第33話 釣具を作るために2

 魔窟もっこうじょでの圧力に耐えつつ、昨日中に骨針を作り上げた。

 おかげで、骨針のレシピが登録され、作るだけなら魔窟へ行く必要が無くなったことが嬉しい。


 本日は竹を取りに行く日だ。


「鉈よーし! 斧よーし! あとは…」


「スコップ忘れてんぞ」


「そうだった。スコップスコップ」


 普段使わないから、屋根裏にしまいっぱなしになっている。


「んじゃ。頼んだタケノコ頼むぜ?」


「もちろんですよ。リリーさんの料理が報酬なんですから!」


 普段の料理と違って、報酬でもらえる料理は腹持ちが良い。料理持ちのプレイヤーに貰ったこともあるが、満腹度の回復量と保存期間が半端ないんだ。

【リリーのお手製保存食(30日)】

【オリジナル保存食(10日)】

 後の方がプレイヤーメイドで、村で一番上手く作れる人のやつね。

 プレイヤーメイドは、食べると半日持つが、リリーさんの保存食は3日間食わなくても大丈夫になる。

 今回の報酬は、タケノコ5個で保存食5個になる。


「良いな…。私にも1つ」


「ぶち猫さん。残念ながらそれは無理だ」


「そうですよね…」


 この保存食の行き先は、すでに決まっている。2個テッケンさん、1個グスタフさんに渡し、2個が俺の取り分。

 グスタフさんは、グレンディル親方の妻であるマリーさんから、同じような依頼を受けている。報酬は同じ保存食で、1個交換する約束をしている。

 テッケンさんに合計4個と多くしているのも理由があって、どこの弟子にもなっていない為、毎日宿代と食費が掛かっている。その割に、村外の情報も多く貰ってるので、色々と便宜を図っているんだ。


「ぶち猫さんも、テロップさんと交換したら良いんじゃない?」


「あの人はダメですよ。食べ物系は全部実況行きだから、むしろ頂戴とせびりに来る始末です」


 そこまで関わってなかったけど、実況続けるのも大変なのかもしれないな。主にネタ集めが。

 ダメ元で、グスタフさんと2個交換の交渉してみよう。


 雑貨屋を出ると同時に、機獣を起動する。

 何度聞いても気持ちいい音だ。

 カシャコンカシャコン鳴らしながら、卵からネズミになる姿を眺めていると、それだけで一日が潰れるような気がする。

 メタリックなボディだが、動きは滑らかで、待機モーションだと時々顔を洗うしぐさをする。

 最近のマイブームは手のひらに乗せて、それを眺めること。そうしていると、たまに土精霊が空いた手に乗ってネズミと遊び出すこともある。


「まずい! 時間に遅れてしまう。『ヤマト』肩に乗って!」


 ネズミの名前は、同じエビ仲間の『ヤマト』にした。日本っぽくて良いだろ?


「ハッチさん遅いですよ!」


「まぁまぁ、グスタフさんも楽しみなのはわかりますけど、時間はたっぷりありますから」


「むむ。テッケンさんがそう言うなら仕方ありませんね。ところでそのネズミが?」


 肩の機獣が気になっているようだ。


「そうそう。これが前に話してた機獣ですよ。かわいいでしょ?」


 2人がしげしげと観察してると、例のモーションになった。


「おぉ! リアルな動きするんですね!」


「確か機械言語でしたっけ? 一応探したけど、見つかってないんですよね」


 テッケンさんが色々探してるみたいだけど、そもそも本を置いてる場所はほとんどない。村長の家か、神官様の祠くらい。店にある本はレシピとかそのくらいだけだ。

 地下帝国に行けばあるはずだけど、グスタフさんの予想だと、その前に覚えられると見ている。人族の街か、また別のところか。どちらにしろ、この村を出れるだけ成長しないと無理だな。


 そんな話をしながら、鉱山の奥を目指すと、目的地が見えてきた。


「あそこがそうだったんですね」


「前来た時は、わからなかったなぁ」


 遠目から見ても竹林だとわかるが、ここもフラグが立たないと見えない場所だったということか。そう考えると、1つ1つフラグ建てないと進めない、面倒な地域なんじゃないか?

 他の種族もこんなに面倒なのかな?


 竹林に近づくと、なぜか監督がいる。


「なんだぁ? オメーらここに用事か?」


「えぇ。監督もここに用事ですか?」


「カントクゥ? あぁ、兄貴のことか! オレァ弟の方だよ」


 すごい似てるというか、ほぼ瓜二つ。テッケンさんもグスタフさんも俺と同じ反応で、見分けがつかなかった。


「んで、ここに竹取りにってことか。良いぜ入んな」


「ありがとうございます。えっと」


「守衛で良い」


「はい。守衛さん」


 守衛さんが、近くの岩に手を当てて魔力を流すと、奥の石碑に俺たちの名前が刻まれた。


「次からは、オレに言わなくても入れるぜ」

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