第46話

待って……と伸ばしたつもりだった手が、空を切る。


待って……と挙げたつもりだった声が、喉の奥で詰まる。


二人が扉の向こうに消えたと同時に、世界が闇に包まれる。


真暗闇の中、自分の顔に触れようとする手すら見えない闇の中。


音も何もないのに何かで埋め尽くされて居るかの様な闇の中。


痛い程の静けさ。


上も下もわからないその空間の中、不意に小さく、猫の鳴き声が聞こえた気がした。


……にゃあ……


小さく遠く聞こえた其れは


……おぎゃあ……


次第に


……おぎゃあおぎゃあ……


近くはっきりと


……おぎゃああああおぎゃああああ……


大きく


……おぎゃあああああああおぎゃああああああ……


上から


……おぎゃあああああああああああああああああ……


下から


……おぎゃあああああああああああああああああ……


右から


……おぎゃあああああああああああああああああ……


左から


……おぎゃあああああああああああああああああ……


四方八方から


……おぎゃあああああああああああああああああ……


割れんばかりの大音量へと




おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ




変貌していった。




空間を埋め尽くす、大量の、大量の泣き声。




ふと


声が止む。




真闇の中、赤子が、隣に、真横に、居た。


左右の目が、目玉だけが、何かを探す様にぐるぐると動き回り、ピタリと止まった後、




ぎょ ろ り




と、此方を、見た。




目が、合った。




口が 動く。




「 お ぎゃ あ 」

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