第39話 釣具を作るために4

 昨日は大変だったな。

 村長のところへ行けばすぐに許可貰えると思ったんだが、村中の有力者に許可をもらいに行くことになった。

 許可は4つで良かったが、タイミング悪く店が閉まり始める時間になってしまった。


「これで良いじゃろう。これが認可証じゃ」


「やっと貰えた」


「無くすでないぞ」


「おう!」


 ホクホク顔のオトシンさんを連れて広場に向かうと、昨日のメンバーが集合した。


「まさか、日を跨いぐとは思わなかったです」


「クエスト受けた俺が説明すれば良かったなぁ」


 テッケンさんは同じクエをやったので、内容を知っていたみたいだが、単に時間が悪かっただけだよ。


「アタシは気にして無いよ。村に戻った時、もう日は陰り始めていたから、仕方ないと思ってる」


「もう済んだことだよ。それより、竹林行こう」


『ヤマト』を起動しつつ、みんなに声をかける。

 スコップよし! 忘れ物は無し!




 守衛さんが、昨日と同じように出迎えてくれる。


「貰って来たか?」


「これです」


 オトシンさんが認可証を出すと、手をかざして魔力を出す。

 何かわかったのか、一度頷くと石碑に名前を刻んだ。


「次からは、オレに言わなくても入れるぜ」


 同じフレーズを聞くと一安心。


「じゃあ、出発だ!」




 オトシンさんには、道中に敵の特徴を伝えてある。特に厄介なモグラは念入りに。それでも、あまり気にしてないようだったので、なんでか尋ねてみた。


「へへ。『クルス』がそういうの得意なんだよ。まぁ出て来てからのお楽しみだな」


 そう言っていたが、レアモンスターなのですぐには出てこない。

 数時間作業しているが、この日は子イノシシばかりで、モグラは全然出現しなかった。


 だから気の緩みもあったんだろうね。ちょっと集団から離れて、タケノコを掘っていたら、急に後ろ髪を引っ張られた。

 気づくと真っ暗で土の香りが充満している。

 手足をバタつかせて抜け出そうとするけど、効果無し。

 ここで初めて知ったんだけど、酸素ゲージというのが表示されて、そいつがどんどん減っていく。

 時折聞こえてくる「ジッジッジ」という鳴き声が、余計焦らせてくる。


 酸素の残りが半分を切ったところで、足を引っ張られる感覚と、周りからのザクザク掘る音が聞こえて来た。


 ヤバい! そろそろ酸素無くなる!


「ぶっは!」


「間に合ったか!?」


「死ぬかと思った……」


「モグラ野郎がやっと出て来たな。出番だクルス!」


 体はちっこいのに、勇敢に立ち向かう姿は凛々しいな。

 それと同時に、オトシンさんとテッケンさんも攻撃に参加する。

 ヤマトは……。お前は小さすぎて何も出来ないか。


「ハッチさんのヤマトが呼びにきたんだよ」


「ヤマトが? やるじゃないか!」


「ハッチさん。私たちも参加しましょう!」


 グスタフさんもやる気に満ちているな。俺も負けていられない。

 なんて思っていたんだが、すでに決着はついていた。


「さすがはクルスだ!」


 オトシンの前で尻尾を追いかけてたかと思えば、ピタっと止まるとドヤ顔でひと吠え。

 お前! なんという可愛さなんだ。


「ヤマトもそういうことは……」


 顔を洗う待機モーションだけでも満足。

 機獣とリトルウルフを眺めるテッケンさんは、ちょっと悔しそうな顔をしている。


「はやく機械言語を探さないと……」


 その気持ちはわかる。

 グスタフさんの方を見ると、こちらには興味無く、すでにモグラを解体していた。


「やはりモグラの爪は鉱石判定か? これは持って帰って調べないと」


 ん? それは聞き捨てならないぞ。


「どうしてそう思ったんですか?」


「今日は、鉱物探知をセットしてきたんですよ。採掘場所があるかと思ったんですが、予想外なところで反応しました」


 俺はセットしてないからわからないな。

 前回取った分と合わせると、爪3本分くらいにはなる。

 帰ったら親方に聞いてみようか。


 その後、もう一度モグラは現れたけど、同じようにハグれた人が被害にあっていた。笑い方も馬鹿にしているし、1人の時を狙ってくるずる賢い奴。

 またもクルスが大活躍していた。その戦いをしっかり見ていると、モグラが出てくる場所を凝視していたり、飛び出すタイミングで噛み付いたりしている。オトシンさんの話だと、気配察知と嗅覚で獲物位置がすぐわかるみたい。可愛いだけじゃなく有能とは、侮れない奴だ。


「オトシンさんもそろそろ良い?」


「あぁ。これだけあれば、しばらく制作に打ち込めるだろ」


「それなら、そろそろ戻りましょうか」


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