第54話 僕らは知らず知らずの内に釣りをしていた。街道でな!

 剥ぎ取りが終わって前方に向かうと、こちらも剥ぎ取りをしていた。


「お疲れさまー。そっちもボロボロだね」


 2人の鎧には、引っ掻かれた後や泥がこびりついている。


「見ての通り。初めての敵は対応が難しいね」


「テッケンさんは近接ですからね。私みたいに槍だと少しマシですよ」


「盾に慣れちゃって、もう手放せませんよ」


 盾かぁ。

 あったら肩も無事だったかな?

 いや、慣れるまで返って邪魔になりそうだな。


「ちょっと」


 モウカさんが眉間にシワを寄せている。


「剥ぎ取った後どうしてますの?」


「どうって、あそこで加工してましたよ?」


「そうではなくて、それ」


 指の先には内臓やらが落ちている。


「そのままですね」


「それを狙って、また狼が来ますわ」


「「「あぁ」」」


 今まで気にすることなくても問題なかったけど、言われると納得する。


「エサを撒いてたのか」


「終わったなら私が処理しますけど?」


「そうですね。やり方も教えてもらますか?」


「わかりましたわ」


 剥ぎ取った残骸に向かっていくと、火で燃やし始める。

 火かぁ。

 なかなかの火力だし、火打ち石で代用できるかな?


「グスタフさん。あの火力の道具とか持ってます?」


「アレくらいなら薪使って……」


 モウカさんの方から、ボンっと弾ける音がして振り向く。

 指先から火炎放射ばりの炎を吐き出して、残った血の痕まで焼いていく。


「無理ですね」


「ですね。他の方法を考えましょう」


 前方はモウカさんに任せて、俺たちは後方の残骸処理へ向かう。


「私の考えでは、魔法を使わなくても良いはずです」


「「ほうほう」」


「覚えずに街道を通る人もいるでしょうから……、それよりも処理しましょうか」


 最後まで聞いてないけど、言いたいことはなんとなくわかる。魔法覚えないと旅出来ないってのは考えにくいしね。


「埋めますか」


 そうなるよな。

 掘った穴に埋めてみるが、どうしても臭いは消えないな。

 掘り返して再び取り出す。


「どうしたものか」


 テッケンさんがおもむろに内臓を掴み出し、切り分け始める。


「細かくするんですか?」


「いや、胃は水筒に出来るかと思ってね」


 そっか、部位によっては使えるかもしれないな。


「色合いがまともな奴は街まで持っていってみましょうか」


 内容物は無いので、カバンにぶち込む。


「え? そのままですか?」


「包むもの無いですし」


「はぁ。これ使ってください」


 グスタフさんがバナナの葉っぱみたいのをくれた。

 それに包んで再び収納。

 穴には血の痕などを入れて埋めると、臭いがしない。


「ひとまず様子見ですね。出発したら手早く修理しちゃいましょう」


「「了解」」


 牛バスに戻ると、すでにモウカさんが中で休んでいた。


「お疲れ様ですわ」


「あ、どうも」


「「……」」


 さっきのお礼を言おうと思ったんだけど、何事もなかったように座っているので、うまく返せなかった。

 それは他の2人も同様で、牛バスが出発すると無言で修理を始める。

 だいたい修理が終わったかな。


「そうだ。モウカさんの手甲はまだ大丈夫ですか?」


「え? たぶん大丈夫かと思いますけど」


 ちょっと心配になったのか、手甲を取り出して調べ始めた。


「うーん。かすり傷はありますけど、おそらく大丈夫かと」


 無意識で手甲に近づいて眺めていると、影で暗くなっていることに気づく。

 全員で手甲を囲むように見下ろしているという奇妙な光景だな。


「変わった素材ですね」


「金属か? いや、艶感からすると甲虫系かな?」


 ほうほう。

 確かに金属とは違う質感だよね。


「えぇ。アルフヘイム近辺の虫ですわ」


「だとすると、修理するには素材が必要だな。応急処置用にこれを渡しておくよ」


 テッケンさんが小さなツボを取り出す。


「艶出し用の塗装剤なんだけど、師匠曰く虫系の修理でも多少耐久値が回復するみたい」


「それなら頂いておきますわ」


 それにしても変わった色合いだな。


「生産職をしていると、新素材って気になりますね」


「なんというか、見入っちゃいますね。ただ、これは似たものを見たような気がするんですよね」


「ハッチさんもですか? 私も武具工房で見たような……」


 なんだったか、赤っぽい……。

 ダメだな。

 グスタフさんはどうかな?


「うーん。親方が持ってたような」


 親方が?

 そうだったかな。


「あぁ! 親方が持ってた色付きの剣です」


「へぇ。そんなものがあったんですね」


 ドーイン親方も持ってたっけ?

 というか、親方からできる限りレシピ買っておけば良かった。

 所持金500Gか。

 無理だな!


「お金が……無い!」


「どういう経緯でその話になったの!?」


「話が飛ぶのはいつものことです」


 すまねぇ。

 だけど、金欠だと気づいたら思考が離れなくなってしまったんだ。


「色々考えながら調べてたら、所持金が目に入ってね」


「いくらですか?」


「500G」


「それはまた……」


 グスタフさんも苦笑い。

 そういう顔にもなるわな。


「2人は?」


「4000Gだな」


 テッケンさんはそこそこ。


「私は10000Gです」


 小金持ちのグスタフさん。

 そこでモウカさんが気になってチラ見。

 話に入りませんと離れているので、これはスルー案件だな。


「ハッチさんのためにも、素材集めはしておきましょうか」


「それを売るだけでも、そこそこ金になるかもな」


 確かにそうだ。

 モウカさんの話だとあと5日ある。

 その間に、色々溜め込んでアルフヘイムで放出しますか。

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