第57話 迷路な街と二足歩行なやつ

 えっと、コメント表示はフレンド限定で良いんだっけ。

 これでチーム共有して。

 あ、ヤマトも起動しておこう。

 癒しは必要だよね。

 部屋名を決めて、これで開始っと。


「配信始めたんだけど、誰か確認してもらえますか?」


「オッケー。番号と名前教えて」


「部屋名が『アルフヘイム来た』で、番号は……5430です」


「んー。ここかな?」


 テッケンさんが操作していると、端っこにコメントが出て来た。


(できてるよ ——テッケン)

(おっすおっす ——テロップ)

(ドワーフ村とは大違いですね ——ぶち猫)

(その場でゆっくり周りを見てもらえますか? ——テロップ)


「了解」


(石造の建物で統一されているのかな ——テロップ)

(村とは違って区画整理されて綺麗だな ——オトシン)

(お? やっと日本も来たか ——サーモナー)

(山側は見づらいですね。あの森も外壁の内側? ——ぶち猫)


 んー? サーモナーって誰だっけ。

 ……釣竿送ったやつ。

 アランか!

 本当にわかりづらい名前だな。


「サーモナー。イギリスはもう開放されてるの?」


(そうだな。アメリカ、ロシア、インド、中国は開放されてるみたいだ。他にもいくつかあるらしいけど、俺は把握してないな。 ——サーモナー)


「なるほどね。というか、みんなにも見えてるかな? 伏字になってない?」


(見えてるよ。 ——テロップ)

(見えてる。 ——ぶち猫)

(おい。そんなことより早く街見せてくれよ。 ——オトシン)


「ごめんごめん。じゃあ出発しましょうか」




 街に近づくにつれて、砂利道から石畳に変わっていく。

 看板から街までは徒歩数分だけど、何度も牛バスとすれ違っている。それなのに、楽々通れてしまう程の道幅があった。


 街の周囲も壁で囲まれており、そこでも門番の検閲が入る。


「身分証を出してもらおうか」


 またエルフの衛兵が確認してくる。

 先ほどと同じように紹介状を見せると、通してくれた。


「あぁ。これはすごいなぁ」


「ギリシャのミコノスと似てますね。違いは島と平地という点でしょうか?」


「俺は行ったことないんですよね。グスタフさんは行きましたか?」


「一度だけあります。ふむ……」


 興味深そうに建物を見ているグスタフさん。

 話しかけづらくなっちゃったな。


「2人とも、早く目的地行こうよ。最悪地図だけでも見つけないと、迷っちまいそうだ」


 テッケンさんに押されて進むと、確かに迷いそうな道になっている。

 建物かと思えば壁だったりするし、通路が建物の上にも通っていたりと入り組んでいる。


「こっちですわ」


 モウカさんがいなければ、確実に迷子になってたんじゃないか?


 10分ほど歩き、その間に何度も左右に曲がり、階段を登ってアーチを渡る。

 その白さが余計に迷わせてくる。


「よく道がわかるね」


「見分け方はあるんですけど、工房か訓練所で教えてくれますので、ご自身で確認なさってください」


 特殊な見方があるってことか。

 ようやく大きな噴水が設置されている円形の広場に出てきた。


「マップにも表示されないし、どうなることかと思ったよ」


「だけど、目的地は見つかったね」


 噴水を中心に、ちょうど対角線上に訓練所と魔法工房の看板がある。


「他にも広場はありますが、しばらくはここだけで十分かと思いますわ」


 そう言うと、モウカさんは1人で目の前の宿屋へ入って行ってしまった。


「私たちも行きましょうか」


「そうだな。じゃ、2人とも何かあったら連絡くれ」


「「はい」」


 テッケンさんと別れて魔法工房へ入っていくと、背筋のピンとした猫が出迎えてくれた。


「いらっしゃい! お客さんかな?」


「あ。え? いえ」


 猫?

 しゃべってるし、立ってる。


「紹介状です」


 そうだ。紹介状出さないと!


「俺も!」


 受け取ってくれたけど、手というか前足だよね。

 どうやって掴んでるの?


「にゃるほど、おっと失礼。たまに訛りが出てしまうんだ」


 それって訛りなのか!?

 コメント欄がヤバいことになっているが、無視するしかない。


 着いてこいと言われて、工房の奥に連れられると、ポーションや薬草の並べられた部屋に案内される。

 薬屋と似ていて居心地が悪い。あまり良い印象が無いんだよな。


「先生! せんせーい! 新しい生徒が来ましたよー」


 誰も来ないな。


「また、こもってるかな。ちょっと待ってて」


 そういって奥の扉へ向かっていく。


「1、2、3と。入りますよ!」


 今の動きなんだ?


「ハッチさんも見ました? なんかのトラップでも入れてるんですかね?」


「見ましたけど、どうなんでしょう。そのうちわかるのかなぁ?」


 猫がいなくなって暇なので、コメント欄を見てみる。

 どうやら工房の奥に入ったら、ブラックアウトになってしまったみたい。長くなりそうなので、今日はここまでにして、街ブラは後日改めて行うことにした。


「じゃあ、そういうことで、ご視聴ありがとうございました」


「今日は街ブラできませんからね。妥当な判断です」


「もっと早いかと思ってたんですけど、この様子だと」


 言いかけたところで良い香りの風が吹いてきた。そちらを見ると、誕生日に通った不思議トンネルがある。


「転移ですかね」


 あれが転移か。確かにそうかも。

 猫が転移で戻ってきた。


「お待たせしました」

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