第35話 オトシン襲来

 窓の外を眺めると、朝日が昇り始めている。

 この家からも『寝テラ』の広告が表示され続け、正直そろそろ別のに変えても良いんじゃ無いかと、そんな風に思い始めていた。


 朝の作業を終え、いざログイン!


 屋根裏から降りてくると、弟子の1人と遭遇。


「ハッチさん! ニュース見ました?」


「いや、今日は見てないけど?」


「ちょっとこっちに!」


 腕を引かれて、雑貨屋前に行くと、裁縫と鍛冶の弟子達でごった返していた。


「この集まりはどうしたの?」


「ちょうど良いところに!」


 ぶち猫さんに手招きされて近づくと、ホログラフにニュースが表示されていた。


 _______________


「その企業参入で何か変わったりするのですか?」


「内容の変化はありませんが、イベントの開催や専用アイテムが出来るかもしれません」


「活性化されるのは良いことですが、基準は厳しそうですね」


「その点は仕方ないと思っていただきたいです。各国調整のもと娯楽系が先に認可されるでしょう」

 _______________



「ハッチさんが来る前もやってたんですけど、新しく企業クエストが導入されると言ってました」


「全然わからないんだけど、……どういうこと?」


「参入する企業が、独自に作ったクエストを私たちが受けられるんです。詳細はわかりませんが、個別に依頼することもあるようです。配信で人気のある人とかは、特に選ばれやすいと思っています」


 それなら俺はあまり関係無いな。

 そんなことより、新しいスコップをなんとかしないと……。


「えええ。反応悪いなぁ」


「やることいっぱいあるんだよー。スコップ直したり、スコップ作ったり、スコップで掘ったり」


「スコップだけじゃないですか!?」


 今、俺の頭はスコップしか無い。いや、10%くらいは釣りか。

 そそくさと工房へ向かい、1人で鍛冶を始める。


 スコップ2本の修理は問題なし。材料も少なめで短時間で終わった。

 問題は作成だ。

 材料は1回分だけで、少し心許こころもとない。


「恵比寿さま頼みます! 火精もよろしく!」


 炉の奥で赤い小人が敬礼している。よし。

 トンテントンテン叩きつつ調整していくが、途中でランクダウンするのがわかってしまった。スキルレベルが上がると、物によっては、途中でも完成度がわかる。

 今回のは駄作。

【鉄のスコップ−−】


「くぅぅぅ! やっちまった! ……掘りに行くかぁ」


 すれ違う弟弟子達には、全員から声を掛けられ、大体同じ言葉。


「ハッチさんダメでした? これからドワ活ですか?」


 同じ生産をやってるから出る言葉。少しでも挑戦するアイテムは、8割失敗する前提。


「ドワ活行ってきまー」


「待て!」


「へ?」


 親方に止められてしまった。


「お前、今日何の日か忘れてねーか?」


 はて、何かあっただろうか?


「今日はワタシの弟子が来るんでしょ?」


「リリーさんの……? あぁ! オトシンが来るのか」


 ログを確認すると、あと10分程で到着になっている。


「しまった。ドワ活は後にします」


 村の入り口で到着を待っていると、大きな人が見えてきた。顔にペイントしてあって凛々しく、髪はサイドアップ。ボロい皮鎧を着込み、木の槍を構えている。思わず言葉が溢れてしまった。


「あんた。どこのアマゾネスだよ」


 遠くにいて良かった。あの人こういうの言うと怒るからな。

 近づいてくると、声が届くようになる。


「オトシンさーん!」


「ハッチか!? アマゾネスじゃねーぞ!」


 聞こえてたのか!?


「嫌だな。冗談ですよー」


「まぁ、招待してもらったからな。今回は不問にしてやる。それより案内してくれ」


「はい。こっちですよー」


 到着まで、道中の話を聞くと、乗り物とペットのことを聞けた。彼女が乗っていた毛の長い牛は、移動用の動物らしく、俺の招待を許可した瞬間現れたらしい。

 今隣にいる小さな狼は、人族の中で人気の従魔で、リトルウルフ(メス)の『クルス』ちゃん。

 かわいいなと思って撫でようとしたら逃げられた。


「ははは! 結構触らせてくれるんだけど、珍しいな」


 俺には『ヤマト』がいるから良いもんね……。




「おぉ! ここがそうか! 配信で見てたけど、実物だと小ぢんまりとしているな」


「そっか……。ドワーフサイズだから若干低めなのかな」


 ポックルとドワーフ系しかいなかったから、気づかなかったな。だとすると、アイテムの大きさも、人間サイズに調整したほうが良いのか?


「たのもー!」


「あらあら。元気な子が来たわね」


「リリーさんですか!? 弟子になりたくて来ました!」


 オトシンさんは、リリーさんと弟子達に快く受け入れられ、早速中に入って行った。


「さて、俺の役目もこれまでで、ドワ活にでも……」


「待て!」


 まさかの2度目。何かやることあったかな?


「お前の招待なんだ。最低限のアイテム作ってやれ」


《招待クエスト:鉄のナイフ・鉄のハサミ・鉄の目打ちを作成しろ が開始されました》


「こんなに!」


「報酬はこれだ……」

 ピラリ。


「そ、それは。オリジナルレシピ(針)! やらせてください!」


 オトシンさんありがとー!

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