第36話 洞窟キノコとフィーバータイム

 相変わらず鉱山の2層は敵が多い。

 ネズミばっかりで代わり映えも無いが、2体に増えただけで倒しづらくなる。

 それにも慣れてきて、ノーダメで対処出来るようになってきた。


「最近覚えた回避スキル使えるぅ!」


 プレイヤースキル? ノンノン。

 そんなものは釣りに全振りしているよ。

 回避を覚えたら即効セット。

 次の竹林遠征の為に上げてる最中。


「あれ以来、謎鉱石は出ないし、他の魔物も出てこない。ムカデもレアだけど、もう一匹は超レアなのか?」


 ボヤきつつ掘ってると、そろそろ場所変えが必要になったか。探知の光が弱まってくると、石しか掘れなくなる。

 石も必要なら良いけど、だいたい余るからな。ツルハシを担いで新しい採掘場所へ向かうと、見たことない物がぴょこんと生えている。

 茶色い見た目が、背景と同化していて見づらいが、明らかなキノコ。

 ツルハシで突いても反応無く、もぎ取ってみた。


「おぉ? 新しい素材発見か?」


 すると、以前にもあったような音を聞き取った。

 だけど、前よりもハッキリとした足音でカサカサ鳴っている。


 黒い見た目でゾクリとしたが、スマートな形で一安心。

 と言っても50cm程はあるアリのお出まし。


「よし。今回は倒してやるぞ!」


 絡繰スリングを直撃させると、足が止まる。そこに鉈を振り下ろすと、足を一本落とすことに成功した。

 意外と楽に倒せそうだな。今度は反対をと。

 あれ? 逃げ出すのか?


 後ろ向きになって、逃げようとしている。

 スリングを構えて打とうとすると、お尻から飛沫が吹き出してくる。


「うおぉ! あぶねぇ」


 ジュウジュウ音を立てながら地面から煙が吹き出し、見ただけで危険とわかる。


「あ、待て!」


 すぐさま発射したが、パシュン!と乾いた音がするだけ。

 あちゃあ。当たらなかったかぁ。

 さっきのは蟻酸ぎさんってやつかな? 何とか戦えたけど、初遭遇は厳しいな。

 まんまと逃げられてしまったが、キノコは死守出来た。

 こいつは持って帰ってリリーさんに渡すか。

 上手くいけば料理になって戻ってくるかも。




 その後はキノコも見つからず、ネズミと鉄の繰り返しだった。


「うっし! そろそろ帰ろう」


 それなりに掘れたから、クエスト品作った後でも、スコップチャンスは何回かあるだろ。

 鉱山からの帰り道。行き交う人たちも増えて賑やかになっている。

 ポックル族の比率が高くなってきて、そろそろハーフドワーフを超えそうかな。そういえば、ポックル達はどこからやってきたのかな。

 雑貨屋のポックルがいるな。聞いてみよう。


「ハッチさんは知らなかったんですね。真っ直ぐ行けば、ここから2日以内に到着しますよ」


 まさかの近距離だった。

 よくよく聞いてみると、テッケンさんは何度か行っているみたいで、彼から村の場所を聞いてきた者が多いらしい。

 初めて知ったんだけど、マップ共有というのがあって、教えてもらったらポックル村の場所に◆のマークが付いた。

 白地図で、詳細もわからないけど、そこにあるってことだけはわかる。


「みんなこんな点を目印にやってきたの? 山も谷も道もわからないのに?」


「ちっちっち。ハッチさん。そんなものじゃ、僕らの生産熱は消せませんよ」


 こいつが何を言ってるのかわからん。

 とにかくやる気だけでやって来たってことだろうか?

 そうこうしていると、雑貨屋に到着。


 リリーさんにキノコをプレゼントすると、とても喜んでいた。

 すぐさま親方を呼び、親方にもキノコを見せる。


「これは、……やるじゃねーか!」


 おぉ? 珍しく親方が褒めている。

 機嫌が良くなった2人が、全員にご祝儀として1000ゴールド渡す。

 その直後、謎の生産バフが掛かり、詳細欄を確認する。

 2時間だけ成功率2倍。


「うぉぉぉぉ! 今生産しないでいつやるんだ!」


「さすがハッチさん!」「いやっふぅ!」「やっぱり兄弟子やるねー!」


 そこかしこで金属の音が鳴り響き、離れた場所からも奇声が飛んできた。


「抜い速度を上げろー!」「ぬおぉぉ!」「カタカタカタカタカタ」

 最後のは、たぶん機織りだと思う。


「ハッチさん手が止まってますよー!」


「しまった! ぬぉぉぉぉ!」




 俺の周りには、燃え尽きた奴らが所狭しと転がっていた。

 跨ぐように裁縫部屋へ向かうと、こちらも同じように白い奴らばかり。


「あれ? 親方こっちにいたんですか」


「おう。お前のおかげで、予定を繰り上げられた。それじゃあ、ちょっくら行ってくるわ」


「はぁ、いってらっしゃい。ん?」


「明日には戻るわ」


 次の瞬間。強制ブラックアウトし、気づくと雑貨屋の前に弟子達が山積み。

 村の入り口方面に、親方とリリーさんの後ろ姿。


「もしかして、今日は宿無し?」


「「「ハッチさん!」」」


 これは不可抗力だよ。

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