第29話 薬屋の洗礼

 チュートリアルをやった諸君なら覚えているだろう。

 回復の時に飲まされたポーション。

 激苦臭汁の存在を。


 親方に教えられて行った店が薬屋。

 店構えからして、とても雰囲気がある。

 外観は赤い屋根の洋館で、煙突からモクモクと虹色の煙が排出されている。


「うーん。今回は辞めたほうが良い気がするな」


 反転して帰ろうとするが、見えない壁に阻まれて、出られなくなってしまった。

 まさかの物理的な封鎖で、怪しい館に入らなければいけなくなった。


《薬屋初回訪問イベント:ポーションを探せ! が開始されました。》


 まさかのイベントか。

 扉をノックしても返事無し。

 開けて中を覗くと、広めの展示スペースがあって、綺麗に整えてある。


「外観と比べるとかなり清潔感があるな」


「いーらっしゃい」


 声の方へ振り向くが、誰もいない。


「こっちだよ!」


 どこだ!?

 全方位探しても人影無し。

 まさかゴーストか。


「目の前だよ!甲冑着てるでしょ!」


 確かに甲冑はあるが、置物じゃないのか?

 しげしげと眺めていると、急にガシャコン音を立てながら動き出した。


「ほら!ちゃんと動くんだよ」


「おぉ。まさか人が入ってるとは思いませんでした」


「ようこそ薬屋へ。君は初めてだよね?」


「そうですよ」


「それなら説明しないとね。こっちに来て」


 誘われるがままついていくと、広めのカウンターに案内される。甲冑が、裏から小瓶をいくつか取り出すと、5本を横並びにした。


「まずはポーション瓶。」


 それぞれの効能ごとに瓶の形を変えるルールとなっており、故意に変えて売るとペナルティが掛かるらしい。しかも名称表記も無い。つまり自力で鑑定するか、飲んで確かめるしか無い。


「じゃあ、この中からポーションを見つけて」


「いきなりですか?」


「残念ながら教えても理解出来ないの。がんばって」


 1つ1つ眺めるも、1ヶ月以上前に見た瓶の形なんて覚えてない。

 蓋を開けて匂いを嗅いでみる。


「うわ。青臭い」


 次々と嗅いでいくが、若干香りは違うものの、全て青臭くてわからなかった。


「結局、飲むしか無いんだよね。みんなやることだから、諦めて飲んじゃいなよ!ほーら、いっきいっき!」


 今時そんなんやったら、パワハラ一直線で委員会が黙っとらんぞ。


「ふぅ…。いきます」


 1つ目の瓶を飲み干すと、喉奥に甘みと痺れが蔓延する。意外と味は良かったので飲めたが、体が動かなくなってしまった。


「今のは麻痺薬、狩りで使えるやつ。今治すね」


 甲冑に液体を掛けられ、数秒すると徐々に動くようになる。


「ひどい目にあった。まだ続けるんですかぁ?」


「やらないと覚えられないよ」


 まさかロシアンルーレットをやらされるとは。いや、全部1人で飲むから、ルーレットじゃないか。

 次の瓶は清涼飲料水みたいな味。さっきも美味しかったから身構えたんだけど、特に変化なし。


「それは、魔力ポーションだね。おいしいでしょ?」


「確かに美味しかったです」


「魔力の回復効果があるんだ。回復量は個人差があって、魔力が多い人ほど多く回復するよ」


 だとすると割合回復なのかな?


「数分は効果が続くから、飲むなら早めの方が良いかもね」


 違った、持続回復効果か!

 魔力無くなってから使っても間に合わないな。

 次の奴は。


「ぐぅ!」


 味は魔力回復と似ている。その中に微量の苦味が加わった程度で、そのまま飲み込めてしまったが、急激にHPバーが減り始める。


「わわ!えい!」


「危ねぇ。死ぬ所だった」


「今のは毒薬だね。耐性が無いとかなり痛手になるんだ。先に言っておくと、次のは大丈夫だから飲んじゃって」


 言われるまま口に含むと、知ってる味。


「あぁ、この臭み覚えてる。回復ポーションだ」


「そそ。体力回復ポーションだね」


 HPが半分まで回復したので、続けて隣も飲む。

 この味はリアルで飲んだことがある。筋肉痛になった時に香る風味。


「なんでルートビア…」


「ん?それは毒消し薬だよ。ちょっと癖あるけど、はまると美味しいんだ。僕もおやつによく飲んでるよ」


 毒消しがおやつってどうなんだ?

 一応全部飲み終わったけど、なんとも無いな。


「実はあと1つあるんだ」


「えぇ?だったら最初から出しておいて良かったのに」


「ちょっと準備が必要なんだよ。こっち来て」


 個室に案内されると、周りには十字架やら色々飾られている。

 神々しい像まであって、それが返って恐ろしい。


「最後のポーションがこれなんだ」


「うっ」


 瓶の形は毒消しに近いが、外からでもわかる色合い。

 どこからどう見てもヤバい紫色。


「これ持って、まだ開けないでね。良いって言うまで待っててよ!」


 そう言って俺に渡すと、ガシャコン鳴らしながら、いくつもの瓶と十字架を抱えて戻ってきた。


「さぁ、飲んで!」


 これを飲むのか?


「ささ、ぐいっと!」


 震える手を押さえつつ、一気に飲み干す。


「ぐぉぉぉ!」


 喉奥が焼ける!世界が回っている!

 めっちゃ気持ち悪い。

 立ってられず、横になるしかなかった。


《ポーション6種が判明しました。以後、ポーションの種別が表示されます。》


「きたきたー!大地と風の神に奉納致します。この者に回復の兆しをお与えください」


 甲冑の声は届いているが、それよりも視界の気持ち悪さが勝っていて、吐きそうになる。

 地面が光り出すと、徐々に気持ち悪さも治っていった。


「おっえ。まだ視界がぐらついてる」


「おつかれさまー!準備必要だったでしょ?」


「確かに必要だった。2度と味わいたく無いけどね」


 展示スペースに戻ると、手に取ったポーションがしっかりと表示される。

【体力ポーション】


「実は、粉薬と湿布もあるんだけど…」


 おう。

 天を仰ぐしか出来なかった。

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