第58話 同居人は猫とハーフドワーフ

 猫の後ろから現れたのは、どこかで見たような女の子。


「確か、シルバーダンデさん」


 女の子がその名前に反応した。


「なんだ。母の知り合いか?」


「え!? 母?」


 子供じゃなかったのか!?

 でも、リリーさんはもっと背は高いし……。


「ハイドワーフの女性は、種族的に特に背の低い個体なのですか?」


「なんとなく聞きたいことはわかった。他種族からすると子供っぽく見えるかもしれないな。エルフ同様に成長も更にゆっくりだ」


 人間で言うところだと10歳くらいの見た目なんだけど、迫力があるというか得体の知れない圧があるな。


「自己紹介はここらで良いだろう。お前らはここの研究生となるということで良いな?」


 弟子じゃないのか?


「研究生って何ですか? 弟子とは違うんですか?」


「言葉の通りだ。ここで研究する生徒であって、弟子みたいにあれこれやれとは言わない」


「ということは、ハッチさんと私で自由に作って良いということですか?」


「そうだな」


 あまり違いがわからんな。

 今までも割と自由に作らせてもらってたしなぁ。


「自分たちで調べて、何か作りたい時は言いに来なさい。質問も受け付けている」


「わかりました。よろしくお願いします」「お願いします!」


《魔法陣入門クエスト:アルフヘイム魔法工房へ行け! が完了しました。》

 完了はしたけど、続きが無いな。


「パッド。宿舎に案内してやってくれ」


「はいなー」


 研究生用の宿舎は工房のさらに奥にある。

 猫に案内された場所は、パッと見たところ馬小屋みたい。


「僕のおすすめはこの桶なんだ。すっきり収まって居心地が良くてね。……たまに使わせてくれる?」


「え、えぇ。お好きに使ってください」


「よかったー! あ、そこのわらは自由に使って良いからね!」


 軽快なステップで工房へ戻っていく猫の後ろ姿を眺め終えると、ようやく一息つけた。


「さて、グスタフさんどうしますか?」


 声を掛けるとそこにはおらず、奥で自分のスペースを確保していた。


「ハッチさんも早く場所決めちゃいましょう。多分早い者勝ちですよ」


「早い者って、2人しかいないじゃないですか」


 やっぱり奥が良いかなぁ。

 グスタフさんの反対側にしてっと。


《他キャラクターがすでに使用しています。》


「え? じゃあ、その隣は」

《他キャラクターがすでに使用しています。》


「こっちもか! それならここ!」

《個人スペースを確保します。》


 誰か先にきてたのかな?


「ハッチさん。私は先に戻ってます」


「はーい」


 まぁ、なんとか確保できて良かったよ。

 とりあえず、引っ越し荷物だけ置いて戻ろうか。

 小屋から出た時、庭にキラキラと光の反射する道が見えて吸い込まれる。


 日差しを浴びつつ、サラサラと流れる音を聴いていると気持ちいいなぁ。

 手に揺れる感触はないけど、こうしているだけで落ち着く。


「ハッチさん! 何やってるんですか!」


「え? 何って」


 あれ? なんで釣竿もってるんだ?


「1時間くらい待ってたんですけど……」


「あぁ、スミマセン。気づいたらこうなってました。」


「はぁ、他にも良い釣り場あるでしょう。どうせ明日も散策するんですから、その時探しましょうよ」


 申し訳ねえ。

 せっかく釣竿作ったのに釣りができてなかったからなのか、体が無意識に動いてしまった。


 グスタフさんに引っ張られて工房に戻ると、猫のパッドに止められてしまった。


「ちょっと待った! その右手に持つのは、まさか釣竿かな?」


「そうですよ」


「ちょっと見せてもらっても?」


「どうぞどうぞ」


 渡してあげると、さまざまな角度から熱心に観察している。自分が作ったものをこんなに見られるとなぜか緊張するね。


「うんうん。返すよ」


「どうも」


「名前はハッチだったね」


《納品クエスト:ケットシー族のパッドに釣竿5本納品》


「報酬は素材か情報のどちらか。素材だと妖精サファイアで、情報なら釣りスポットでどうかにゃ?」


「釣りスポットでお願いします!」


「ハッチさん! 妖精サファイアのことだけでも聞きませんか!?」


「そうですね」


 妖精サファイアとは、こことは別の場所にある妖精郷という場所で取れるサファイア。妖精郷の独特なエネルギーを微量含んでおり、それなりに高価らしい。


 報酬選択:妖精サファイア or →釣りスポット


「よし。早めに頼むにゃ」


「妖精サファイアを見たかったです」


 いやいや、ここは釣りスポット一択でしょ。

 だけど、竿の素材どうしよう。

 竹の残りも無い。


「素材無かったの忘れてたなぁ」


「街ブラする時、ついでに素材売ってる店も探しましょう」


「ですね。周辺の素材情報も欲しいところです」


 工房に戻ったらハイドワーフの家主が待っていた。

 そういえば名前も聞いてないし、関係もいまいちわからないな。


「なんて呼べば良いんでしょうか? 先生か親方でしょうか?」


「私の紹介をしていなかったな! 私の名前はアカンダンテ。先生か教授とでも呼んでくれ」


「はい、おやか」


「親方ではない!」


 つい口癖で言ってしまった。先生か教授……、教授のほうが面白そうだしそっちにするか。


「教授、よろしくおねがいします」


「よし! 軽く中を案内してやろう。ついて来なさい」


「「はい」」

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