第38話 ドワーフ村で

 あの場所を見ても、中に入る気力があるとは…。

 オトシンさん侮りがたし!

 結果として、彼女は木工工房で欲しい物を頼むことに成功した。

 彼女のバイタリティには頭が下がるよ。


 戻って宿を探したが、全部埋まって居た。

 仕方なく、広場で野営セットを展開。

 まさか初使用が広場になるとは思わなかったな。

 数人あぶれた者達が居たので、そいつらは俺とオトシンさんのテントに詰め込む。


 それまでが昨日のこと。


「野営セット使えるな」


 片付けが少し手間だけど、持ってると、安心感があるね。

 オトシンのテントは畳んであるから、もう雑貨屋行ったかな?


 雑貨屋へ行くと、外で成人組2人とオトシンが話している。


「おはよー。集まってどうしたの?」


「よぅ。昨日の流通の話をしてたんだよ」


「オトシンさんが言ってたやつね」


 グスタフさんやテッケンさんも、流通については気づいてなかったみたい。

 出来ても、そちらにまわす余裕も無かったからね。知ってても最近まではやってなかったと思う。


「ハッチさん。オトシンさんも竹林誘いましょう」


「ん? 別に良いですけど、どうして?」


「彼女。戦闘スキル高いですよ」


 そうなのか?


「オトシンさんの戦闘スキルって、いくつあります?」


「アタシは、槍が14で蹴りが16だな」


「ぶっは! 俺の何倍だ!?」


 確かグスタフさんの槍が、やっと10になったんだっけ?

 テッケンさんの剣が13でしょ。

 蹴り16って、どうやって上げたんだ?


「ここに来る途中ヒマでさ。乗ってた牛を足で小突いていたら、上がっちゃったんだよね」


「マジかよぉ! そんなので上がるなら……」


「あぁ。すまんが、もう出来ないと思う」


 さすがオトシンさん。すでに運営に報告済みで、対策されているらしい。発見者で誤差範囲ということもあったので、成長分は見逃し対象になっていた。


「報告してなかったら、アタシのアカウントが無くなってたよ。ははは」


 それはありえるからな。

 残念だけど仕方ない。


「それで、オトシンさんも来ます?」


「面白そうだから行くよ」


「それなら……」


 斧とスコップを渡さないとね。


「さんきゅ。じゃあ行こうか」


 彼女が口笛を吹くと、『クルス』が走ってくる。

 可愛いなぁ。

 俺とテッケンさんが触ろうとすると、スルリと躱し、オトシンの隣に落ち着いた。


「ダメか……。ヤマトに慰めてもらおう」


「ん? ヤマトってなんだ?」


 カバンから機獣の卵を取り出し、魔力を流す。

 毎度ながら、この変形の音が気持ちいい。


「それを見ると俺も機械言語取りたくなってくるよ」


「テッケンさんは、先に魔力覚えないとですよ」


「そっちはあと少しなんだよね。皮の加工もあるからなぁ」


 生産に手を出すと、やることいっぱいになるよね。

 まぁ、釣り用品が出来たら、そっちの配分を増やして行くけどさ。


「お、おい。……そいつは何だ?」


「オトシンさんは初めてだっけ。こいつ、機獣の『ヤマト』って言うんだ」


 オトシンさんが触ろうとすると、今度はヤマトが避ける。


「俺たちは大丈夫なんだけどな?」


「アタシはダメなのか……」


 そこでグスタフさんが話出す。


「考えてたんですけど、ドワーフは動物にマイナス補正ですよね?」


「そうですね」


「その代わりに、機械にプラス補正が付いたのかと思います。動物にプラスの種族は逆なのかもしれないです」


「なるほど。テイムの代わりにこいつが用意されたのかな?」


 他の種族でも、こういう代替の要素があるかもしれないな。

 まとめサイトとか作れないから、口コミか個人サイトを探すしか無いんだよな。

 それを探すのが面倒なんだけどね。


 話も長くなってしまったが、短時間でも竹林に行ってみようとなる。

 道中のネズミを、オトシンさんに倒してもらうと、蹴り一撃で終わった。

 小手調にもならないね。




 竹林に到着すると、守衛さんが待ち構えていた。


「初めてのもんがいるな。お前の名前はぁ?」


「オトシンだ」


 守衛さんの手から、薄いモヤがオトシンさんに振りかかっている。当のオトシンさんは、守衛の手を不思議そうに見ているだけ。モヤは見えてないのか?


「リリーの弟子か。入っていいと言いたいが、こいつを持って村長のところへ行きな」


「え? 入れないの?」


 オトシンさんが、困惑しながらも巻物を受け取っている。

 しまった。許可貰うの忘れてたよ。

 テッケンさんも俺と同じような顔をしている。


「どっちにしろ来ないとダメでしたよ」


「グスタフさんわかってたの?」


「そうではないかと。絶対では無かったので言いづらかったのです。それに、来なかったらクエスト出なかったと思いますよ」


 確かにそうだけど、一言あっても良かったと思う。

 グスタフさんらしいっちゃ、らしいんだけどね。


「オトシンさん。一度村長のところに行こう。どっちにしろ、ドワーフ村の許可貰わないと、色々行けない場所多いし」


「ドワーフ村はそんな風になってるのか…。街とは違うんだな」


 そのまま、ドワーフ村へUターン。

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