第47話

動こうと身じろぎすると、不意に髪が後ろから引っ張られた。


顎が、顔が、上を向く。


否、上なのか? 本当に其れは「上」なのか?


髪を掴んだであろう赤子の姿は、見えない。


闇しか見えない。


果たして闇とはなんぞやと問うことなかれ。


物質のような闇。


無機質のような闇。


感情の渦のような闇。


希望のような闇。


その全てのようで、全く違うようで。




……とぷん……




あの時と同じ音がした。


此の建物に入って直ぐ、扉が閉まった時と同じ音がした。


音は、自分の体内から発したようだった。


上を向かされたままの口が


決して開けられない筈の口が


柔らかい何かのように、人の口のように押し開けられ、中から、白い物が這い出ようとしていた。


白い、幼虫にも似た其れは、指のようだった。


極限を越えて真上を向いたその口から、白く輝く手が、手首が、肘が、続いてもう片方の手のひらが、赤子の頭が、まるで脱皮のように、 ず る り と這い出て来ようとしている。


壊れるかと壊れたかと思う程の、裏返ったかと思えた程の、此の人形である身体より余程大きな其れは、抜け殻を脱ぎ捨てるかの様に足蹴にすると、完全に、其処に、存在、して、いた。

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