第59話 中央広場にスケスケの木

「あれ? モウカさんは?」


「今日は配達品届けるクエストでソロだってさ」


「残念だなぁ」


「案内が欲しいだけでしょ? とか言っている俺も案内が欲しい」


 我々3人は『おのぼりさん』なので道案内がいると助かったんだけど、今日は直感力が試されそうだな。


「さてどっちに行こうか。右だと思う? 左だと思う?」


「前後もあるよ?」


 広場は東西南北に道が通っている。

 後ろは通って来た道だから、行っても街の入り口へ向かうことになる。横道に入ればまた違うんだろうけど、迷うのがわかっているから選ばないよ。

 ということは残りの3方向なんだけど、西と北は良いとして、東って街の外壁方向でしょ?

 街に入る前から壁が見えてるのに、しょっぱなから見たいとは思わないなぁ。


「というわけで、今日は探索気分だから西か北の2択なんです」


「ほおぉ。もっとテキトーに決めているのかと思ってた」


「まぁ、今日も配信なんで、ちょっとは面白そうな場所へと思ってね。グスタフさんはどう?」


「私は北が良いですね」


 なんでか聞いてみたら、グスタフさんの脳内地図だと、ここはまだ産業区の入り口付近らしい。中心地を目指してショップを探す目的みたい。

 俺もテッケンさんもそれに賛同して、北へ行くことになった。


「看板だと妖精大通り6って書いてあったけど、こんな道がいっぱいあるのかな?」


「昨日ミコノスと似てるって話しましたよね」


「グスタフさんが? 言ってたっけ?」


「ハッチさんが聞いてなかっただけじゃないか? 俺は聞いてたよ」


 テッケンさんは聞いてたらしい。そしてコメントにも話してたと流れている。街並みばっかり見てたから、話の内容はほとんど覚えてないな。


「それで、ミコノスの街はもっと複雑なんです。曲がりくねり行き止まりも多々あって、それに比べるとわかりやすい道ですよ」


「俺にはわからないなぁ。大通りと言うだけあって、道幅は広いけど、階段の上下もあるよ?」


「それですよ!」


「へ?」


「上下しているということは、下に」


 グスタフさんは面白そうに地面を指さしている。


「あ!」


「テッケンさんはわかったの?」


「たぶんだけど、地下があるのかもしれないな」


「それです! まぁ、すぐには行けないと思いますが、そのうちに期待しておきましょう」


 地下と言えば、ドワーフ国があったのも地下だったな。地下があるなら、ここから繋がっているかも?

 落ち着いたら調べてみようか。





 上り下りはあるけれど、門から最初の広場までと比べると、確かに真っ直ぐな道。

 ドワーフ村内の端から端までの距離は歩いたんじゃ無いか? なんて思っていると、前方が開けてきた。


「私の予想通り。ここが中心街でしたね」


 大きな看板には『コネクト中央広場』と書かれている。真ん中には変わった木が一本生えていて、周りでくつろぐ小さな妖精たちがいる。


「あの透明な木はなんだ!? 周りの種族も初めて見たぞ」


 テッケンさんに先を越されて言われたけど、同じ気持ち。


「綺麗だねー。木も見たいし、妖精っぽいのも話してみようよ」


「行こう!」


 木に近づくほどに大きさの感覚が狂っていく。


「さっきより木がでかくなってない?」


「俺も思ってたんだ。妖精も大きくなってないか?」


 後ろを見ると、周囲の建物も大きくなっているように見える。


「私たちが小さくなってる? 面白いですね」


「結界だよ。フェアリー族以外は、中心部に近づくと体が小さくなるようにしてあるんだ」


 聞き慣れない声の主に振り返ると、羽の生えた妖精が頭上で飛んでいた。


「え? うわ!」

「おぉ……」

「飛んでる」


 外から見るのと違って同じくらいの大きさ。

 それが頭の上にいるもんだから、ビックリもするよ。


「驚かせてごめんね。中から見えてたから気になってさ」


「あ、どうも」


「あそこが気になるんだろ? 着いてきなよ」


 その妖精に先導されて中央の木にたどり着くと、自分たちが小さくなったせいか、透明な木が樹齢1000年を超える大樹のように見える。


「これって何の木なんですか?」


「これはジュエルマザーツリー。名前のまんま宝石が成る樹だよ」


「触ってみたい」


「良いよー」


 許可ももらったので触れてみたが、ひんやりとして気持ちがいい。


「特別変わったことは無いですね。いや、変わった樹ではあると思いますが」


「ハッチさん。ちょっと肩車してくれ」


「え? いいですけど」


 テッケンさんを肩に乗せると、右へ左へ指示される。周りの妖精たちも面白そうにこちらを観察している。


「もちょい右!」


「このくらい?」


「よし! 採れた!」


「え?」


 テッケンさんが降りてくると、右手に掴んだ何かを自慢げに見せてくる。


「これだよ」


「んー? これってジュエルマザーツリーの実?」


「そそ。取れるか試したけど、何も言われないからさ」


 この人はたまーに恐ろしい行動に出る。大事そうに植えてあるし、何かたたりでも起きそうで俺はできないな。

 テッケンさんは、手の上で虹色の宝石を転がしていると、だんだん煙が出始める。


「うわ!? ど、どうした」


 煙が立ち上り樹に向かっていくと、木の実は小さくなっていき、とうとう無くなってしまった。


「ぷぷ。思った通りの行動してくれて良かったよ!」


 案内妖精が面白そうに話す後ろで、他の妖精たちも楽しそうに飛び回り、あちこちで笑い声が飛び交っている。


「半分くらいはそうやって試すんだけど、取っても消えるだけさ!」


「えぇ? だったら先に言ってくれても良いじゃない」


 テッケンさんがそれを言うのもな。

 何か言われてもやったとしか思えないぞ。


「これも僕らの楽しみなんだよ。気になるだろうから説明してあげるよ」


 近くにあるテーブルに案内されると、妖精が自己紹介を始めた。

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