第40話 ポンコツ竿

 竹林から戻った翌日。


 ついにこの時がやってきた。

 収納カバンから竹を取り出して眺める。


 綺麗な緑の竹。

【竹】

 竹か……。

 何の竹だ?


「もう作ってるか?」


「オトシンさん! ちょうど作ろうかと思ったんですけど……見てください」


「竹か」


「そうです。竹なんです」


「どか問題あるか?」


「いや、だから【竹】なんですって!」


 このままだと無駄な話が長くなりそうなので、詳しく説明する。

 表記が【竹】しかなく、何の竹かわからない。作成するだけなら問題ないが、種類を特定したほうが、後々作成するときにレシピを残しやすいんだ。

 道具の柄を作る時も、どの木にするか選んでいる。まぁ、技術が低いから杉一択なんだけどね。


「俺も竹は詳しくないけど、孟宗竹もうそうちくとか麻竹まちくってありますよね?」


 これは俺がメンマが好きで調べたので覚えている。


「聞いたことはあるな」


「その竹ごとに特徴があると思うので、それを知りたいわけです」


「面倒臭いこと考えるなぁ。そのまま作っちゃダメなのか?」


 別に作っても良いけど……。

 いや、一度作ってからアルデンさんに見てもらった方が良いか。


「そうですね。一度作りましょうか」


 俺の身長だと短いから、オトシンさんに合わせるか。

 オトシンさんの身長と同じ長さに切り落として、その部分を研磨する。

 形はそれっぽくなったけど、表記も【竹】のままだ。これからどうするか。


「ガイド(輪っか)を付けないのか?」


「それも悩みどころですね。オトシンさんは、ガイドが必要なほど長い糸を作れますか?」


「作れないな……」


「まずはそこなんですけど、糸があったとして、竹竿なら竿の中を通すやり方もあったと思うんです」


「中通し竿だな」


 針が作れるようになれば輪っかも出来るけど、今は作れる技術がない。

 中通しは、確か重くなるんだっけ。

 使ったことは無いんだよね。

 そこで気づいたのが、どうやって穴を開けるか。節部分に穴を開ける必要があるけど、そんなに長い穴あけ機は持ってない。


「どっちも、今は出来ませんね。とりあえず先端に糸を付けてみましょう」


 オトシンさんが作ったタコ糸を結びつけると、表記が変わった。

【ポンコツ竹竿−−】


「これで何が釣れるんだ?」


「ハッチ。もう一本作って試しに行こう」


「そうですね。まだ竹はありますし」


 ポンコツ竹竿をもう一本作って、村の中心を流れる小川へ行く。

 そこには小魚がチョロチョロ動く影が見える。それを眺めつつ、2人で川辺を陣取り、骨針に餌をつける。


「アタシがバッタな」


「俺はパンですね」


 投げる程の距離も無く、ただ垂らしている表現のほうが合っているか。

 それでも、久しぶりの釣りが楽しい。

 水面を眺めつつ釣りをしていると会話が弾む。


「オトシンさんは、最近どこかに釣り行きました?」


「いんや。仕事と『ネテラ』ばっかりだな」


「俺も似たようなもんですね」


「そういえば、ウチの会社が『ネテラ』の許可降りたって言ってたぞ」


 まさか!

 思わず立ってしまった。


「オトシンさんの会社って、確か釣具の『TOUNO』でしたよね!」


「そうだな。ついでに『SHOUWA』も許可降りたらしいぞ」


「まさかそっちまで進出してくるとは……。釣竿作ってくれるんじゃ?」


「確かに作成部門は作られるけど、技術はアタシ達の方が相当先にいるぞ」


 企業進出でもゼロスタートなのかよ!

 やっぱり自分で作るしか無いのか。


「おそらくだけど、日本地区で最初の竿がこいつだ」


 くそぉ。

 これが最先端なのか!

 このポンコツが!

 ポンコツ……。


「オトシンさんの竿。揺れてませんか?」


「え? 本当だ! 結構引くぞ!」


「釣れるぞ! 慎重に慎重に!」


「わかって……あぁ!」


 ふっ。と糸がたるみ、かかった獲物が逃げたとわかってしまった。


「お前がうるせえからだ!」


「いやいや! 今のは関係ないでしょ!」


「そんなことは……。お前のも揺れてないか?」


「え?」


 穂先がピクピクと小刻みに揺れている。

 来た!


「おおおおおおちちついて」


「落ち着け! ゆーっくりだ」


「そうですね。ふぅ」


 ふっ。


「ああああああ」


「残念だったな!」


 次こそは釣ってやる。

 小川で騒ぐ者達2人。

 横を通りかかる者達が、目を逸らすようにしている気がする。

 それから3時間粘り続け、ようやく俺たちは成果を手に入れた!


「やりましたね。オトシンさん!」


「どんなもんよ! 今度はハッチだな」


 さらに2時間粘り、次の成果を上げることができた。


「やったじゃねーか!」


「ふふふ。これでお互いイーブンですね。っと、そろそろ戻りましょうか」


 空が暗くなり始めたので、すぐに戻らないとリリーさんのご飯に間に合わなくなる。

 雑貨屋に駆け込むように入ると、ぶち猫さんが納品したところに出会した。


「2人で木工やってたんですか?」


「いいや! 釣りに行ったんだ!」


 ポンコツ竿を見せながら自慢する。

 オトシンさんも自慢げに腕組み。


「おぉ! とうとう釣竿が! それで、何か釣れました?」


「もちろんさぁ! 見てくれ!」


 俺とオトシンさんの釣果を取り出す。


「えっと。それだけ?」


「ぶち! よく見ろよ! すごいだろ?」


「え? ただのザリガニが1匹ずつ?」


 俺たちの釣果がただの……だと?


「あぁ。ごめんなさい! 悪く言うつもりじゃなかったんです。魚ですら……あ」


「今。魚ですらって言ったよね? 言ったよね?」


「いいえ? 聞き間違えでは?」


 我ら2人の敗北か。

 そこでオトシンさんが立ち上がった。


「ぶち! 今回は魚が考える時間を与えてくれたんだ!」


 ぶち猫さんは首を傾げるばかり。

 オトシンさん。素直に負けを認めよう。

 そして、木工工房へ向かうのだ。

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