第25話 誕生日会

 今、俺達は戦場へ向かっている。


「お? あの人誕生日じゃないか? 祝ってあげよう」


「やめとけ!」


「なんでだよ。誕生日は祝うってルルブにってたろ?」


「あれは『釣りカス連合』の奴だ」


「まさか……あれが釣りカス」


「俺達とは世界が違うんだ。そっとしてあげよう」


 俺ら『釣りカス連合』は、ラブ掘でもかなり有名になったものだ。

 俺らが向かっている場所は、校舎裏のプール。


 辿り着くと、すでに準備は整っているようだ。


「皆さんお集まりですね? 本日はよろしくお願いします」


「主役が来たので説明しよう。スナイパーハッチ氏に頼む景品が決まった。」


 釣り会だと、誕生日の者が一品だけ提供するという習わしがある。それは金銭の絡まない商品。そのため、おのずとゲーム内のアイテムか、リアルの小物になってくる。


「今回は『寝テラ』の雑貨を要望する権利だ」


 まさかその方向で来たか!


「我々釣り人の中でも、ハッチ氏が一番生産出来るからな。全会一致で決まったぞ」


「そういうことなら良いでしょう」


 バッ!っと腕を突き出し、着ていたマントを旗めかせ、開始の合図。


「これより30分!数は関係ない! 大きさのみを競う! さぁ、存分に釣りたまえ!」


「「「開始だぁーー!」」」


 参加者が一斉に飛び出し、配置に着くと、各々独特なフォームで釣り出した。

 このフォームが問題で、寝そべる者から箱に隠れて釣る者まで。

 独自の縁起を担ぎながら竿を投げ出している。

 そして、その日の最多釣果に権利がある大漁旗。

 この異様な光景を見た、一般プレイヤー達は、中に入ることなく回れ右。一応言っておくが、誰一人として拒否していない。むしろ新しい釣り人はニワカだろうと大歓迎だ。


 お?

 アランのそれ巨メダカ来たか!?


「アランがついに釣りやがったか!?」

「おぉ! このタイミングで、逃すんじゃねーぞ!」

「タモ持ってこいタモ!

「バカがこのゲームにそんなものは無いぞ」


 あちこちで騒いでいるが、手伝いも出来ないので見ているしか無い。

 良いぞ!あと少しで頭が出てくる!

 来た!


 


「よ、良かったじゃないか!」

「そう……だよな!」

「いやぁ。ナマズが来ちゃったか」

「おい!」


 先日のアップデートで1種追加されたナマズ。こいつも一応レア枠だが、それなりの頻度で出るらしい。残念だったなアラン。

 どんどん目から光が消えていき、無言で釣り始めるアラン。

 周りも触れないように、持ち場に戻り釣り直し。


 結局誰も巨メダカは釣れなかったため、アランが優勝となった。


「まぁ、作れる範囲でがんばるから、気を取り直してくれ」


「あぁ。今度希望を伝えるよ」


「お、おう!」


 これで解散。

 と言っても次があるからな、アランは疲れたようでここで終わると言っている。


 次は『釣りゾンビ』か。


 ◆◆◆


 寂れた廃墟が乱立し、草木の生えない地面。

 この退廃世界が『釣りゾンビ』の世界。

 正式名称は『Riot to carry』暴動する菌。


「アラン。呆けてないで準備しろ。すぐにキノコ共がやってくるぞ!」


「わかってるよ」


 俺の愛用品は、SR−25。セミオートなので、狙撃厨にニワカと言われているが、そもそも釣り人なので気にして無い。

 これの便利なところは弾数20発と多くて便利なところ。狙撃中に近づかれても持ち替えずに撃てるところが良い。ただし、懐にダメージがでかい。

 持ち替えの余裕がある時は、ハンドガン。個別名称無しの初期装備。

 近接武器は軍用シャベル。何気にこいつを一番使ってるよな。弾代かからないし。


 近づいてくるゾンビ共を倒しつつ、目的地へ向かっていく。

 倒したゾンビからキノコを回収するのも忘れない。

 このキノコが現金に換えられるので、ゾンビ=キノコと呼んでいる。


「ハッチ! こっちこい!」


 そう呼んでくるのは、ユニオンリーダーの伊勢さん。


「みんないつ来るかと待ってたんだよ」


「お待たせしてすみません」


「今日は敵対ユニオンも参戦するから、平和なもんだよ」


 伊勢さんの指先には、俺達『ポセイドン』の敵対ユニオン『オーケアニデス』がいる。


「ハッチの誕生日パーティーって聞いて来てやった」


「「「「おー!」」」」


 2年程前から、なぜか誕生日だけは、互いに祝うという決まりが出来ていた。先ほどとは違って、今回は俺も参戦できる。

 ルールは簡単で換金額最多の者が優勝。

 優勝者の権利は、金額の総取りもしくは、願い事一つ。

 願い事は、内容によっては却下されることもある。


「ハッチ! お前が合図出せ!」


 伊勢さんが角笛を投げ渡してくる。


 プオォォォォ!


 一斉に走り出す……ことなく、各々の道具に仕掛けを作っていく。

 俺はシャベルの首にワイヤーを繋げて、途中に風船の浮き、先端に針をつける。人によりバールだったり、ハンマーだったり色々だ。

 釣り竿が無いので、代替品を使うのが基本。これが釣りのチュートリアルで、AIに教えられたやり方なんだよな。


 最初に釣り上げたのは敵のユニオンリーダーであるステュクスさん。


「まずは一匹! ランク1か……つぎぃ!」


 ランク5まであって、数字が高いほど高価になる。

 俺も頑張っているが、なかなか釣れない。

 沼地に投げる者、地面に投げる者、俺は空に投げている。

 沼は毒魚が釣れやすく、地面だとゾンビ魚と骨魚、空はエイが釣れる。


「ハッチも空なんか狙って! なかなか釣れんだろう!」


 そう、空は高ランクが多く釣れにくい。


「今日は記念だから良いんだよ」


 




 残念ながら小ぶりなエイが1匹だけ。


「よっしゃあぁぁぁ! あたしが優勝だな!」


「くっそぉ。あとちょっとだったんだが……」


 今回はステュクスさんが高かったみたいだな。


「あたしの願い事は、『寝テラ』でハッチの村に招待してくれ」


「ドワーフ村に? そんな機能ありましたっけ?」


 最近の追加アップデートに入ってたらしい。自分のホームポイントに招待出来るが、1人招待すると1ヶ月間招待出来なくなる。

 まさかテレポートで飛んでこれるか? と思ったが、そこまで便利ではない。

 ただし、案内された者は、危険地帯も素通り出来て、安全に移動出来る。


「お前の配信見たら、人族の街じゃ成長遅いと思ってな。雑貨屋のリリーさんに弟子入りしたい」


「そういうことなら了解です。明日には招待送りますね」


「よっし!」


 こんなことで喜んで貰えるなら来て良かったよ。


「みんな誕生日釣り会参加ありがとー!」

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