第56話 光の都市アルフヘイム

 もうすぐアルフヘイムに到着すると言われて、窓から身を乗り出して探してみたけれど、一向に見つからない。


「どこ?」

「わからないな」

「あれですかね? あそこの森とか」


 全員違う方向を見ている。


「いえ、あれですよ」


 モウカさんが指すのは大きな山。

 だけど、どうみてもただの山にしか見えない。


「もうちょっとすると境目になるので、わかりますよ。ほら、あの兵士が立ってるところ」


 それが居るとわかったのも100m程まで近づいてから。曲がりくねった街道を進んで、やっとエルフが2人立っていると気づいた。

 その直前で牛バスが止まると、御者と会話を始める。


「積荷はなんだ?」


「ドワーフ村からの若者3人と戻って来た奴1人だ」


「そういえば、最近来てなかったな。確認するぞ」


「どうぞどうぞ」


 兵士たちがバスへ乗り込んできた。


「お前たち、紹介状はあるな?」


 いきなり紹介状とか言われると緊張するな。

 1人確認しては頷き、また次へ。


「テッケン君は訓練所か。それならコレだな」


 青いリボンをつけられている。


「グスタフ君とハッチ君は魔法工房だな。こっちだ」


 それぞれ緑のリボンをつけられた。


「君は……ふむ。これを渡しておく」


 モウカさんはピンクだな。

 兵士は続けてモウカさんに問いかけている。


「わかっているだろうが、くれぐれも注意してくれよ? 許可した師匠も困るだろう」


「わかっています。気をつけます」


 何の話かわからないが、機密事項だろうか?

 もしかしたら、お使いに関することかもしれない。


 そうそう。

 バスの中で数回だけ『ですわ』調が無かったので、聞いてみたらプレイングということがわかった。

 その後も『ですわ』を続けてることから、ロールプレイを楽しんでるとわかる。

 テッケンさんも見習ったらどうかね?

 なんてね。


 そんなことは関係無しに、ヤマトはくしくしと顔を洗っている。

 今日もヤマトは可愛い。

 エルフたちも見つめているよ。


「機獣持ちは珍しいな。どの系統にするんだ?」


「系統?」


 なんだそれ?


「系統を知らないか。どうせ魔法工房に行くんだし、そこで聞いてみると良いさ」


 それだけ言って、バスを降りていく。

 先ほどの待機場所へ戻ると、風景に同化していって見分けづらくなった。

 さっきはあえて姿を見せたのかな?

 これは初見だとわからないよね。


 それで、モウカさんの言った境目というのがわかった。

 兵士の横を通過すると、一気に景色が変わる。

 ただの長閑のどかな街道だったはずが、立ち並ぶ街灯が左右に現れる。

 道の先には家々が立ち並び、山肌には木々と同化した城のようなものが見える。


「あれって……城?」


「城もありますが、山周辺をまるまる都市にしたのですわ」


 ふもとには巨大な木々が並び、近づくにつれて、ただの木じゃないことがわかる。

 どれもこれも太く高い。

 その中間地点にはツリーハウスがあって、ハシゴが吊るされている。


「うおー! これはすげぇ!」


「ドワーフ村とは段違いですね」


 呆気に取られてしまうな。

 それも、外壁の外側から見えている範囲だけ。

 ようやく入り口へ到着したと思ったら、待ち構えていたのは白塗りの巨大な門だった。


「どんだけの高さがあるんだ!?」


「ハーフドワーフは低めだから……、ざっと見て天辺まで20mくらいですかね?」


「20mってどのくらい?」


「およそ7階くらいですかね」


 でけぇ。

 そろそろ首が疲れそうになった。

 バスがゆっくりと進んでいくと門番が対応を始める。


「中を確認するぞ」


 先ほどと同じように紹介状を確認され、すんなりと通される。


「この馬車はアルフヘイムの認証があるので、信頼があるのです」


 そういうのもあるのか。

 門をくぐって数分進むと、街の手前で降ろされる。


「お疲れさん。そにある程度の地図が描かれているから、ここからは自分で行ってくれな」


「「「「ありがとうございました」」」」


 さっそく地図を確認すると、大まかに4つへ分けられている。



 ———————————————

  立ち入り  |    商業

  禁止  _____  工業

    /  大聖堂  \

   /         \ ●

 _|     山     |_

  |           |

   \    城    /

     \_____/

       森林 

 ———————————————


 ●が入り口で、今いるのは産業区ってところかな?

 森林地区はツリーハウスが見えていたから、居住区も兼ねていそう。

 立ち入り禁止は奥側だし、まだまだ見えない。


「城も大聖堂も、ここからじゃわからないね」


「いずれ行けるかもしれないし、今は目的地を目指そうよ」


 テッケンさんの言う通りだね。


「えっと訓練所と魔法工房は……」


「どっちもここから北側だよ」


 ん?

 知らない声だな。どこからだ?


「こっちだよ」


 地図の後ろから見たことない種族が出てきた。

 若干緑がかっていて、身長は俺たちより少し小さい?

 ポックルくらいかな?


「訓練所も魔法工房もあっち」


「そうですか。ありがとうございます」


「いえいえ。じゃあね!」


 案内NPCかな?


「初めてみる種族でしたね」


「ここにいるってことは妖精種なのかな? モウカさんわかる?」


「……いえ。私も初めて見ましたわ」


 これ以上考えても無駄か。

 とりあえず進みますかねぇ。


「あ! ハッチさんさ」


「はい?」


「配信するんじゃなかった?」


「そうだった! 準備するからちょっと待ってて」


 テッケンさんに言われるまですっかり忘れてた。

 これですっぽかしてたら、どんだけ苦情が来たことか。

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