第53話 一人違うゲームをしている奴がおる

「理解しましたわ」


 理解したとは言っているけど、まだ何かを考えている様子だ。何を考えているかわからないけど、俺の想像のはるか上を行っているんだろうなぁ。

 なんて考えていると、外から牛の鳴く声が響いてきた。


「これは?」


「敵襲ですわ。行きましょう」


 敵襲とは言ってるけど、全く急ぐ様子は無い。

 扉を開けて、優雅にタラップを降りるモウカさんに続く。


「来たね。道が塞がれてるんだ。何とかしてくれるかい?」


「わかりましゅたわぁ!」


 エルフさんの声はちゃんと聞き取れたけど……俺の耳がおかしくなったんだろう。そうに違いない。

 前にいるのはウサギが3体で、可愛らしく口をもしゃもしゃと動かしている。

 モウカさんとテッケンさんが飛び出して攻撃を開始!

 かと思えば、モウカさんが突き出した拳から火球が飛び出して、ウサギを丸焦げにしてしまった。


「マジかよ……」


「ちょっと差が大きいな。次からサポートにしてもらおうか」


 モウカさん1人だけで倒してしまったら、俺たちの成長なんて皆無だしな。グスタフさんの言う通り、サポートしてもらうことになった。

 ウサギの素材を取ろうと思ったけど、肉まで廃棄物になっている。




 次の戦闘は意外と早くやってきて、再びウサギが3体現れた。


「ハッチさんは遠距離から!」


「了解!」


 テッケンさんが剣で斬りかかると2m程跳ねて回避する。他のウサギはスキを見て蹴りを入れてくるし、村近辺よりだいぶ強くなってるように感じた。


「ハッチさん! 着地を狙って」


 跳ねたウサギを狙ってスリングを発射すると、うまく当たった。グスタフさんが、すかさず追い討ちして倒す。


「よっし!」


「次行くぞ!」



 ◆ ◆ ◆



「動きは単調だから倒しやすかったね」


「竹林の連携が役立った感じだね」


 初対面での戦闘だったらもっとグダグダだったかもしれないな。テッケンさんの指示もわかりやすいし、グスタフさんのフォローも上手い。

 ……俺って何が上手いっけ? まぁいっか。


「さてさて、剥ぎ取りっと」


【草原うさぎの皮】【草原うさぎの肉】これが3つずつ。


「こんなものか」


「早く進みますわよ」


「あぁ。すんません」


 ささっとカバンにしまって牛車に乗り込む。


「グスタフさん。盾見てもらえる?」


「良いですよ」


 テッケンさんの盾をグスタフさんが直してる間に、皮は渡しておく。


「ありがとう。ここだと臭くなりそうだしな」


「私は構いませんわ」


 俺もグスタフさんも気にしない。


「じゃあちょっと作業するか」


 そう言って、テッケンさんはなめし作業に入ってしまった。


「ハッチさん」


 グスタフさんからお呼びがかかる。


「こっちのハンマーを見てください」


 少しだけ歪んでいる。

 これは金属部分じゃなくて柄がへたってきてるな。


「モウカさん。柄の予備とかありますか?」


「それでしたら、これでしょうか」


 楕円形で太さもぴったり。

 受け取ったら付け替え作業開始。

 なめし液の臭いと金属音がしばらく響き渡っている。


「こっちはしばらく放置かな」


 テッケンさんの声が聞こえた時、ちょうどこちらも終わった。


「グスタフさんも終わったかな。はい。ハンマーね」


「どうも。私も盾を」


 やってることは普段の劣化版だけど、いつもと変わりないね。


「なるほど。生産者が集まるとこうなるんですわね」


「俺たちはいつもこうだけど、モウカさんたちは違うの?」


「木工所は、少し近いかもしれませんが、ここまで修理しないですわ。戦闘職のチームだと、修理なんて戻るまでしませんわ」


 恐ろしいことを言ってるな。最低限でも、戦闘が終わったら武器の調子くらい見るだろ。

 グスタフさんもテッケンさん同じ気持ちだろう。


「ポックル村で一度だけ戦闘チームに入ったけど、彼らもそんな感じだったな」


 ほほお。

 そういえばテッケンさんはポックル村に行ったんだっけ。


「まぁ、ドワーフ村が特殊なんだろうね。あんなに生産寄りな所は他に無いと思うよ」


「へぇ。あそこしか知らないから、そういう話は新鮮だな」


「アルフヘイムにどれだけプレイヤーがいるかに寄るけど、他のチームに入っても面白いかもね」


 モウカさんみたいな人が多かったら遠慮するかもしれん。

 何もせずに一日が終わりそうだ。




「ぶもぉぉぉ」


「戦闘だ! 来てくれ!」


 先程の敵襲とは声色が違って、緊張感が伝わってくる。


「急ぎますわ」


 駆け足で飛び出すモウカさんに続く。

 降りると前方と後方に狼が1体ずつ見えた。


「ハッチさんはモウカさんと後ろへ!」


 返事を聞かずにテッケンさんたちが動き出す。

 後ろへ走ると……モウカさんはすでに狼の前にいるじゃないか!


「足止めしますわ。遠距離から攻撃を!」


 いつの間にか装着した手甲を使って、狼の攻撃を左右へ弾いている。

 ウサギ同様に着地点へ打ち込むと綺麗に直撃。

 すると狙いをこちらに変えてきた。


「そちらへ行きましたわ!」


 鉈を構えて迎撃しようと思ったけど、予想以上にデカイな。俺の身長が低いのもあるけど、腹ぐらいまで高さがある狼か。

 飛びかかる狼の爪は払えたけど、牙が右肩に刺さる。


「くっはぁ! 一撃で3割かよ!」


 さらに噛みつかれているとHPがすり減っていく。

 左手に鉈を持ち替えて横っ腹を斬りつけたら、やっと離してくれた。


「私が倒しますわよ?」


「はい」


 こんな体たらくでは「俺が」なんて言えなかった。


「火は使いませんわ。ただ、一部取れなくなりますわよ」


 そう声をかけてくると、手甲とかち合わせて低めの金属音が鳴らす。その後、青白い湯気を体から立ち上らせ始めた。


「ふぅ」


 一足飛びに狼へ向かうと、相手も噛みつこうとしている。


「はぁ!」


 鈍い破裂音がしたかと思えば、そこら中にポリゴンが飛び散っていた。


「あぁ。これはダメなやつだ」


 ゆっくり近づくと首無しの狼が横たわっている。


「もう後ろは来ませんので、前方行ってきますわ。あとはよろしく」


「あっ。はい」


 残りHPは5割。

 ポーション飲むか……。


「マッズ! ふぅ。剥ぎ取りしよ」

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