ボロ竿だろうが釣竿に変わりなし

第32話 釣具を作るために1

 人間という生き物は、どうすれば良いかわからないと、ずっと同じところをグルグル回っている物だ。それがどうだ。一つ目的とやることが決まれば、スンスンと動けてしまうこともある。


「だけど、骨の加工でちゃんと釣り針になるんだろうか……」


「自問するのも良いけど、アルデンさんに迷惑かけないでよね」


「あ、はい」


 木工工房まくつの中で考え事とは……危なかったな。

 彼女達の前で迂闊なことを言えば、全国各地に敵を作ることになる。

 ちょくちょくアルデン配信なるものをしていて、アルデンさんの人気はうなぎ登り中。一応初代としてお目溢めこぼしいただいているが、不適切な発言1つで、ユダのごとく裏切り者にされてしまうだろう。

 そんなことよりも、釣り針と釣竿だ。


「中々良く出来てるね。最近練習減ってたけど、これなら問題ないかな」


「アルデンしゃまぁぁぁ!」「ひゃあああああ!」「ほわわわわ」「まぶしぃ」


 あぶね!

 削ってる最中に揺らさないで欲しい。

 体力ポーションも馬鹿にならない値段なんだぞ?


「えっと。木工の進捗はどうかな?」


「はい! 修練の方はもう少しで出来るかと思います。ただ……」


「何か問題でもあるの?」


「釣竿の方がスキル足りるかなと思って」


 すると、アルデンさんが奥から何種類か棒を持ってきた。


「釣竿も色々種類があると思うけど、木材から作る物と竹で作る物。あとはこれ。」


 木材と竹は見たまんまだが、最後のは黒く光っていて素材がわからない。

 周りのファンも不思議そうに眺めている。


「最後のって何で出来てるんですか?」


「ふふふ。これは、ドワーフならそのうち作れるんじゃない?」


「ドワーフなら? ……やる気が出てきた」


「ちなみにこれは、鍛冶でも木工でも無いよ」


 ナゾナゾだろうか? とりあえず、木材だけじゃないということが、わかっただけでも大きい。


「竹は良いな! 余計な加工しなくても使えるし」


「竹だったら、君のスキルでも使えそうだね。鉱山の先にあるけど、1人だと危ないから、仲間と行ってきたら良い」


「アルデンしゃま優しい」「かっこいい!」「うつくしい!」「とろけりゅー」


 1つの会話ごとにこれが入るから、気が散って話が進みづらい。

 とか思ってたら、頭がグリンと半回転して、2つの眼光がこちらに刺さる。


「アルデンさん優しいなぁ! ははは!」


「ですよねぇー。さいこう!」


 こっわ!

 次から心を閉ざす訓練も必要か。




 仲間と一緒にか。

 そうは言っても、このドワーフ村1に、村の外出歩ける奴は限られている。

 初めての場所だから、出来れば3人で行きたいな。


「おう。雑貨屋の小僧か、珍しいな」


「どうも。グスタフいませんか?」


「あいつならホラ」


 グレンディルさんが、俺の後ろを指すと、ツルハシを持ったグスタフさんがいた。


「ハッチさんですか? 何か用でも?」


「一緒に竹を取りに行かないかと誘いにね」


「竹? そんなものがあったのですか!?」


「鉱山の向こうにあるって、木工工房で聞いたんだ」


 それを言うと、膝から崩れ落ちて悔しそうに地面を叩いている。


「まさか、まさか。木工工房がフラグだったとは……」


「そんなに竹を探してたんですか?」


「当然じゃ無いか! 竹ですよ竹! バンブス!」


「はぁ。まぁ、俺も釣竿に使いたいので、欲しいっちゃ欲しいです」


 返答がよろしくなかったのか、呆れたという顔でこちらを見てくる。


「ハッチさんはヤーポンですよね?」


「ヤーポン? あぁ、日本ね。そうですよ」


「ヤーポンとバンブスは切っても切れない関係です! バンブスシュピーアは、良き発想です!」


「竹槍のことですね。昔から竹は身近にあったと聞いています」


 ここで俺たちの会話を聞いてた弟弟子達がやってきた。


「話は聞きましたぞ!」「竹槍の意思は我らにお任せを!」「竹槍だけでなく、竹で飛行機から戦艦まで! この世界で実現を!」


「ヤーポンの魂はここに引き継がれた! 同志達よ!」


 ヒシと抱き合うハーフドワーフ達4人。


「グレンディルさんのところって、いつもこうなんですか?」


「……未成年ども! まだ剣の納品出来てないぞ!」


 まさかのスルー!?

 あれー? AI的には返答してくれる内容だと思うんだけどな?

 めっちゃ目線泳いでるし!


「ところでハッチさん」


「うお!? はい!」


「2人で行くのですか?」


「あぁ。せっかくだから、テッケンさんも呼んで、成人組全員で行けたらと思いまして」


「その方が良いですね。一度だけ少し遠くに行きましたが、モンスターの強さは段違いでした。装備もスキルも足りないのでしょう。1人じゃお手上げですよ」


 まさか、そこまで強かったとは思わなかった。ポーションもいくつか用意しておいた方がいいか。


「テッケンさんへの連絡は、私がやっておきますよ」


「そうですか? じゃあお任せします」


「準備含めて2日後にしましょー。その日はテッケンさん空いてると言ってました」


「おぉ! それならちょうど良いですね!」


 じゃあ、それまでに金策してポーション買っておこう。

 ふふふ。釣りが出来ると思うったら、ニヤつきが止められないな!

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