 どの項目を見ても”完売”の表示。安い商品ではなかったはず。誰かが買い占めたのか?


 残りの半分を突っ込み木陰から様子を見ていると、緑色の集団がやってきた。


「お。また補充されてるぞ」

「ふむふむ。どうだ? 今度も良い飾りじゃないか?」

「ウーゴォ!」

「お、ハッチじゃないか? 見てくれよこれ」


 耳に引っ掛けてイヤリング代わりに使っている。そんな使い方もあるのかと驚いたが、釣り人としてそいつはいただけない。


「それは釣りに使ってくれよ!」

「何!? どうやって使うんだ?」

「こう針の代わりにつけて投げるんだよ」

「でも食えないだろ?」

「餌の偽物として使うの!」


 詳しく使い方を教えてやるとようやく理解してくれた。


「なるほど、餌のように動かして引っ掛けるのか。面白い使い方するなぁ」

「あぁ。人間って面白いな」

「何言ってるんだよ。あんたらもプレイヤーだろ」

「そうそうプレイヤーだ」

「ほら。ポイントにはならないけど試しに使ってみなよ」


 中央の湖で投げさせると、数投で魚がかかる。


「おぉ! 餌の消費なしで釣れるのは良いな!」

「高いと思ったがなかなか悪くない」


 あんだけ大量に注ぎ込んだのに、オーク族ってのはどれだけ金を溜め込んでいたのか。

 伊勢さんに完売の報告を入れると、デカイ「なんだとー!」をいただいた。耳が痛いから止めてくれと何度も言ってるんだが、効果なし。


「ハッチはこれからどうするんだ?」

「んー。あそこ行ってみたいんだけど、なかなか大きな魚が手に入らないんだ」


 頭上の湖を指して話すと、ウーゴがおもむろに棍棒を取り出した。


「ほら、乗れよ」

「は?」

「半分以上は飛ばしてやる。あとは魔法で勢いつければ行けるだろ」

「いや……行けるか?」


 ヤマトに鉱石注ぎ込めばそれなりに飛べることはわかってる。荷物をインベントリに仕舞えば重量も減らせるし。


「いける」

「よっしゃ。オーク族の能力見せてやるよ。みんな!」

「「「おうとも」」」


 ウーゴの仲間が楽器を取り出して、プップクダンダン鳴らすと、魔力がうねり出し体に染み込んでいく。


「「「「戦のマーチ!」」」」

「ハッチ。棍棒に乗れ!」


 ウーゴの棍棒に乗り、振り上げられる。


「おっしゃ。ぶっ飛べぇぇぇ!」

「ぬおぉぉぉぉ!」


 ヤマトを取り出し起動。

 水魔法で推進力を得てさらに加速。

 ヤマトは再度収納して重量を減らす。


 グングンと浮遊湖に近づいていくと、残り20mほどの距離で重力が反転した。

 頭から浮遊湖に引っ張られそのまま水の中に落下。

 ここで一つ目の誤算は俺が泳げなかったこと。

 なんとか水面まで上がったが、バシャバシャと水を打つばかりで泳げていない。

 2つ目の誤算は、敵の存在を考えていなかったこと。

 水面で暴れていると、目の前から尖った背ビレが迫ってくる。逃げること叶わず大きな口と牙に飲み込まれ、本日二度目のデスルーラ。


「アナウンス。アナウンス。先ほど不正行為で浮遊湖に入ったプレイヤーがおりました。正規の方法以外で辿り着いた場合は、守護者の追撃があるのでご注意ください」


 鉱石計8つと15万ゴールドを生贄に守護者サメを召喚。

 報酬にデスルーラとアナウンス。

 さっきの売り上げ半分無くなっちゃった。伊勢さん許してくれるかな?

 とほほ……。

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