第51話 見送りは大勢で、いざ出発! なんかおる

 村の入り口で迎えの馬車を待っているのだが……。


「いつ来るんですか?」

「どんなのかな」

「私は牛みたいのに乗ってきたぞ」


 などと、雑談を楽しむ集団に囲まれている。


「ハッチさんのところも大所帯ですね」


 声を発したのはグスタフさん。

 彼も武器工房の弟子たちを引き連れてやってきた。


「グスタフさんの所もいっぱい来ちゃいましたか」


「私も不思議だったんですけど、他のドワーフ村からも、まだ行った人はいないらしいんですよ」


 そうだったのかぁ。

 確認されているだけでも、ドワーフ村5まであるらしいけど、俺たちが最初の旅立ちとはねぇ。

 一番最初って何かと名誉に扱われるけど、ある種の生贄いけにえだと思うんだ。


「やぁ。なんかすごいね」


「テッケンさん! 興味津々で着いてきちゃったみたい」


 皮加工の弟子はテッケンさんオンリーだから、他に来る人もいない。つい先日まで弟子が一人もいなかったのは不思議だった。

 テッケンさんの話だと、弟子になるには皮の現物を自分で取ってくる必要があるみたい。未成年ばかりのドワーフでは取りに行けないし、ポックルたちは皮加工したい人は、そもそも元の村で弟子になっている。

 なのでテッケンさんが第一号なのだ。意外と貴重な人物だけど、村への貢献も少ない段階なので、残ってるプレイヤーの痛手もほとんど無い。


 お祭り状態で配信を開始する人もいる始末。


「というわけでテロップがお送りします」


 配信する人はテロップさんかぶち猫さんが多い。

 時々一緒に配信しているのを横で見ているけど、よく舌が回るよね。

 それなりに稼いでいるみたいだから、おそらくプロなんだろう。コメント返しと行動を同時にやってる姿をみたら、劣化版を見せるのかと思って、自己配信もやる気が起きないんだ。


「では、ハッチさん。よろしくお願いしますね」


「いやー、俺の配信なんて面白く無いと思うけどなぁ?」


 なぜか苦笑される。


「かなり人気ありますよ。僕より視聴者多いんだから、気にせず出してくださいって」


「えぇ? そんな見てたかなぁ? まぁ、新天地だから街ブラでも面白いか」


「そうですよ! 街ブラ良いですね。みんなもどう?」


 テロップさんの画面に「いいね」「期待してる」などのコメントが大量に流れていた。


「ということで、ハッチさんには街ブラ配信をお願いします」


「まぁ、期待しないでね」


 ちょうど良いタイミングで馬車がやってきた。

 毛長牛2頭で引く、大型の……これって牛車になるのか?


「紹介状ある奴は乗り込んでくれー」


 おそらく御者だろうか? 牛車というか、箱で隠れて見えない位置から声がかかる。

 まぁ、乗り込めと言われているし言われた通りにするか。


「じゃあねー。先に行ってくるねー」


 いち早くテッケンさんが乗り込み、俺とグスタフさんもそれに続く。

 外観はデカイ木箱だったのに、中身は広く10人乗れそうなサイズ感。明らかに外と大きさは違うけど、そういうものだろうと理解しておく。

 なんか小型のバスみたい。牛バスだな。


「居心地は悪く無いね」


「時々戦闘ありますわよ」


「へぇー。街道は出ないと思ったんだけどな」


「たまに弱いのが出る程度ですわ」


 ふむふむ。ん?

 ちらりと横を見ると、ポックルが1人いる。


「うおっ!」

「なぜここに!?」

「……」


 思わず飛びのいてしまった。俺以外の2人も、同じような感じで驚いている。


「私がいてもおかしくないでしょう? 雑貨・武具・皮の弟子がいるのだから、木工の弟子が来るのも当然です」


 おっしゃる通りでございます。


「今回のイベントは、一定数アルフヘイムへ行く弟子が決まった時に始まりますの。私が最初の受注者で残り表示は3でしたわ」


 え? そんなのあったっけ?


「私の時は2人集まったらとなっていた。私の前にいたということか!?」


 グスタフさんにもあったのか。

 テッケンさんは……首を振っている。

 思い当たるのとしたら。


「テッケンさんと一緒に祠で受けたからかな?」


「全然違いますわ」


 全否定はひどく無いか?


「受注の決定は師匠が行いますわ。だから私たちの行動は関係ないのです。それよりも引っ越し荷物置いて、御者に声かけないと進みませんわよ?」


 そういうのは早く言ってくれ!


 3人揃って御者へ声かけに行く。

 牛バスの先頭に着くと、初めて見る種族が御者だった。


「私が今回の御者をするエルサールだ。よろしくね」


「あ、はい。よろしくお願いします」


「荷物は積めたかね?」


「「「はい」」」


「では、出発しよう」


 そう言われると、体が勝手に動いて牛バスに乗り込んだ。

 何らかのイベントだったのだろうか? 勝手に動くっていうのはあまり無いよな。


「まさかエルフだったとはね。初めて見たよ」


「テッケンさんもですか?」


「ポックル村でもいなかったなぁ」


「ほぉ。そういえばポックル村も行ってないのに、先に都市行くことになっちゃったな」


 俺ら3人が話している間、その内容に興味無いのか、ずっと窓から身を乗り出して前方を眺めるモウカさん。

 時折聞こえる「フォォォォ」という鳴き声は牛なのだろうか。そうだと思いたい。

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