第48話

抜け殻の様に脱ぎ捨てられた自分は滓でしかないのだろうか。


足蹴にされ横たわる視界の隅に、一面の闇の中、赤ん坊が「おぎゃあ」と無表情に口を開き、別の赤ん坊が「おぎゃあ」と返す。


二人が、四人、八人、十数人、何十人……何百人……


「おぎゃあ」と云う度に赤ん坊が何処からとも無く沸いて出た。


否、見えていなかっただけで元から居たのだろう、大音量の「おぎゃあ」の主達。


おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあと喚き続ける彼等が、恐らくは部屋の大きさを物理を無視した数になった彼等が、空間を一面、何重にも重なって埋め尽くす。




一人の赤ん坊が、此方を向いた。


他の赤ん坊を押し退け手を伸ばし、這い寄って来る。




他の赤ん坊達が




一斉に




此方を




向いた。




赤ん坊達が、手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を伸ばして来る。




身体中、頭も顔も目も腕も足も胴も何もかも思考さえも赤ん坊のその白い芋虫の様な手で指で埋め尽くされる。




一人の赤ん坊の指が、唇に、掛かった。

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