第47話 竹竿作りの下準備

「まずはめるところからだよ」


 出だしからわからないぞ?


「先生。『ためる』がわかりません!」


「矯めるというのは、竹を伸ばす作業だ。竹を前に構えてお尻からのぞき込んでみて」


 アルデンさんに言われるがままやってみる。やってる形としては銃をのぞき込むみたいで、ちょっとカッコいい気がしてきた。そのアルデンさんは、俺の後ろに回って一緒に竹を支えてくれている。


「そのままそのまま。この竹はちょうど半分あたりで反ってるでしょ?」


「確かに」


「ここを真っ直ぐにするためには、熱して矯正きょうせいする必要があるわけだ」


 アルデンさんが端っこに移動したので、後に着いて行くと細長いがあった。


「鍛冶と比べると火力も弱いけど、それでも熱いから注意してね。火起こし慣れてるでしょ? 手伝ってくれる?」


 工房でもやっている動きを繰り返す。炭に火を起こしてふいごで風を送る。

 やり始めの時はこの「シュコーシュコー」と鳴る音が好きで、何度も繰り返していた。おかげで炉の温度が高くなってしまい、親方に殴られたっけ。




「もう良いよ」


 危ない。また上げすぎるところだった。


「見ての通り中抜けになっているよね? ここに竹を通してあぶるんだ」


 アルデンさんは、持っていった竹を炉に通して、抜き差しを始めた。いつになく真剣な表情をしている。


「火の加減と動かすスピードが重要だ。特に先端は焦げやすいからね。よし!」


 言葉通りだけではなく、回転も加えて全体を炙っている。取り出した時には、青かった竹が黄色く変色し始めている。それを布でこすって綺麗にするとツヤツヤと光だした。


「今のは油抜きって作業で、竹を長持ちさせるためにやるんだ。次にやるのが矯正だよ」


 今度の炉は下から熱が噴き出す形をしている。

 その手前にある切り株にアルデンさんが腰掛けると、曲がってる箇所を見せてくれた。


「僕の竹は、ここが10度くらい曲がっているね。これを曲げるのがこの


 フックのような形に削った木を片手に取ると、モウモウと熱気が出る炉に、竹を置いた。それをクルクル回転させたと思えば、すぐ外にしてしまう。


「太いところは長めに炙るけど、細いところはすぐ焦げてしまうんだ。熱が逃げないうちに矯め木で曲げると」


 熱した場所にフックをかけて、テコのようにクイックイッと曲げていく。それを何度か繰り返すと、竹の尻からのぞき込み、1度頷いた後に見せてくれた。


「これでさっきより真っ直ぐになったでしょ? これを先端までやっていくんだ」


 渡してもらった竹を持った時に、かなり熱気が残っていた。熱耐性が無かったらダメージを受けていたかもしれない。

 その竹をのぞくと先端側がちょこっと曲がっているだけで、節くれが少し出っ張っているだけだった。


「1回やっただけで、こんなに違うんですね」


「僕の使った竹は素直な子だったからね。ハッチ君のは個性があるから、矯める回数も増えるよ」


 確かに俺の竹の方がクネクネしているかもしれない。竹を取った時は意外と真っ直ぐだと思ってたけど、今比べてみるとかなり曲がっていることがわかる。


「ほらほら、やってみなよ」


 アルデンさんに押されて油抜きの炉の前に立たされる。見様見真似みようみまねで炉に通してみると、思ったより綺麗に出来た気がする。


「そこで拭くんだよ」


 そうだった。横にある布で擦ってみると、ツヤ感が出て来て綺麗になった。


「おぉ!」


「良い感じだね。でも、もうちょっとやった方が良いかな」


 炉の中で、竹を回転させながら前後させていると、パチっと弾ける感覚がした。取り出すと、先端が黒くなっている。


「あれ?」


「熱しすぎちゃったね」


 全然足りないと思っていたけど、先っぽは思っていた以上に短時間で良かったのか。新しい竹を取り出して再挑戦だ。



 今度の油抜きはうまくいった気がする。


「良いね。これで矯めようか」


 今度の竹は、失敗したのより曲がり箇所が少ない。噴き出しの炉で熱して、矯め木で曲げていく。


「思ったより力がいらないかも」


「テコでやるからね。だけど、その分加減が」


 ピキピキっと音がする。


「残念。割れちゃったね」


 くそぉ! 調子良いと思ったんだけどなぁ。

『力』を外して再挑戦だ!


 3本目、4本目も失敗し、5本目になってようやく出来上がった。

 黄色くツヤツヤした竹を見てると、自然と口角が上がってくる。


「よっし!」


「お疲れ様。これが竹のだよ」


 そうか……。

 まだ作成に入ってなかったんだっけ。

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