第52話 モウカさんはシティガール・ハッチ氏は放置ボーイ

 ゴトゴトと牛バスの動く音はすれど、振動は無し。

 まだまだ敵も出てこないし、静かなものだ。


 すまん。

 静かというのは取り消させてくれ。


「フォオオオオ!」


 奇怪な鳴き声とともに、パシャパシャとスクショが連写される音が鳴り響く。


「ハッチさん。止めないの?」


「テッケンさんが止めたら良いじゃん」


「いや。モウカさんの担当はハッチさんだからさ」


 担当って何だ!?


「我々ではダメなんですよ」


「いや、そんなことは……」


「あるんです。私もそこらへんは謎だと思ってますが、そういうルールみたいですし」


 グスタフさんまで……。

 だけど、ただ止めるというのもなぁ。


「何か話題があれば、止めやすいんだけど」


「それなら。道中のことを知ってそうですし、それを聞きましょう」


 グスタフさんの言う通り、確かに知って風な話をしていたな。それで行こう。




「生エルフさいこー!」


「あ、あの」


「ああん?」


「うお。ちょ、ちょっと聞きたいことがありまして」


 めっさ怖いな。

 目が座ってるし、ゲーム内なのに角が生えてるような幻覚が見える。

 木工所での発言といい、この人の対応の答えが知りたいところだ。

 モウカさんの視線が、御者とこちらを何度も往復する。その後しばらく目を瞑った後ため息を吐いた。


「ふぅ。ちょっと落ち着きましたわ」


「へ、へぇ」


「それで、何か用ですか?」


「あぁ。街道について詳しそうだったので、それを聞こうと思いまして」


 今度は視線をあちこちへ振った後に、「行ったことが」とボソボソ呟く。

 ハッとした顔して、自分で驚いてるから、こっちも追いつけない。


「なるほど、もう言えるのですわね」


 どういうことだろうか?

 モウカさんが牛バスの真ん中まで歩き、俺たちの対面にある座席に腰掛けると、カバンから紙を取り出した。


「ここがドワーフ村」


 指した地点を見ると、草原に囲まれた街道。

 その地図の右下には『ドワーフ村』と書かれている。


「ここから、ズビビーっと進んでいって」


「それ地図の端っこ越してますよ!」


「ですから、そのズズズイーっと先まで行くと」


 もう一枚地図を取り出す。

 そちらには、『アルフヘイム』と書かれている。


「アルフヘイムに到着するのですわ」


「へぇ。かなり遠いんですね」


「この車ですと、5日くらいでしょうか」


 それを聞くとなかなか離れた距離だと感じる。


「ちょっと待ってくれ」


 グスタフさんが声を出し、テッケンさんも頷いている。


「期間まで知っていると言うことは誰かに聞いたか……」


「一度行きましたわ」


「やっぱりな。他にも行った人はいるのか?」


「いいえ。1人だけですわ」


 ん? だけど何人か集まらないとって言ってなかったっけ?

 グスタフさんもそこらへんを聞きたいんじゃないかな。


「言いたいこともわかりますわ。だけどそもそもが間違っていますの」


「どういうこと?」


「行ったのではなく。『アルフヘイム』から来たのですわ。ポックル村を辿り、エルフ村へ行き、ドワーフ村に着いたのですわ」


 おぉ!? ここらの妖精族の村制覇してるじゃないか!

 驚いて何も言えないな。


「まさか来たとは思わなかったな。種族も違ったりするのかい?」


「ポックルは変わりません。なぜアルフヘイムだったかという部分は、私も謎部分ですわ」


「ふむ。ランダムスポーンかな?」


「それも考えましたが、投稿もできないので調べようもありませんわ。私としては、ハッチさんの機獣の方がシークレットレベルは高いと思いますけどね」


 ヤマトか?

 そういえば出してなかったな。

 馬車の中で卵が獣になっていくのを眺めていると、前より展開速度が早くなってる気がした。これも成長したってことかな?


「この機獣はどの村にも、アルフヘイムにも居ませんわ」


 そうなのか。相変わらず顔をぬぐう動作が可愛い。


「くぅ。ハッチさん良いなぁ」


 そう言うのはテッケンさん。前から欲しい欲しいって言ってたもんな。

 そう言えば、アルフヘイムには図書館あるんだっけ。


「テッケンさん。都市には図書館あるみたいですよ」


「そうだったな! 図書館で探してみよう。確か言語だったよね?」


「えぇ。機械言語ですよ」


 モウカさんが眉間にシワを寄せている。


「どうかしましたか?」


「今何言語と言いましたか?」


「えっと機械言語ですよ」


「やっぱり、私には言語の前が聞き取れませんわ」


 ん? どういうこと?


「あぁ。それはドワーフしか聞き取れてないですよ」


「え? 工房のポックルたちからは、言われたこと無いけど?」


「ハッチさんの話はよく禁止ワード入ってるから、みんな気にして無いだけですよ。結構すぐに情報開示されることが多いですからね。いちいち突っ込んでると作業できないって」


 そんな話聞いたこと無いぞ。だけど、結構放置されてることは多いかもしれない。

 何か聞かれる時も話がまとまってるから、簡単に答えるだけだしな。


「雑貨屋工房に限らず、ドワーフ村のプレイヤーたちって優しいからな」


 その一言は納得できる。


「そうですわね」


 前言撤回だ! 一部優しく無い場所もある!

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